東京藝術大学のオケ、藝大フィルが今年没後50周年となるコダーイの代表的な曲を採り上げるということで、聴きに行きました。
藝大フィルハーモニア管弦楽団
(東京藝術大学奏楽堂)
指揮:ティハニ・ラースロー
ツィムバロム:サボー・ダーニエル
(ツィムバロムによるプレ・コンサート)
作曲者不詳/マロシュセーク地方のダンス組曲
作曲者不詳/モルドヴァ地方の歌と踊りの曲
コダーイ/《ガラーンタ舞曲》
コダーイ/組曲《ハーリ・ヤーノシュ》
ストラヴィンスキー/バレエ音楽《火の鳥》(1945年版)
9月27日(水)のことですが、パーヴォ・ヤルヴィさんとN響の素晴らしいバルトークを聴いて、アフターでハンガリーのお酒を楽しんで、すっかりハンガリーモードに。大好物のウニクムを味わいながら、コンサートでいただいたチラシを見ていたら、藝大のオケによるコダーイの演奏会を見つけました。しかも、タイトルに今年はコダーイの没後50周年とありました。そうだったんだ!
これはもう聴きに行くしかありません!
しかし、この日はもともと夜に別のコンサートのチケットを取っていました。時間は重ならないものの、移動を考えると、かなり微妙な時間帯。迷いましたが、前半のコダーイだけでもぜひ聴きたいと思い、チケットを取りました。本当は後半のストラヴィンスキーも聴きたかったのですが、やはり時間的に厳しく、結局、後半は泣く泣く断念しました。本当に申し訳ない…。今度、何らかの形で取り返します。
まず、プレコンサートとして、ツィムバロムの独奏がありました。リスト音楽院から来られたサボー・ダーニエルさんによる素晴らしいツィムバロム!民族楽器の音色は郷愁を誘うものがあります。ツィムバロム、好きだなあ。
1曲目はマロシュセーク地方のダンス組曲、とてもリズミカルで激しいダンスの曲、サボーさん、見事なツィムバロムです!ツィムバロムのバチは鉄琴などよりも柔らかそうなので(どことなく、猫じゃらしに見えます、笑)、弦をピンポイントで叩くのはとても難しそうに思えますが、サボーさんはいとも簡単に的確に弦を弾いていきます。
2曲目はモルドヴァ地方の歌と踊りの曲。最初は叙情的な音楽を聴かせます。抒情的なツィムバロムもいいですね。しかし、後半はやっぱり激しいリズムに(笑)。サボーさんのバチ捌きが冴え渡ります!素晴らしい演奏でした!
私はツィムバロムには一つ思い出があります。初めて行ったハンガリーの首都ブダペスト。年末に行きましたが、ツィムバロム6台を含む100人のジプシー楽団によるジルヴェスターコンサートを聴きました。どうやら年末のブダペストの恒例の大きなイベントのようです。100人の民族衣装を着たジプシー楽団と一番前に6台のツィムバロムがずらっと並んだ舞台はもう圧巻!民族音楽やクラシックの曲など、全体的にジプシーの激しくスリリングな演奏を楽しく聴きました。
1階席はパリのオペラ・コミークのように食事のテーブルが並びますが、途中、気分が高じたのか、お酒が進んだのか、年配の女性が前の方に出て、曲に合わせてチャールダーシュ?を踊り始めました(笑)。また、プロムスのように、観客なのに前に出てきて指揮を始める方も(笑)。とても微笑ましい光景でした。
さて、本番のコンサートの方ですが、最初はコダーイのガラーンタ舞曲。冒頭の弦の響きでさっそくコダーイの世界に引き込まれます。そして、クラリネットの郷愁を誘う見事なソロ!その素晴らしい音色が沁みまくって、ハラハラと涙がこぼれます…。クラリネットという楽器の素晴らしさを改めて実感できた瞬間でした。ティハニさんはこれぞジプシーの音楽!という的確な指揮。小節の頭を強調したり、フレーズの最後をタップリ溜めたり、非常に雰囲気のある指揮でした。最後の勢いのある音楽もリズミカルで素晴らしい!
次はハーリ・ヤーノシュ。この曲は2014年の年末に、ベルリン・フィルのジルヴェスターコンサートで聴きました。その時は世界中へのテレビ放映が入り、メルケル首相も聴きに来るためか、4曲目の「合戦とナポレオンの敗北」をカットして演奏していました。ラ・マルセイエーズのパロディの音楽なので、政治的な配慮だと思われます。今日は6曲すべて聴けるので楽しみです。
1曲目は前奏曲、おとぎ話が始まる。最初の動き出しの音階はバルトーク/管弦楽のための協奏曲と似ています。盛り上がった後の長い静寂が心地良い。2曲目はウィーンの音楽時計。メルヘンチックで大好きな曲です。速すぎず、このくらいのテンポがちょうど良い。ベルリン・フィルの音楽時計は、それこそ10年経っても1秒たりとも狂わないような(笑)ぴっちりした演奏でしたが、藝大フィルの、いい意味でこのくらい遊びのある演奏の方が、ウィーンの時計には似合っていると思いました。3曲目は歌。冒頭のヴィオラの素晴らしいソロ!そしてツィムバロムの何とも言えない切ない音色!最後、弱音で鎮まるところがとても綺麗。
4曲目は合戦とナポレオンの敗北。金管のみなさんとサックスがとてもいい感じ。改めて実演で聴いたところ、そんなにフランスに対して失礼ではないようにも思えますが、それだけ気を遣っているということでしょう。5曲目は間奏曲。オケの中で細かくリズムを刻むツィムバロムが印象的。ツィムバロムがオケに溶け込んだり、浮かび上がったり、変化も楽しいです。弦が溜めるところも決まります。間奏曲、好きだなあ。ラスト6曲目は皇帝と廷臣の入場。金管と打楽器群が大活躍。壮大に盛り上げて見事な演奏!このオケ、本当に上手い!
めっちゃ雰囲気のある素晴らしい演奏!指揮者がハンガリーの民謡の節回しやジプシーの音楽を熟知した、ハンガリー人のティハニさんということもあるとは思いますが、決して贔屓目でなく、私には、サイモン・ラトル/ベルリン・フィルのハーリ・ヤーノシュより、ティハニ・ラースロー/サボー・ダーニエル/藝大フィルのハーリ・ヤーノシュの方が好みかつ感動的でした。
ハーリ・ヤーノシュ、やっぱりいい曲ですね!この曲は組曲ですが実はオペラもあります。いつかぜひオペラで観てみたいものです。
学生さんたちのオケ、多分、生まれて初めて聴きますが、とてもいいものですね。もちろん、技術的なところはプロのオケの方に一日の長があるのはやむを得ないですが、それでも相当レベルが高いです。そして情熱は決して負けていません。なにしろ、大きな大きな感動を与えてもらえたのがその証拠。音楽は技術的なことももちろん大切ですが、エモーショナルな部分が大きい、私はそう固く信じています。
学生さんたちによる素晴らしいコダーイを聴けて、素敵な時間でした!コダーイ没後50周年にコダーイの代表的な2曲を聴くことができ、大いなる喜びを感じたコンサートでした!
(写真)ブダペストのコダーイ・ゾルターン記念博物館。コダーイがかつて住んでいた住居を博物館にしています。コダーイがいかにハンガリー各地で民謡を沢山収集したか、よく分かる展示内容でした。バルトークにハンガリー民謡を教えたのもコダーイです。