先週のベルワルドとベルリオーズに続いて、ヘルベルト・ブロムシュテットさんとN響の定期、ベートーベンのプログラムを聴きに行きました。マリア・ジョアン・ピレシュさんの引退公演のコンサート、しかと聴き届けましょう!

 

 

NHK交響楽団第1883回定期演奏会Cpro.

(NHKホール)

 

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

ピアノ:マリア・ジョアン・ピレシュ

 

ベートーベン/ピアノ協奏曲第4番ト長調

(アンコール)

ベートーベン/6つのバガテルから第5番ト長調

 

ベートーベン/交響曲第4番変ロ長調

 

 

前半はそのピレシュさんのピアノ協奏曲第4番ト長調。この曲は冒頭ピアノから入ります。何と澄み切った美しい弱音!一気に曲に引き込まれました。ブロムシュテットさんはピレシュさんの冒頭のテンポを引き継いだ入り、その後は抑揚を付けたメリハリのある指揮です。

 

再びピレシュさんのピアノ。透明感のある、見事なまでにピュアで真摯なピアノ。その一音一音に非常に魅了されます。ピレシュさんの引退公演という状況をどうしても意識してしまうのは否めませんが、純粋にその演奏を聴いて極めて感動的。というのも、この第1楽章の曲想と、ものの見事に合うピアノだからです。どこのフレーズがとは言わず、第1楽章途中でもう涙涙でした…。

 

またブロムシュテットさんの指揮が抜群にいい!ピレシュさんのピアノに優しく寄り添うような指揮。聴いていて、長年連れ添った老夫妻のような印象を持ちました。昔はドラマティックな恋愛もしたけど、今はカフェで仲良くお茶を飲んでいるだけでもしっくり馴染んで絵になる老夫婦、そんな印象を持った演奏でした。

 

素晴らしい第1楽章。続く第2楽章は72小節の短い楽章ですが、ピレシュさん、ここで短調の意味深いフォルテ。こんなにも厳粛で重みのある楽章だったのか、ということを気付かせてくれます。第3楽章はこの優しく幸せ感に満ちたピアノとオケのやりとりが、いつまでも続かないかなと、とても名残惜しく聴きました。

 

 

かのベートーベン弾きの大家、ヴィルヘルム・バックハウスは晩年、協奏曲ではこの4番ばかり弾いていたと聞いたことがありますが、今日のピレシュさんの演奏を聴いて、その理由がよく分かるような気がします。曲のイメージをあざやかに伝え、この4番がいかに名曲であるかを知らしめた、類い希なるピアノでした!

 

 

アンコールはベートーベン/6つのバガテル第5番ト長調。何かピレシュさんの人生の回想を思わせるような、味わい深い演奏で極めて感動的。NHKホールのあちこちからすすり泣きが聞こえてきました。ピアノ協奏曲第4番といい、ト長調というのは、ハ長調とはまた別の、何か凜とした気品をたたえた透明感、そして長調ですが、そこはかとない寂しさを感じさせます。ピレシュさんのピアノ、これで引退してしまうのは本当に惜しい限りです。

 

 

後半はベートーベン/交響曲第4番。ブロムシュテットさんは冒頭から緊張感に満ちた指揮。切れ味、キビキビ感、メリハリ、はみ出さんばかりの勢い、ニュアンス、N響から演奏する喜びやエネルギーが大いに伝わってくる、ものの見事な4番です!

 

この活き活きとした素晴らしい演奏を聴きながら思ったのは、先週聴いたベルワルドとベルリオーズのこと。両者とも、ベートーベンの音楽を発展させて、独自のユニークな音楽を展開、その点が非常に印象に残りました。

 

(参考)2018.4.14 ヘルベルト・ブロムシュテット/N響のベルワルド&ベルリオーズ

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12368699339.html

 

その元となるベートーベンの音楽は、ある意味、ベルワルドとベルリオーズに比べると、その時点での一定の様式、間尺の中での音楽になると思います。しかも4番は他の有名曲に対して、どちらかと言うとマイナーな曲。その4番でこれだけ感動的な音楽が聴けて、改めてベートーベンがいかに凄いかを思い知りました!(と同時に、その4番ですら、冒頭の不思議な調性やファゴットの活用など、新しい試みがいろいろあることにも唸りました。)

 

 

首席指揮者がパーヴォ・ヤルヴィさんになってからのN響は感動的な演奏が多いですが、今日のブロムシュテットさんとピレシュさんとN響のベートーベン・プロは、ここしばらくで、最も印象に残る感動的なコンサート、正に神演奏でした!いや~、非常にいいもの聴きました!これだから、コンサート通いは辞められません!

 

 

 

(写真)マリア・ジョアン・ピレシュさんが生まれ育ったポルトガルの首都リスボンの風景。

 

ここリスボンで、2008年12月にユニークなコンサートがありました。ベートーベンは1808年に交響曲第5番、第6番、ピアノ協奏曲第4番、合唱幻想曲の初演をアン・デア・ウィーン劇場で一晩に一気に行って、準備不足などもあり、大失敗に終わりましたが、その200周年の記念コンサート、1808年のプログラムを忠実に再現したコンサートです。

 

18:00に始まり、終演は23:00というマラソン・コンサート(笑)。第1部のトリがピアノ協奏曲第4番(セルジオ・ティエンポさんのピアノ)でした。第2部の指揮者はマルク・ミンコフスキさんで交響曲第5番などを演奏。コンサートは大成功、見事に200年前のリベンジを果たしていました!