「椿姫」「ジョン・ノイマイヤーの世界」と心の琴線に触れる最高に感動的な公演が続くハンブルク・バレエ団の来日公演。最後の「ニジンスキー」を観に行きました。

 

(参考)2018.2.2 椿姫(ハンブルク・バレエ団)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12350178758.html

 

(参考)2018.2.7 ジョン・ノイマイヤーの世界(ハンブルク・バレエ団)

 

ハンブルク・バレエ団2018年日本公演

ニジンスキー

ジョン・ノイマイヤーによるバレエ

 

音楽:

フレデリック・ショパン

ロベルト・シューマン 

ニコライ・リムスキー=コルサコフ

ドミトリー・ショスタコーヴィチ

 

振付・装置・衣裳:ジョン・ノイマイヤー

 

◆主な配役◆

 

ニジンスキー:アレクサンドル・リアブコ

ロモラ:エレーヌ・ブシェ

ブロニスラヴァ・ニジンスカ、妹:パトリシア・フリッツァ

スタニスラフ・ニジンスキー、兄:アレイズ・マルティネス

ディアギレフ:イヴァン・ウルバン

エレオノーラ・ベレダ、母:アンナ・ラウデール

トーマス・ニジンスキー、父:カーステン・ユング

タマラ・カルサーヴィナ:シルヴィア・アッツォーニ

レオニード・マシーン:ヤコポ・ベルーシ

 

【ダンサーとして役を演じるニジンスキー】

『謝肉祭』のアルルカン:アレクサンドル・トルーシュ

『ばらの精』:アレクサンドル・トルーシュ

『シェエラザード』の金の奴隷:マルク・フベーテ

『遊戯』の若い男:ヤコポ・ベルーシ

『牧神の午後』の牧神:マルク・フベーテ

ペトルーシュカ:ロイド・リギンズ

 

内なる世界でのニジンスキーの象徴、ニジンスキーの影:

アレイズ・マルティネス、アレクサンドル・トルーシュ

 

 

ヴァスラフ・ニジンスキー。伝説の踊り手であり振付家。牧神の午後の二次元の踊り、春の祭典でも革新的な振付を行い、ストラヴィンスキーの革命的な音楽と合いまって、初演は大スキャンダルになったことでも有名です。そのニジンスキーの人生をテーマにしたバレエ。とても楽しみです。

 

※以下に感想を綴りますが、このバレエは登場人物が多かったり、ニジンスキーの内面の倒錯する世界を描いていたり、極めて複雑で、さらに観た後に感動して飲みに行ってしまったので(笑)、場面の描写が一部ズレていたりするかも知れません。その点、ご容赦いただければ幸いです。とにかくもの凄いバレエで、一度観ただけで、とても把握できるようなものではありませんでした!

 

 

 

第1部。開演の10分前くらいから、舞台に置かれたグランド・ピアノが弾かれます。シューマンにショパン。とてもいい前奏ですね。プロローグはスイス、サンモリッツのホテルのホール。客が入ってきますが、ピアノの音楽に思わずご夫妻で踊り出したり、いい感じ。そこに突然、ニジンスキーの絶叫が響き、ロモラ(ニジンスキーの妻)が動揺しつつ登場します。

 

ニジンスキーの登場は神々しく神秘的ですが、集まった客も拍手をしていいのか逡巡するくらい、ただならぬオーラを発します。ガラ公演でも観た、ショパン/前奏曲第20番ハ短調の音楽による踊り。非常に奇抜で斬新な踊り、最後は自らの拳を口に入れるような象徴的なエンディング!これには客はどう反応したらいいか分からず、まばらな拍手。

 

次にシューマン/「ウィーンの謝肉祭の道化」から『幻想的情景』の音楽に合わせて、古典的な道化のバレエを踊ります。コミカルな振付も入り、これには客が大受けで拍手を送ります。前の独創的な踊りが理解されないニジンスキーの悲哀。途中、2人の水兵さんが加わって踊ったのは、レニーに心酔するノイマイヤーさんのこと、きっとバーンスタイン/ファンシー・フリーへのオマージュですね!

 

これらはニジンスキーの最後の公演、ニジンスキーが「神との結婚」と呼んだ公演の場面の再現です。そして、舞台が暗転し、客の拍手が消え、一人大きな拍手を送る人物が忽然と現れます。ニジンスキーの宿命の存在、恋人(男同士)でもあるディアギレフです。!ここから、ニジンスキーのバレエ・リュス時代の回想シーンへと突入します。何という、ワクワクドキドキする展開!

 

 

まずリムスキー=コルサコフ/シェエラザードの第1楽章「海とシンドバットの船」の音楽に乗って、シェエラザードの場面となります。金の奴隷の踊りは、ニジンスキーがディアギレフかロモラかの間で揺れ動く印象的な踊り。最後、ロモラを選択したニジンスキーでしたが、いつの間にかディアギレフに捉えられていました。

 

次にショスタコーヴィチの白鳥の歌であるヴィオラ・ソナタ第3楽章の音楽に合わせて、ニジンスキーの家族、すなわち、父、母、兄、妹との踊りとなります。家族愛も十分見せますが、ショスタコーヴィチの悲壮感の漂う音楽もあり、複雑な家族関係を見せます。

 

そして、ニジンスキーとロモラが出逢う場面となります。ここで流れる音楽が、シェエラザードの第3楽章「若い王子と王女」!しかも、ニジンスキーとロモラに加えて、あの「牧神の午後」の白黒模様の牧神が出てきました!最近、バレエ・リュスの映画を観たばかりなので、めちゃめちゃ親近感が湧きます。もう牧神、大活躍!ロモラと踊るシーンが多かったですが、私は牧神がロモラに愛をたきつける、「愛の精」的な存在だったと思いました。

 

(参考)2018.1.26 映画/バレエ・リュス(パリ・オペラ座バレエ・リュス100周年記念公演)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12348223544.html

 

牧神が両手を下に揃えた独特のポーズで出てきて、ロモラと踊り、またそのポーズでゆっくり去って行く。あの「牧神の午後」ではニンフの愛を得られなかった牧神が、ちょっとお茶目な感じで、ニジンスキーとロモラの愛を盛り上げる。これが「若い王子と王女」の清らかな音楽と相まって、非常に感動的なシーンでした!

 

牧神が十分に愛をたきつけ、ニジンスキーとロモラが情熱的に踊るシーンでは、牧神が「牧神の午後」の冒頭のシーンのポーズ(岩場で横になり笛を吹くポーズ)を取って「いや~、ひと仕事したな~」と言いたげだったり、途中、ニジンスキーがロモラのヴェールで戯れようとするのをロモラが「それはやめとけ」と言わんばかりに止めたり(注:「牧神の午後」では最後、牧神がヴェールを愛する行動を取る)、ウィットに富んだ素晴らしいシーンでした!

 

そしてニジンスキーとロモラの結婚の場面はシェエラザードの第4楽章のクライマックス。祝福するように、いろいろなバレエの愛のシーンが出てきて、牧神が金のニンフと仲良く踊るシーンもいい感じ。しかし、最後は何と、ロモラは牧神と、ディアギレフはダンサーたちに囲まれ、ニジンスキーただ一人残されてしまいます!そして、冒頭の客間のシーンに戻り、スローモーションの中、客に紛れていた軍人たちが倒れる印象的なラスト!

 

 

 

第2部。ニジンスキーの子供時代から入ります。子供のニジンスキーはダンサーが作る枠の中から抜け出せなかったり、耳が聞こえないポーズを繰り返したり、手を上に上げて救いのポーズを取ったりします。音楽はショスタコーヴィチの交響曲第11番。にガラ公演で一部分を観た時は、第1楽章最後と第2楽章、第3楽章だったので、それを踏襲するのかな?と思っていましたが、何と、第1楽章冒頭から入りました!

 

第1楽章の後半の風雲急を告げる音楽の場面では、軍服を羽織ったダンサーが出てきて、戦争の気分を煽ります。ニジンスキーの家族を含め、いろいろな家族が固まって出てくるも、それを戦争の気分を伝える音楽が断ち切って、みな舞台に倒れてしまいました!何と、そこに現れたのがペトルーシュカ!作品「ペトルーシュカ」では人形である自らの悲しみの踊りを踊りますが、倒れた多くの人間の悲しみを代弁するような悲痛な踊りを踊ります。涙を誘うシーン…。

 

続いて第2楽章。ガラ公演では、ここで兄が狂気の踊りを踊っていましたが、今日は内なる世界でのニジンスキーの象徴とニジンスキーの影の2人のダンサーがともに狂気の踊りを踊っているように見えました。この辺りは、登場人物が多くて、しかもニジンスキー役が何人もいるので、把握するのが大変でした…。

 

そして、「血の日曜日事件」の音楽のシーン。軍服を羽織った男性のダンサーが多数出てきて踊るシーン。もう大迫力、ガラ公演に続いてでしたが、これは何度観ても興奮します!2回目で分かったのが、前列左で踊っていた白黒の衣裳のダンサーはペトルーシュカだということ(人形すら狂気に飲み込まれてしまう戦争の恐ろしさを体現)、一番前で踊っている女性は戦争の犠牲者や悲劇を伝える存在というだけでなく、春の祭典のいけにえの女性でもある、ということでした。そのいけにえの女性、踊りながら十字を切ったり、自分の内臓を取り出すようなポーズをしたり、非常に印象的な踊りです。

 

そして、一連の狂気の音楽が終わり、軍服のダンサーたちが舞台に倒れた後、何と、「ペトルーシュカ」の登場人物であるバレリーナがディアギレフと出てきました!ひとしきり踊った後、バレリーナ→ペトルーシュカ→ディアギレフと3人並びますが、そこでニジンスキーがペトルーシュカと入れ替わる味のある演出!しかも、その後、バレリーナとディアギレフの2人が踊ってどこかへ行ってしまい(ディアギレフはムーア人を思わせる)、ニジンスキーだけ一人残される悲しい結末…。

 

 

第3楽章はガラ公演と同じくニジンスキーの妻のロモラによる人間性を回復させるような温かみのある踊り。ニジンスキーは舞台左奥に行こうとしますが、ロモラは押しとどめます。背景では戦争の犠牲者が次々とその舞台左奥に去って行くので、ニジンスキーが行こうとしているのは、あの世なんですね。途中、ロモラがニジンスキーを台車に乗せて運ぶシーンは、うすい灰色の舞台、奥に戦争の犠牲者が右から左に移動する背景も相まって、非常に美しいシーン。

 

第4楽章。冒頭のホテルの舞台に戻り、軍服のダンサーが大声で笑って踊る狂気のシーン。よくよく観ると、ペトルーシュカも牧神も軍服を着ています!その狂乱の中をロモラがニジンスキーを乗せ、何とか安全なところへと台車を引くシーンは感動的。しかし、戦争の狂気はニジンスキーを容赦なく襲います。ここら辺は、第2楽章に続いて、第4楽章の勢いのある音楽と踊りが融合して、非常に見応えのあるシーンでした。

 

途中、音楽が高まって消え、再び第1楽章の回想の音楽。ここで家族が出てきてニジンスキーを慰めます。涙を誘うシーン。しかし、あのファゴットとクラリネットの地を這うような旋律から、最後の鐘のシーンに突入。何と、ニジンスキーは黒と赤の長い絨毯を引いて、十字架を作りました!そして、最後、鐘が連呼される中、その絨毯の十字架を自らの体に巻き付け、両手を広げ十字架のポーズを取って終わりました!第1部の冒頭はニジンスキーが「神との結婚」と呼んだ公演なので、ショスタコーヴィチの鐘が宗教色を高る中、それを実現した圧倒的なラストでした!

 

 
 

いや~、凄い!すご過ぎる!もう度肝を抜かれまくりました!そして、何と言う感動!椿姫、ジョン・ノイマイヤーの世界と、立て続けに、もの凄いもの観てきましたが、またしても、とてつもないものを観ました!何より、ショスタコーヴィチの交響曲第11番全曲(80分)をカットなしで音楽に使って、ものの見事にニジンスキーの内面の世界を踊りで見せたことがすご過ぎる!!!ニジンスキーの人生を回想で描いたバレエ、めちゃめちゃ感動的でした!

 

 

ハンブルク・バレエ団の3公演、心の底からの感動を覚えました!ジョン・ノイマイヤーさんがどれほどの天才なのか、まざまざと見せつけられたとともに、それをバレエで強烈に伝えるダンサーのみなさまも凄い!今回の来日公演は大大大成功ですね!公演に携わられた全てのみなさまに感謝感謝です!

 

このような偉大なバレエを生み出すハンブルク、めっちゃ行きたい気分です!(これまた分かりやすいフラグが、笑)

 
 

 

(写真)ニジンスキーの第2部、ショスタコーヴィチ交響曲第11番第3楽章に合わせてニジンスキーとロモラが踊るシーン

※購入したプログラムより