2日(金)の椿姫がめちゃめちゃ感動的だったハンブルク・バレエ団の来日公演。今度は「ジョン・ノイマイヤーの世界」と題したガラ公演を観に行きました。

 

 

ハンブルク・バレエ団2018日本公演

ガラ公演〈ジョン・ノイマイヤーの世界〉

振付・演出・語り:ジョン・ノイマイヤー

 

-第1部-

 

「キャンディード序曲」(『バーンスタイン・ダンス』より)

ロイド・リギンズ、菅井円加、有井舞耀、コンスタンティン・ツェリコフ、フロレンシア・チネラート、アレイズ・マルティネス、ほか

 

「アイ・ガット・リズム」(『シャル・ウィ・ダンス?』より)

シルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアブコ、ほか

 

「くるみ割り人形」

ロイド・リギンズ、フロレンシア・チネラート アレクサンドル・トルーシュ、アンナ・ラウデール カーステン・ユング、ほか

 

「ヴェニスに死す」(トーマス・マンの小説に基づく)

ロイド・リギンズ、カロリーナ・アグエロ、アレクサンドル・リアブコ

 

「間奏曲」(『オルフェウス』『シルヴィア』『オデュッセイア』『アーサー王伝説』より、神話の登場人物たち)

アレクサンドル・リアブコ(オルフェウス)

パトリシア・フリッツァ(ディアナ)、菅井円加(シルヴィア)

エドウィン・レヴァツォフ(オデュッセウス)

ロイド・リギンズ(アーサー王)

 

「ペール・ギュント」(ヘンリック・イプセンに基づく)

アリーナ・コジョカル、カーステン・ユング

 

「マタイ受難曲」

ロイド・リギンズ、ダリオ・フランコーニ、ほか

 

「クリスマス・オラトリオⅠ- Ⅵ」

ロイド・リギンズ、ルシア・リオス、パク・ユンス、ワン・リズホン、菅井円加、ヤコポ・ベルーシ、ほか

 

-第2部-

 

「ニジンスキー」

ロイド・リギンズ

ニジンスキー:アレクサンドル・リアブコ

ロモラ:エレーヌ・ブシェ

スタニスラフ:アレイズ・マルティネス

ブロニスラヴァ:パトリシア・フリッツァ

ほか

 

「ハムレット」(サクソ・グラマティクスおよびウィリアム・シェイクスピアに基づく)

アンナ・ラウデール、エドウィン・レヴァツォフ

 

「椿姫」(アレクサンドル・デュマ・フィスの小説に基づく)

アリーナ・コジョカル、アレクサンドル・トルーシュ

 

「作品100-モーリスのために」

アレクサンドル・リアブコ、イヴァン・ウルヴァン

 

「マーラー交響曲第3番」

シルヴィア・アッツォーニ、カーステン・ユング、ほか

 

 

私は通常バレエのガラ公演を観に行くことはありません。パ・ド・ドゥなどの見せ場を集めたものでなく、物語が流れで完結する全幕ものを観たいからです。バレエの踊りの技術的なことはよく分からないので、バレエの踊りそのものを楽しみたい、というより、あくまでも物語・音楽・踊り・舞台などのセットによる、トータルの芸術作品を堪能したい、という趣旨です。

 

それにも関わらず、この公演を観に来たのは、ひとえに演目にレナード・バーンスタインへのオマージュを感じ取ったからです。使われる曲が、冒頭がバーンスタイン/キャンディード序曲、最後がマーラー/交響曲第3番なんです!さらに、椿姫を観た時に購入したプログラムには、何と!アメリカ人であるジョン・ノイマイヤーさんご自身が少年時代からバーンスタインに心酔していた、とありました!楽しい公演になりそうです。

 

 

 

「キャンディード序曲」

まずジョン・ノイマイヤーさんご自身のナレーションで”Dance, dance, dance…”、それに日本語で「踊り」「踊れ!」「舞踊」などがコラージュされた印象的な導入。続いてキャンディード序曲が始まりました。バーンスタインの曲に合わせたバレエ!曲に合って勢いの良い踊りで、ワクワクします。

 

この話、拙ブログで何回書いたか分かりませんが(笑)、以前に聴いたミュンヘン・フィルのジルヴェスターコンサートでは、キャンディードとクネゴンデの2重唱「幸せな私たち」の旋律(レーミレドシラドシ♪)のところで、聴衆のドイツ人のやや強面のおじさんが、メロディがしみて涙していましたが、今日は私がここの音楽と踊りに感動して涙しました(笑)。最近、早いのなんの。

 

後半のクネゴンデのアリア「着飾ってきらびやかに」の旋律(シーソーシッソミシー♪)の軽快な音楽の場面では、音楽に合わせてアキレス腱を伸ばすようなリズミカルな踊り。これなら私も踊れそう!(笑)背景はニューヨークの摩天楼、雰囲気十分でした。

 

 

「アイ・ガット・リズム」

タキシードを着たダンサーによる、楽しい踊りでした。時計を模したような動きがユニーク。音楽はもちろんガーシュウィン。そう言えば、ガーシュインのミュージカルはまだ観たことがありません。最初の2作品を観て、めちゃめちゃニューヨーク行きたくなりました!(フラグ?)

 

 

「くるみ割り人形」

ノイマイヤーさんがバレエを習い始めた喜びを「くるみ割り人形」に託して振り付けたバレエです。くるみ割り人形はコンサートでは聴くことがありますが、バレエは本当に久しぶり。やはりチャイコフスキーの音楽はバレエによく合いますね。

 

 

「ヴェニスに死す」

音楽はマーラー交響曲第5番第4楽章でも、ブリテンのオペラでもなく、バッハです。アッシェンバッハを振付家に見立て、振付という芸術行為を男女の踊り手と共に示す踊りでした。

 

 

「ペール・ギュント」

こちらも音楽はグリーグではなく、委嘱されたアルフレート・シュニトケによるものです。非常に幻想的な舞台、まさかこのガラ公演にもアリーナ・コジョカルさんが出演するとは思っていませんでした!とても可憐で綺麗、絵になる踊りでした!

 

 

「マタイ受難曲」

何かよく分からないけど、凄いものを観た!という踊りでした。宗教劇?それとも群像劇?途中、仲間外れにされた男性が延々と踊る場面がありますが、いたく感動的。衝突、赦し、連帯など、さまざまな感情がよぎります。凄いとは思ったものの、マタイ受難曲やキリスト教のことを理解していないと十分には分からない、奥深い振付だと思いました。

 

 

「クリスマス・オラトリオⅠ-Ⅳ」

こちらの方は祝祭感溢れる躍動の踊りでした。最後、菅井円加さんの弾ける笑顔の踊りが素晴らしい!いずれにしても、バッハの合唱曲はマタイ受難曲を含め、もっと勉強しなくちゃですね…(どこの場面の音楽か…、さっぱり分からず、笑)

 

 

 

「ニジンスキー」

第2部はニジンスキーから。まずショパン/前奏曲20番ハ短調の音楽で、ニジンスキーが奇抜な踊り。そして、「第一次世界大戦の恐怖、兄スタニスラフの狂気、自らの革命的な振付」のナレーションが入ると、何と!そこで流れ始めた音楽はショスタコーヴィチ/交響曲第11番!

 

第1楽章の最後から入り、第2楽章冒頭の音楽とともに、ニジンスキーの兄スタニスラフの痙攣するような狂気の踊り!そして第2楽章の「血の日曜日事件」の音楽の場面では、軍服を羽織った多数の男性ダンサーが暴力的な踊り!舞台の前で一人の女性があらゆる悲劇を伝えるような印象的な踊りも踊ります。

 

後半は舞台右脇からニジンスキーが”One, two, three, four…”と大声で叫びます。これ、もしかして、「春の祭典」の初演が、ストラヴィンスキーの音楽やニジンスキー振付の踊りの斬新性から観客が大騒ぎとなり、オケの音が踊り手に聴こえなくなったので、ニジンスキーが拍子を大声で叫んだという、大スキャンダルの初演の逸話の再現ではないでしょうか?非常に印象的なシーン。

 

続いて第3楽章が流れ、ロモラ(ニジンスキーの妻)による人間性の回復を表すような踊り。第3楽章後半、一瞬の長調の高まりで期待感をもたらす場面ですが、意外にもニジンスキーによる再び狂気の踊り!ニジンスキーはロモラを暴力的に扱う踊りを繰り返します。この場面の音楽は第2楽章の回想も入るので、戦争のトラウマが災いしているのか、はたまたニジンスキーに内在する狂気が蘇ったのか。とても見応えのあるシーンでした。
 

ニジンスキーは最後耳に両手を当てて「音楽が聴こえない!」とアピールするようなポーズ。これは鐘が大いに鳴る響く勝利の第4楽章の音楽への希求なのでしょうか?ロモラの引く台車に乗せられて退場するニジンスキーも印象的。ショスタコーヴィチ11番のバレエ。狂気の音楽と狂気の踊りが一歩も引かない凄すぎる融合!とにかく、もの凄いもの観ました!

 

(参考)2017.11.7 アンドリス・ネルソンス/ボストン交響楽団のショスタコーヴィチ11番

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12326508475.html

 

 

「ハムレット」

ノイマイヤーさんはシェークスピアを題材にした作品にも積極的に取り組まれてきました。ハムレットとオフィーリアの踊り。音楽は交響曲第4番が有名なマイケル・ティペット。この後のミレイ「オフィーリア」の絵のシーンがシンクロします。オフィーリアが切ない…。

 

 

「椿姫」

2日(金)に感動の公演を観ることができた椿姫。しかも、再びその時のアリーナ・コジョカルさんとアレクサンドル・トルーシュさんのペア!感動の踊りを再度観る喜び!第2幕、アルマンの父親が登場した後、愛を確かめる場面。音楽はショパン/ピアノ・ソナタ第3番第3楽章です。

 

2回目を観て、これは二人だけの結婚式?という印象も持ちました。ピアノはこの日は録音ですが、ここは生のピアノの方がやっぱりいいと思いました。改めて2日に2時間以上ピアノを弾いたミハル・ビアルクさんとオンドレイ・ルドチェンコさんに感謝です。

 

(参考)2018.2.2 椿姫(ハンブルク・バレエ団/振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:ショパン)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12350178758.html

 

 

「作品100─モーリスのために」

ノイマイヤーさんは同じ振付家のモーリス・ベジャールさんと親交があり、ベジャールさんの70歳の誕生日のために作られた作品です。音楽はサイモン&ガーファンクル。2人の男性ダンサーが最初は舞台に1脚置かれた椅子を奪い合うような踊りをしますが、お互いを認め合い、とうとう椅子を舞台の外へ。二人の同志でバレエ界を盛り上げていく友情の踊りです。

 

洋楽は全く疎いですが、2曲目の「明日に架ける橋」は聴いたことがありました。私は今回、ノイマイヤーさんの振付に痺れっぱなしですが、もともとベジャールさんの振付が大好きなので、この踊りは感慨深く観ました。

 

(参考)2017.9.8 春の祭典(東京バレエ団/振付:モーリス・ベジャール)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12308990811.html

 

(参考)2017.12.25 映画/ダンシング・ベートーベン(振付:モーリス・ベジャール/音楽:ベートーベン第九交響曲)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12339228878.html

 

 

「マーラー交響曲第3番」

ノイマイヤーさんの「ダンスとは、愛するがゆえに行う仕事なのだ。」のナレーションから音楽が始まります。マーラー/交響曲第3番第6楽章「愛が私に語るもの」。私は「マーラーの交響曲で一番好きな楽章は?」と問われたら、9番の第1楽章、第4楽章たちと悩んだ上で、この3番の第6楽章を挙げることでしょう。音楽の出だしでもう涙が出てきます。

 

ノイマイヤーさんの役のダンサーが打ちひしがれて倒れていますが、女性に起こされます。女性の献身的な愛。男女の感動の踊り。しばらく音楽を聴いていると懐かしい心地に。旋律の歌い方、アクセントの付け方、ルバートの息づかい。これはレニーのマーラーではないでしょうか?実現はしなかったものの、ノイマイヤーさんはこのバレエの初演を当初レニーに依頼したそうです。ならば、この演奏もレニーの指揮で間違いないでしょう。

 

多くの男女のダンサーが出てきて、音楽に合わせたひたすら感動の踊り。最後の短調の悲愴の盛り上がり、悲しいフルートの場面でノイマイヤーさん役のダンサーは再び倒れますが、その後の崇高なトランペットの音楽とともに再び、女性の愛により助け起こされます。背景では多くの男女のカップルが銘々に様々な振付。まるで男女の様々な愛の形を表しているのかのようです。

 

最後、それまでノイマイヤーさんを助けてきた女性はいなくなり、ノイマイヤーさん役のダンサーと、ノイマイヤーさんご本人が抱き合った後に選手交代。ラストは舞台奥に一人佇むノイマイヤーさんご本人が、第6楽章ラストのダブルティンパニの響きに合わせ、舞台を通り過ぎる一人の女性ダンサーに、愛情を注ぐシーンで終わりました。突き抜ける感動!もう涙でボロボロ。人生でバレエを観て一番泣いた日!

 

 

またしてもハンブルク・バレエ団の素晴らしい公演でした!特にバーンスタインの曲に振り付けたバレエ、バーンスタインへの尊敬の念や親愛の情も感じさせる、レニーの指揮による(多分)マーラー3番のバレエは極めて感動的でした!バーンスタイン生誕100周年の今年、非常に印象に残る思い出になりました。ジョン・ノイマイヤーさん、ハンブルク・バレエ団、本当にありがとうございます!

 
 

 

(写真)私のマーラー/交響曲第3番ニ短調の愛聴盤、レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィル(新盤)。素晴らしい作曲家及びマーラーの名著を残されている柴田南雄さんにして、レニーがとうとう「パルナッソス山の頂点に立った」と言わしめた名盤です。ちなみに、レニーの3番は他にニューヨーク・フィルの旧盤、ウィーン・フィル盤(DVD)がありますが、いずれも名演で感動的です。