渡も、一緒にトリノに行くよね?


ジョバンニは夕食の席で、渡の目を見つめながら心の声を伝えました。


「ジョバンニ、話をして伝えなさい。」


ベネデッタに注意をされて、ジョバンニは話し始めました。


「マンマ、ワタルも一緒にトリノに行っていいでしょ?


ワタル、トリノに行ったことある?」


ジョバンニはベネデッタと渡を交互に見つめました。


「いや、ないよ。トリノに行ったことはないよ。北の町だよね。きっとこの辺りとずいぶん雰囲気が違うんだろうね。」


渡は、ベネデッタの様子をうかがいながら、トリノに行くとも、行かないとも言いかねていました。

修道院の談話室で、ジョバンニとキスしていたところをベネデッタに見られた時、


彼女は特に驚いた様子を見せませんでした。


でも、本当はどう思っているのか、ベネデッタの落ち着いた横顔からは何も伝わってきませんでした。


「ジョバンニ、ワタルはあなたと遊んでばかりはいられないわ。」


ベネデッタの言葉を聞いて、やはり彼女は談話室でのことを気にしているのだと思ったのです。


ジョバンニと、俺のことをどう考えているんだろう・・・。


俺をジョバンニから遠ざけようとしているのだろうか。


渡は自分でも信じられませんでした。


ジョバンニは、特別なんだ。


彼が女の子だったら、きっともっと素直にいろいろと表現することを憚りはしない。


ジョバンニに対する自分の気持ちは本当だけど、こんな気持ちになることが、信じられない。



「マンマ、僕はワタルが好きなんだ。もう絶対離れたくないんだよ。


だから、トリノにも一緒に行っていいでしょう?」


ジョバンニはなにも臆することなく、ストレートにそう言うと、ワタルもベネデッタも唖然としてしまいました。



「あの・・・、ジョバンニ、僕は、ローマで片付けなくちゃいけないこともあるから、


トリノには行けない。」


渡はジョバンニの目が見られませんでした。


目を見られたら、きっと本心から言っているのではないと、ばれてしまう。


「ワタルを困らせてはいけないわ、・・・ジョバンニ。ワタルはローマですることがあるのよ。」


ベネデッタは、渡自身から、トリノには行かないと言ってくれてほっとしました。


「わかった。」

ジョバンニは、小さな声でそう言うと、あっけないほど素直に引き下がりました。


「どうして、2人とも心を遠ざけるの?どうかしたの?」


ジョバンニはベネデッタも、ワタルも互いにけん制し合っているのを感じていたのです。



「ベネデッタさん、ジョバンニ、僕は今夜、修道院に宿をお願いしました。


もう9時になるし、修道院に行きます。」


これも、ウソでした。でも、修道院に電話をすればきっとジョバンニの元の修室に泊めてくれるに違いないと思いました。


素直に自分の気持ちを表現するジョバンニ、その真っ直ぐさに戸惑って、


俺は逃げようとしているんだ。


自分から、あんなことをしておきながら!




うそついてる、渡、なんでうそつくの?


ジョバンニの心の声が鋭い針のようにチクリと胸に突き刺さりました。


「とにかく、今夜は、修道院に行くよ。明日また会おう。」


渡は、明るい声で言いました。



違う、帰るつもりでしょ!


渡、明日はそのままローマに帰る気だ!



「ジョバンニ、落ち着いてよ。そんなことないよ。」


渡はドキドキしてしまいました。逃げ出したい気持ちになっていたのは本当のことだから。


ベネデッタの警戒する目が時々、探るようにこっちを見ている・・・・。



「マンマ、僕はワタルと一緒にトリノに行くよ!


だって、僕はワタルと、ひとつなんだもの。


離れられないんだ!」



「ジョバンニ!・・・ワタルを困らせてはだめ。マンマも困らせないで。」


ベネデッタは落ち着いた低い声で言いました。



渡はジョバンニに、また明日と言って、外に出ました。



日があるうちはまだ暑いくらいだけど、夜になると本当に風が冷たい、渡は修道院の方に向かって歩き始めました。


ジョバンニの中にある激しさが時々ちらりと顔を出すと、なんだか恐ろしくなる。


常識とか、もしかしたら法とかも、超えてしまいそうで。



今は、少し距離を置かないと、自分でも冷静でいられなくなる。


頭に上った血を、冷たい夜風がさましてくれるように。





ベネデッタはジョバンニの中で、まだくすぶっている気持ちがあるのを感じ取っていました。


「ジョバンニ、あなたはワタルのことが好きなのね。お兄さんみたいだものね、ワタルは。」


「マンマ、お兄さんみたいなのは、トニーの方だよ。ワタルは、僕の友だちなんだ。」


「そう。・・・、寝る前のお祈りを一緒にしましょう。


聖書を開いて・・・。」



マンマ、僕は渡と一緒にいると、とてもうれしくて幸せなんだ。


一緒に音楽をしていると、まるでひとつに溶けてしまうようにうっとりする。


渡のためなら、どんなことでもしたくなっちゃう。



ずっと渡と一緒にいたい。



こんな気持ちになったのは、初めてなんだ。



渡も今頃、きっと悲しんでいる。


僕の気持と響き合うんだ。



息子の目が伝えてくる想いには、憶えがある・・・、それはわたしがアンジャンに抱いた想いと、同じ。


誰に何と言われようと、それが悪いことだと後ろ指を指されようと、止められない。


どんなに恐ろしいことに手を染めようとも、変わらないこの想い。


あの厄介な熱情の血が、この子の中にも脈々と流れているのだろうか。




ベネデッタは確かめるように、ジョバンニに言いました。


「そういう気持ちは、・・・ただ、好きだという気持ちとは、違うと思うわ。」



ジョバンニは自分の胸から声が帰ってくるのを待つように、


ただ胸に手を当てて、うつむきました。





つづく・・・