2019年にLINEノベルの総合ランキングで1位を獲得した作品です。
 タイトルからして、明らかにドラ〇エです。主人公は商人(トルネコ?)。

 主人公は「冒険の序盤は、初期装備からコツコツと…って、それおかしいじゃん!」と、突っ込んでいるのです。
 これは、最近はやりの「転生もの」ではありません。ということは、こうした世界システムに、世界内のある人間が気づいた、ということから始まる物語です。

●あらすじ
 主人公は、商人見習いの「マル」です。

 世界には魔王が存在し、魔族と人類は敵対しています。そのため、各国からは随時、「勇者」が選定され、パーティーを組んで魔王討伐に向かいます。過去200年以上の歴史の中で、魔王が討伐されたのは3度だけ。そして、勇者パーティーが無事生還することは、一度もありませんでした。
 「マル」は、パラグラという城下町の武器屋に勤めています。ここパラグラは、世界各地にある「出発の町」のひとつで、選定された勇者が、仲間を選び、武器や防具をそろえ、魔王討伐を始めるのです。
 しかし、マルは常々疑問を持っていました。「うちの武器屋では。なぜ銅の剣までしか売っていないのか?」

 より強い武器や防具があれば、序盤の冒険もずいぶん楽になる。お金の節約もできる。「バスタードブレード」や「ドラゴン殺し」といった武器があることは知っているので、武器屋として仕入れておけば、絶対需要はあると思っています。ですが、そのことを店主に訴えても、頑なに仕入れようとはしません。理由を問い正しても、「商人ギルド本部の方針」と言うだけです。その通達も、ギルドの支部を経由するので、本部の場所は明らかではないというのです。

 そうしたある日、マルのただ一人の身内で弟の「バツ」が、勇者に選定され、1週間後に、魔王討伐のため出発することが決まります。マルは、自らの疑問を本部にぶつけ、勇者(弟)の旅が有利になるよう、商人ギルドの支部を遡って、本部に向かうことを決意するのでした。
 

 行く先々で、バツは様々な商人に出会います。同時に、先物取引や麻薬販売、戦争をしかけようとする者や魔族を使った奴隷制度などに遭遇し、それらのいくつかを瓦解させる手伝いをしながら、商人ギルド本部を目指します。
 

 そして、ついにギルド本部にたどり着いたマルは、なぜ町によって武器販売が限定されているのかを知るとともに、世界の秘密を知ることになります。そして、マルはある決断をするのでした。

●感想

① 「ラノベ?」いやいや、経済の仕組みが学べます。

 ゲーム序盤の町では、初級の装備しか手に入らず、物語が進むにつれて、売られている装備も強くなっていきます。ゲームでは、当たり前の設定です。
 ゲームをやっているときは考えたこともありませんでしたが、これが世界の仕組みだとするならば、なぜそうなっているのか。その結果、どんなメリットがあるのか。そうしたシステムが必要な世界とは、どのような仕組みでそうなっているのか。中の人が疑問に思うと、どんあ行動するか…。

 

 販売場所や品物が、大きな組織によって指定されているのですから、ある意味、「閉じた経済」であり、「共産的社会」とも言えます。
 

 しかし、主人公の発想は「自由経済」。

 

 読者は、マルの考え方に賛成するのか反対するのか、はたまた両立できるのか。答えを示すというよりは、問題提示してくれる作品です。

② 失敗は自己責任か?

 商人のマルは、多くの損失を出して失敗し商人や、麻薬中毒になった者、貧富の差や奴隷制度など、社会の様々な矛盾に出会います。
 そうした矛盾や問題を解決するためには、逆にもっと大きな問題が生じかねない事態は数多くあります。だったら解決しない方が…?

 

 いや、マルだったら恐らく諦めないでしょう。

 どんな状況でも諦めず、疑問を止めず、改善策を考え続けることで、解決できる問題もあるのでは…、と思わせてくれる作品でした。