タイトルで勝手に「存在感の薄いいじめられっ子が、自分の気配を消して学校生活を送る話」だろうと思いこんでいました。
何故か?
中田永一さんのデビュー作、『百瀬、こっちを向いて』を知っていたからです。
本作は、大学を卒業した主人公が、故郷への里帰りのとき、高校時代の先輩に出会ったことから、かつて気になっていた「百瀬」という女子高生との顛末を思い出すという、青春の1ページの回想といった物語だったからです。きっと、本作も似たような甘酸っぱいボーイ・ミーツ・ガールだろうと思っていたら、ちょっと違っていました。
ちなみに、『百瀬、こっちを向いて』は、早見あかりさんが主演で2014年映画化されました。彼女を観たいためだけに映画に行ったのを思い出します。
では、本作はというと、「ライトな超能力系の短編集」です。
6編の短編が収められており、いずれも少し不思議なライトノベル風SFといった感じです。
「少年ジャンパー」
容貌の醜さでいじめに遭い、ひきこもっていた少年が、「家人に気づかれないようトイレに行きたい」という強い願いから、テレポーテーションに目覚めます。
そして、あわや列車事故に遭わんとする女子高生(彼氏持ち)を助けたことから、1個上の彼女との交流が始まる、ほろ苦いお話です。
「私は存在が空気」
本作がSFだと?とタイトルから誤解してました。
父の暴力から逃れるため、家の中で存在感を消す努力をしていたら、「自らの存在を周囲から消す」能力を身につけた女の子が主人公。
高校の時に、友達が暴漢に襲われ、引きこもってしまった事件を、能力を使って解決します。こちらは、ガール&ガールといったところです。
「恋する交差点」
スクランブル交差点でぶつかった男性のカバンと自分のカバンの取っ手同士が、「量子トンネル効果」でつながったことから恋が生まれる話。(わずか6ページ!でも面白い!!)
「スモールライト・アドベンチャー」
ある日、家に届いたなぞの懐中電灯の光を浴びて小さくなった少年が、そのことを利用して、気になっている同級生の女の子のスカートの中をのぞこうと(しょうもなっ!)、愛犬の背に乗って彼女の家に行ったところ、その子の誘拐事件に巻き込まれるという話。明らかに、ドラえもんの秘密道具ですね。
「ファイアスターター湯川さん」
おんぼろアパートに越してきたパイロキネシス(発火能力)を持つ湯川さんと、学生(兼管理人)の交流と、彼女の能力ゆえに巻き込まれた事件の顛末。
パイロキネシス能力者が活躍する話は、宮部みゆきの『クロスファイア』と『鳩笛草―燔祭/朽ちてゆくまで』の「燔祭」に登場する青木淳子がいますが、そっちは重くて暗い。こっちはちゃんとハッピーエンドです。
「サイキック人生」
一族全員が「物を動かせる透明な手」を持っているが、クラスメートからは天然さをからかわれている女の子。友達を見返そうと、クラス内に自分の能力を使った(見せかけの)心霊現象を起こしますが、だんだん事がおおきくなっていく話です。
いずれも、ほっこりしたり、ちょっぴり切なかったりするお話ばかりですが、何より文章や物語の構成、キャラクターの描き方がうまいなぁと思いました。
それもそのはずで、今回調べてびっくりしましたが「中田永一」さんって、「乙一」さんの別名義だそうなんです。
乙一さんと言えば、ちょっと不思議なちょっとダークな短編で有名だったため、全然結びつきませんでした。(ちなみに、ホラー小説化の「山白朝子」さんも別名義だそうです。)
そもそも、「読んだけどハズレ」という心配が全くない人でした。
こんな風に、タイトルで誤解していて読まないでいた本が、実は面白かったりすると「ちょっと得した感」があって良いものです。