掟上今日子シリーズ第14作目。

 今日子さんinニューヨークです。今回は、ニューヨーク市警のリバルディ警部とキャステイズ警部補が、手裏剣や兵糧丸といった、忍者が使う小道具が関与した殺人事件に遭遇します。忍者と言えば日本人と考えた彼らに、折しもセントラルパークで不審な日本人女性が目撃されたという情報が入ります。さっそく、聞きこみにいったところで、今日子さん(不法滞在中)と遭遇し、事件の解決に導かれるという3編の連作となっています。
 

 今回の、目玉(と個人的に考えているの)は、「掟上今日子」=「羽川翼」です。「羽川翼」と言えば、同じ作者による『化物語』シリーズのヒロインの一人で、なんでも知ってる(本人によれば「何でもは知らないわよ。知ってることだけ。」という)セリフで有名です。
 そもそも、この説は『掟上今日子の備忘録』(シリーズ第一作)のCMが公開された際、そのビジュアルの共通性から話題になっていたものです。ネット上でも以前から、白髪であることなどの共通性を指摘しているものがあります。
 

 本作には、警部たちの上司として、FBIのバーチ捜査官が登場しますが、彼の立場や会話の端々に「羽川翼」を思い起こさせる言葉が登場します。
 まず、彼の役割ですが、誰かが掟上今日子に会えば、その情報が即時に彼のもとに入るようになっているということで、今日子さんが国際的に重要視されていることを示しています。これは、「羽川翼」が高校卒業後、世界中を飛び回り、各国の紛争解決に尽力しているため、世界中から要人扱いされているエピソードと重なります。
 また、リバルディ警部が「俺たちは、知らないうちに虎の尾を踏んでしまったようだが―」と言ったのに対し、バーチ捜査官は「猫の尾と言った方が正確だろうね。」と返しますが、これは、「羽川翼」が猫の怪異である「ブラック羽川」だったことをほのめかしています。(まぁ、虎の怪異である「苛虎」でもあったので、訂正しなくても良かったのかも知れませんが。)
 
 話は変わりますが、『化物語』のセカンドシーズン スペシャルキャストトーク(DVDについてくる特典)で、出演声優であるヒロイン4人(斎藤千和、加藤英美里、沢城みゆき、堀江由衣)のトーク中、「羽川翼」役の堀江由衣さんが、著者である西尾維新さんに「羽川翼のその後の活躍として、「名探偵羽川翼」ってどうですか?」と提案していたことを話しています。本CDの発売は、2014年4月ですが、『掟上今日子シリーズ』の第一作は2014年10月です。著者の思惑と声優の思いが偶然一致したのか、この提案がヒントになったのか不明ですが、こんなところにも繋がりがあります。

 実は、それら憶測をひっくり返す作品を西尾さんは書いています。『混(まぜ)物語』という、一種のコラボ作品で、『化物語』の主人公、阿良々木暦が、著者の他のシリーズの登場人物と関わるという短編集です。
 その第一話(第忘話)が、「きょうこバランス」という短編です。作中の掟上今日子は25歳、暦は18歳と、文中にはっきり書かれています。これによって、ネット上では「掟上今日子」=「羽川翼」説を否定する根拠としていたり、「いやいや、パラレル・ワールドっしょ。」と一蹴していたりしています。

 私としては、「掟上今日子」は一つのシステムではないかと考えています。

 国際的に見過ごせない立場となった者が、自らの記憶(重要機密)を、常にリセットすることにより、存在を(国際的にも)認めてもらうために襲名するシステム。
 即ち、『混(まぜ)物語』の今日子さんは初代(もしくは先代)の今日子さんであり、その7年後に「掟上今日子」を継いだのが「羽川翼」なのではないか、というものです。

 本作の紹介そっちのけで、「掟上今日子」=「羽川翼」説を披歴してしまいましたが、西尾作品はどれも面白いですよ。ドラマも良かったけど、原作はやっぱり良いですよね。