1 『失われた時を求めて』とは
古典名著の中でも、長くて読むのが大変なことで知られるマルセル・プルースト:著『失われた時を求めて』です。「最も長い小説」として、ギネス登録もされているようです(by Wiki)。プルースト全集(井上究一郎:訳)の中でも19巻中10巻も占める大作です。
あらすじ本や、文庫3冊にまとめた抄訳本、全1巻にまとめた抄訳本、「『失われた時を求めて』を読む」なんていうのも出ていて、みんな読んでみたいけど大変そうだよな、と周りをぐるぐる回っているような作品です。
名作ですが、最初から評価されたわけではなく、ある出版社は「紳士たる者が、眠りにつく前にベッドで輾転反側するさまを描くのに三十ページを費やすということが理解できません。」と書き送って、プルーストを失望させた(本書、訳者前口上より)という話もあり、最初は自費出版でした。その後、フランスの権威あるゴングール賞を受賞する程、評価が高まっていきました。
語り手が、眠りに落ちる際の半覚醒状態から醒め、寝る前に読んでいた本や、周囲を取り巻く闇について、現在時刻について考えを巡らし、徐々に、様々な過去の思い出や思考に移ろっていきます。
2 『失われた時を求めて』を読むには
2013年に、光文社の古典新訳シリーズ(文庫:高遠弘美訳)で出版された本書の第1巻の中にある、訳者自身の「読書ガイド」を読めば、『失われた時を求めて』をどう読めばいいのかがわかります。
「プルーストを読むときは耳を澄ませ、行きつ戻りつしながら、ゆっくりと自分自身の時間を反芻し、自分を取りもどしつつ、譬喩をはじめとするプルーストの文章そのものによって幸福感を得る。これが重要だろう。」
3 『失われた時を求めて』におけるストーリー(筋)
本書では、「まだ読まぬうちからプルーストのあらすじを知ることは、そうした細部の輝きに目をつぶることになりかねない。私たちはあらかじめ知った筋を確認するために、プルーストの言葉をひとつひとつたどってゆくのではない。どうか、あらすじのことなど考えず、また、この読書を何かの役に立たせようなどと思わずに、ゆっくりプルーストを読む時間を作って頂きたい。」と述べています。
特に、冒頭の寝床でのだらだらは、筋を追いたい読者としては歯がゆい感じがします。「話が進まなねぇぇぇ!!!」っていう感じ。ですが、我々だって寝床に入ってすぐ眠れない時はこんな状態でしょう。その状態を文字に起こしたらこんな風ではないでしょうか。
確かに、『失われた時を求めて』は文章が長く、比喩が多く、現在と過去を行きつ戻りつし、一体何が言いたいんだぁぁぁ!?となってしまうことが多いかも知れません。
ですが、とにかくストーリー進行などに気を取られず、文章を極上の飴を舐めるようにゆっくり味わい、ただただ流れに任せて文章を追っていくと、その文章の美しさやきらびやかさと、当時のフランスの馥郁とした香りを感じて欲しいと思います。
『失われた時を求めて』は、様々な意味で、近代文学の幕開けを飾った作品です。『聖書』のように次代の作品に影響を与え続けているので、読んで損はないですよ。