2025年は高田さん豊作の年ですね。「図書館の魔女 エピソード0」(豊崎由美命名)である、『図書館の魔女 高い塔の童心』、フランスの対戦後の歴史と音楽史の知識に満ち溢れた『記憶の対位法』、そして「図書館の魔女シリーズ」の新作、『図書館の魔女 霆ける塔』。そして、本書が掉尾を飾るものとして登場。

 いや~、満足です。

 本書の舞台は日本。しかも『まほり』と違い、怪しさや怖さはありません。

 登場人物の会話も「なんでだよ!」といったツッコミや、漫才でいうところの「天丼」(同じボケの繰り返し)や、「現代ホームコメディ」っぽいやり取りが多用されています(ポケモンネタまで有り!)。一方で、
高田さん独特の博覧強記っぷりは健在。

●あらすじ(第一話「ディレッタント、近世を解く」)
 岩槻真理(いわつき・まり、28歳。東京の出版社の編集担当。超多忙)は、群馬県甘楽郡の山中にある、嵯峨野宅に向け、軽四駆を走らせています。そこに住む嵯峨野修理(さがの・しゅり、28歳。大学の非常勤講師:文献の考証を専門)は、真理の元夫です。実は真理は、別れた夫の家に、頻繁に訪問しているのです。

真理の目当ては嵯峨野妙(さがの・たえ、58歳。修理の母で、真理の母である汐路(しおじ)と女学校時代の親友)さん。修理との結婚前から、嵯峨野家と岩槻家は双方の母親が女学校時代からの親友で、片方が男性だったら求婚していたくらいの仲でした。自然、両家の交友は子どもたちにも及んだ結果、岩槻家の長女・真理と嵯峨野家の長男・修理が結婚したのでした。しかし、真理の激務に加え、修理の生活性の無さ(期限まで届けを出すとか、書類の処理ができない。また、頼めば何でもするが、頼まれないことは何もしない。親戚づきあいにも無頓着)が、結婚と共に露呈し、真理はストレスを抱え、修理に不満をぶつけます。しかし、修理の受け止め方はどこか他人事なため、真理のストレスは日ごとに増大していきます。そこで離婚となってしまったのですが、結婚前からつき合いの深い妙さんとの縁は切れず、どころかおいしい料理やもてなしで真理を甘やかすため、つい嵯峨野家に足が向いてしまい、結果的に修理とも顔を合わせることになるのです。また、修理が論文を出版するということもあるため、成行き的に真理が担当するなど、仕事上の関係もつながったままでした。
 ある日、真理の大学の後輩が、とある旅館の襖の下張りに貼られていた説話のようなものを見つけます。何か、仏教説話のようでもあり、地域伝承にも見えるその話の出典を捜しますが、見つかりません。伝手の伝手をたどるうちに真理の手に渡ったため、真理は「修理ならわかるのでは?」と、修理に見せたところ、彼はたちどころに回答を示します。しかも、さらなる物語の広がりを推理するのです。


●あらすじ(第二話「ディレッタント、言の葉を検める」)
 真理がいつものように嵯峨野家を訪問すると、修理から「古書店に出物があるので、車を出して欲しい。」と頼まれます。真理自身、出版業であるためか、ちょっとした辞書マニアということもあって、修理の足となる傍ら、自分でも掘り出し物を見つけます。

 自宅に戻ると、買ったものの中に辞書(と思われるもの)の正誤表がありました。どうやら修理の買った本に挟まっていたものが紛れこんだようなのですが、どう見ても手書きであり、しかも最初に大きく記してある辞書の題名と思しきものは、逆さに書いてあります。
 修理に返すついでに、その「手書きの正誤表」の意味を問うと、修理は文献学者の性(さが)といったものを解説してくれます。


●あらすじ(第三話「ディレッタント、奇書を読む」)
 真理には三歳下の妹、佐江がいます。佐江は、実は修理にぞっこんです。真理が結婚する前にも、佐江は修理に猛然とアタックしたのですが、修理は全く取り合わなかったという過去がありました。
 姉の真理が修理と離婚したのを見て、佐江は自分にもワンチャンとばかり、嵯峨野家を頻繁に訪問するのですが、離婚したはずの真理も、嵯峨野家へ足しげく訪問し、修理とも親しげに話しています。
 そのため、佐江は母の汐路に泣きつきます。こうして、
「どうしてお姉ちゃんと修理は公的に分かれたのにずるずると縁を切らないでいて、しかもいちゃいちゃしているのか、おかしくはないか」会議が、関係者出席の元、嵯峨野家で開催されたのでした。
 結局、この件はうやむやになるのですが、義侠心の強い母の汐路は、のらりくらりしている(ように見える)修理の「文献学」にケチをつけ始め、「文字になっているものなら何でも読む」んだったら…。ということで、発見から100年以上が経った今も解読されていない「ヴォイニッチ写本」(手稿とも言う)を読めと迫ります。
 修理はここで、「ヴォイニッチ写本」に対する、「文献学的仮説」を開陳するのでした。

●感想

 いつもながら、感心しきり。

 修理の「テキストがあって、辞書があって文法書があれば何でも読める」という姿勢には脱帽ですが、近世文学から謎の写本まで、知識が半端ない。
 しかも、体裁は普通小説。料理上手でおっとり美人の元姑の妙さんや、学者肌で生活力のない修理。修理にいまだに惚れている佐江や、仕事メインの真理。嵯峨野家のネコ達まで、魅力的な登場人物がいっぱいです。


シリーズ化、切に希望!(もっと読みたい!!)

 2017年『星の子』で第157回芥川賞候補、第39回野間文芸新人賞受賞。2019年『むらさきのスカートの女』で芥川賞を受賞した方です.

 『むらさきのスカートの女』はネットの書評に、「オレでも書ける。」というのがありました。確かにそうかもとは思う一方で、独特の味わいもある話です。

 それはさておき、『とんこつQ&A』は、4つの短編集です。

●「とんこつQ&A」あらすじ
 今川さんは、「とんこつ」という名の中華料理屋さんのパートで働いています。

 「とんこつ」は、豚骨ラーメンは出していません。そもそも、この店の名前は「敦煌」でしたが、知り合いの看板屋さんに依頼したところ、なぜかひらがなで「とんこう」にされ、その後「う」の上についている「、」が取れたのをそのままにしたのが定着した結果なのだそうです。
 「とんこつ」は、大将とぼっちゃん(9歳)で経営しています。大将の奥さん(坊ちゃんの母親)は、4年前に亡くなっています。

 

 主人公の今川さんは、極度のコミュ障で、「いらっしゃいませ。」どころか、「ありがとうございました。」も言えません。家で練習している時は言えるのですが、人前ではどうしてもできません。こんな状態ではお店に迷惑を…、と「退職届」を握りしめて出勤したある日、突然鳴った店の電話。電話に出ることすらできず、立ちすくむ今川さんに、ぼっちゃんは「書いてあるから!」と叫びます。見ると、電話の横に「ハイ、とんこつです!」と書かれたメモが貼ってありました。無事、電話に出られた今川さんは、自らの「応対マニュアル」として、「いらっしゃいませ」とか「ありがとうございました」とかのメモを作り、ポケットに忍ばせ、必要に応じて読み上げることで、接客ができるようになります。

 さらに、お客さんの不意の質問対応メモも作ります。例えば、「おすすめは?」に対して、「うーん、何でもおすすめですけど、一番よく出るのはやっぱぎょうざかなあ。」というようなメモを作り、ポケットに忍ばせます。いつしか、今川さんのポケットは、メモでパンパンになります。後にノートにまとめ、タイトルを「とんこつQ&A」と名付けます。
 その後、今川さんはメモ無しでもお客さんの応対ができるようになりますが、今川さんの上達と共に「とんこつ」も繁盛し、新しいアルバイトを雇うことになります。やってきたバイトは、丘崎たま美さん。彼女は、言われたことはゆっくりではあるけれど、確実にやりますが、言われなければ何もしません。しかし、それだけではなく出身地が大阪でした。大将とぼっちゃんも出身が大阪であったため、今川さんは二人から、丘崎さんのために「とんこつQ&A」大阪版を作って欲しいと頼まれます。今川さんは渋々引き受けます。そこから、怒涛の展開が待っているとも知らずに…。

●「とんこつQ&A」感想
 最近、生前のデータや写真を読み込ませて、AIで故人を再現する技術が生まれていますが、逆に生きている側が、その再現されたものに
依存してしまうといったことも起きていると聞きました。
 本作は、この読み上げメモ通りに行動していくうちに、それが感情をも寝食してしまうという「一種のホラー」といった感じでした。本作では、一番面白いですね。

●「嘘の道」あらすじ
 小学生の僕には一つ違いの姉がいます。姉の同級生に「与田正(よだ・ただし)」という少年がいました。彼はあまのじゃくな性格で、人と違うことを言っているうちに、「嘘つき」であるという評判が立ち、壮絶ないじめの対象になります。
 ある日、小学校全体の目標が「いじめをなくそう!」になると、状況は一変。与田正は、学校中の生徒からちやほやされ、構われる存在になります。しかしほどなく、学校の目標がまた変更されると、与田正は、再び前以上のいじめを受けることになるのでした。そんな中、僕と姉はとある出来事からひきこもってしまうことになるのです。

●「嘘の道」感想
 こちらは、SNSにおける手のひら返しと、自分の身にも起きるかもしれない恐怖という趣きです。

●「良夫婦」あらすじ
 土橋友加里(とばし・ゆかり)は夫と二人暮らしのパートタイマー。ある日、仲間から「タム」と呼ばれている、ガリガリの小学生と出会います。

 出会いがしら、タムのお腹が盛大に鳴ったことから、友加里は持っていたクッキーをあげたところ、ものすごい勢いで食べ始めました。その食べっぷりや痩せ方から、友加里は「タムは虐待されているんじゃないか」と考えます。

●「良夫婦」感想
 この次の話である「冷たい大根の煮物」も同様ですが、
「大山鳴動して鼠一匹」という感じ。何かが起きそうな予感だけを煽っておいて、「何も起きないんか~い。」という感想です。

●「冷たい大根の煮物」あらすじ
 高校を卒業し、一人暮らしを始めた水野さんが、工場で一緒に働いている柴山さんに借りパクされる話。

●「冷たい大根の煮物」感想
 すみません。ですが、本当にそれだけの話です。

 本作は、表題作が一番面白いのですが、そこからどんどん肩透かしになっていきます。独特の味がある作家なので、もっと頑張って欲しいなぁ。

 2021年に第1巻が発売され、2024年11月現在で第4巻が出版されています。
 

 長い!いえいえ、連作短編なので読みやすいです。(1巻当たり4話)
 

 「まよいいぬ」じゃなくて、「めいけん」読むのが正しいです。


 だとしたら、ポンコツ犬ってことか?


 いやいや、「迷い犬」にして「名犬」だから、「めいけん」で良いんです。しかも、名前が「マジック」!(ここまでで、本作の八割がたネタバレしてると言っても過言ではありません。)

 オムニバス形式で、後半に出てきた人物が、次の主人公になると言った進行です。物語が進んでくると、以前マジックに関係した人たちが登場し、「あっ、この人、この間出てきたな。」という楽しみもあります。

●あらすじ(第1巻の第一話)
 七山高生(ななやま・たかお)は、70歳を過ぎた一人暮らし。五年前に奥さんを亡くしています。15キロほど離れたところに長男(剛・つよし)夫婦と孫娘・せいら(4歳くらい?)が住んでいます。

 一人で家事や買い物を行っていますが、最近冷蔵庫の中身が思い出せず、バナナを買いすぎたりします。また、孫娘であるせいらの誕生日を忘れるなど、記憶力が落ちているという自覚もある上、長男からも「認知症検査」を受けるよう言われています。せいらからも「おじいちゃんはボケてきたんだよね。」と言わる始末ですが、頑固に検査を拒否しています。
 ある日、長男の剛と孫のせいらが訪れていた時、せいらが「おじいちゃん、犬がいるよ。」と言います。高生が行ってみると、赤い首輪をつけた黒柴っぽい中型犬が、玄関前に座っていました。犬の首輪には「マジック」と書かれています。

 せいらは、一目でマジックを気に入り、マジックを飼いたいと言いますが、剛の家は「焼き鳥屋」なので飼うことは出来ません。しかし、せいらは「おじいちゃんちで飼うっ!」と言って泣き出します。そこで高生は、マジックが迷い犬らしいことから、飼い主が見つかるまで高生の家で飼うことを提案します。
 ここから、マジックの「マジック効果」が始まります。マジックの散歩中にすれ違った普段話さない近所の人たちと、挨拶がてら話がはずんだり、孫のせいらがマジックに会いに、高生宅に泊まりに来るようになり、ギクシャクしていた長男・剛との和解が進んだり、散歩中知り合った人と釣りの話になり、一緒に釣りに行く約束をしたり…。まさしく、魔法のように高生の周囲が変化していきます。

 

 ある日、マジックは散歩の途中で、半ば強引に一軒の家に、高生を引っ張っていきます。「ここがマジックの飼い主の家か。」と思い、チャイムを鳴らし、家人と話しますが、「そんな犬、知らんよ。」と乱暴に言われてしまいます。訝しむ高生ですが、その後もマジックは、その家に行きたがります。

 マジックの執着に、ただならぬものを感じた高生は、意を決して…。

 一巻あたり4話なので、4人がマジックと関わっていきます。ということは、マジックの本当の飼い主が見つかって…?

 いえいえ、物語の終盤でマジックが次の飼い主の元へ移っていくところも、まさにマジック。是非、確かめてみてください。

 ちょっと苦言を言えば、4巻目の2~4話での主人公の新しい就職先が、どれも「高齢者宅への配達業務」なのはどうかなと…。

 僻地や住宅団地という違いはあり、今日的な問題ではありますが、ちょっとネタ切れ感がありました。

 

 ですが、このまま巻を重ねて欲しいなぁ…。