2021年の本屋大賞ノミネート作品。2025年12月に、アニメ映画化が予定されています。

●あらすじ
 読長町(よむながまち)に住む御倉嘉市(みくら・かいち)は、本の蒐集家でした。彼は、地下二階・地上二階の御倉館(みくらかん)と呼ばれる書庫を建築し、集めた膨大な本を納めていました。嘉市が亡くなり、娘のたまきに引き継がれ、蔵書はますます増え続けていました。町も御倉館の影響で、本関連の店が多く、、古くから町にある稲荷神は、書物を司るといわれています。


 ある日、たまきは蔵書のうちの稀覯本200冊余りが書架から無くなっていつのに気づきます。御倉館は、一般の人にも開放されており、これまでも古本屋に転売しようとしていた者を、警察に突き出したこともありましたが、一度にこれだけの稀覯本が失われたのを見たたまきは激高し、御倉館を閉鎖。館内に警報装置を設置し、御倉一族以外の立ち入りを禁じたのでした。
 たまきが亡くなると、町にはある噂が…。それは、たまきが設置した警報装置には、町に縁が深い狐神(きつねがみ)によって、本の一冊一冊に魔術をかけたというものでした。

 主人公はたまきの孫、深冬(みふゆ)です。彼女は、御倉の家の人間ですが、読書嫌い。

 亡くなったたまきには、二人の子供がいました。深冬の父である、御倉あゆむと、その妹ひるねです。御倉館の管理は、あゆむとひるねの二人で行なっていました。しかし、ひるねは、名前の通り「寝るか本を読むか」しかしないような、本の虫。ほっとけば寝食を忘れるくらいなので、結婚もせず、兄のあゆむの世話を受けながらの読書三昧。

 ある日、父のあゆむが骨折で入院してしまいます。御倉館をひるねが一人で管理していましたが、読書以外に能力のないひるねは、頻繁に警報装置を誤動作させ、近隣から苦情が頻出してしまいます。
 本嫌いの深冬ですが、父の入院中、しぶしぶひるねの世話をするこことなります。


 ある日深冬は、いつものように昼寝をしているひるねの手の中に、妙な紙片を見つけます。それは護符のようなもので、「この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる」と書かれていました。おぞけを感じた深冬。すると、近くの本棚の近くに、深冬と同じ高校の制服を着た少女が立っています。彼女は自分の名を真白(ましろ)と名乗り、本を盗んだ者が現れたため、「呪い」が発動したことを告げます。その呪いは、盗んだ者を「物語の檻」に閉じ込めるというもので、盗まれた本の物語通りに、町や人々が変化してしまうのです。元に戻すためには、深冬が変ってしまった町の中にいる「本どろぼう」を見つけ、本を取り戻さなくてはならないのです。
 

 本はたびたび盗まれ、そのたびに深冬は真白とともに、物語の世界で冒険をしていきます。その中で、謎の少女真白の正体、御倉館の成り立ち、自身の過去、そして本の盗難に関する意外な事実にたどり着きます。

●感想
 本の世界に入り込むという、
割と王道なファンタジー。ですが、しっかり作りこまれています。何より、入り込む世界も、既存の物語ではなく、作者の作った世界なので、本を読みながら、さらに別の物語も楽しめるというもの。
 それと、キャラクターが良いです。読書と寝ること以外興味がないキャラって(ゲフン、ゲフン)。

 

●映画情報

 深冬と共に、物語世界を冒険する真白の声を「田牧そら」ちゃんが担当するそうで、楽しみにしています。

 2026年の春には、BSでドラマ化される予定だそうですが…。

 相変わらずの「ガッカリぶり」。


 映画化された『さよならドビュッシー』
 ドラマ化された『連続殺人鬼カエル男』

つかみはうまいです。しかし、いずれも結末がお粗末でした。

●あらすじ
 首都圏への一極集中が進む一方で、犯罪件数も増え、判事の未決案件も増えていきます。
 東京地裁の陪審員、高円寺円(こうえんじ・まどか)は、日々増加してゆく業務に追われる中、諸外国の「司法へのAI導入」の記事を目にします。
 折しも、日本でも海外との技術協力という名目で、中国から『AI裁判官<法神(ほうしん)>』の試験的導入が行われます。これは、法律がデータベースとして入った司法ソフトで、過去の判例を入力することによって、裁判官が事前に下すであろう判決が予測できるというものでした。
 半信半疑で<法神>に、過去の事案について「判決文作成」を試みると、主文(刑罰の度合い)や、理由(結論に至った理由で、事案の概要、 証拠、証拠に基づく事実認定、法令の適用と量刑の理由など)が、判決文の構文にキチンと沿った形で、一瞬のうちに出力されます。実際の判決文と比較しても、ほとんど違いがありません。

 しかも、驚くべきことに、実際の判決文を、まだ打ち込む前だったことに気づきます。つまり<法神>は、過去のデータベースを基に、裁判長の思考を完全にトレースしたのでした。
 

 一方、都内で18歳の高校生・戸塚久志(とつか・ひさし)が、口論の末、父親を複数回包丁で刺し、殺してしまうという事件が発生します。久志は事件後、一時間余り逃亡し逮捕。被害者の父親はリストラ後、酒浸りの毎日に加え、家族(久志と久志の弟と自身の妻)に暴力をふるっていたのでした。
 担当する検事は、冷徹な印象のある鬼村(おにむら)検察官。鬼村は、公判前の整理手続(裁判が始まる前に、裁判所・検察官・弁護人が、争点や証拠を整理して審理計画を立てることです)の際、久志に対し「死刑」を求刑する予定であると言います。18歳になっており、「尊属殺人」という重大性を踏まえても、円には「死刑」は重いのでは、と考えます。

 円の恋人である警察官の葛城(かつらぎ)も、取り調べの印象から、久志が死刑にすべき人間とは思えず、久志の友人達に聞き込みを継続してゆきます。
 ある日、当該事件を担当する檜葉(ひば)裁判長が、円の元を訪れ、<法神>に今回の事件を入力し、判断結果を見たいと言い出します。結果、<法神>の判決は「死刑」でした。檜葉自身もこの結果に納得していましたが、円は、檜葉の年齢等から、古いタイプの裁判官が「尊属殺人」ということに、特別な意味を感じることを懸念していました。


 このままでは、久志は死刑になってしまいます。


 そして、迎えた最終弁論。ここで葛城警察官が、久志の友人達への聞き込みの末、事件の日に久志が着ていたシャツを、別の人間が着ていたことをつかみます。そして、久志のシャツの新たな鑑定結果を提出します。なんと「久志のシャツに、最初は別人の汗が染み込んでいた」というものでした。

 つまり、実際に刺したのは、最初にしみ込んでいた汗の持ち主である、久志の二つ下の弟でした。久志は、弟が刑務所暮らしなど耐えられるはずはないと、自らのシャツを脱ぎ、父親の返り血が染み込んだ弟のシャツと交換。口裏を合わせるよう、母親と弟に念を押し、わざと逃走し捕まったのです。
 結果、検察は久志を無罪とし、弟については保護観察を視野に入れた捜査継続となりました。

 

 そして、<法神>。
 

 円は、<法神>に対する評価が高まっていく中、自分自身は使うことができずにいました。葛城にそのことを打ち明けると、ソフトにバグやウィルスがないか検証するという名目で、プログラムを調査してもらってはどうか、と提案されます。葛城の紹介でやってきた萬田美知佳(まんだ・みちか)は、<法神>の基本データを調べていきます。その結果、昭和48年の「尊属殺重罰規定違憲判決」が抜けていることを発見します。
 これは、儒教国家である中国において、「親殺しは重罪」という、国家的な心情を反映させたものであり、<法神>による「中華化」を目論んでいることを見抜きます。 

 そして、<法神>の導入は、白紙撤回となったのでした。

●感想
 結局、事件解決に<法神>関係ないじゃ~ん!
 全てをひっくり返す新たな証拠を提示して、「事件解決!」って…。

 それから、
昭和48年の「尊属殺重罰規定違憲判決」を、データベースから削除するって何?「尊属殺人」と言えば、この判決の重要性は無視できません。あと、わざわざプログラムを検証する人を呼んでおいて、やった仕事が「基本データの意図的な未入力の発見」って、ショボ!!

 逆に言えば、その基本データさえ打ち込んでいれば、<法神>は完璧だったって話にならんか?!

 本書にある通り、エストニアや中国では、AIの司法への参入はすでに行われています。そうしたことの是非を問う意欲作だと思ったら、この体たらく。ガッカリでした。

 

 映像映えする内容であるため、本作もドラマ化されるんでしょうが、肝心のところについては回答を出さない凡作でした。あ~あ…。

 

 

●あらすじ
 新島圭介(にいじま・けいすけ)50代のサラリーマン。一人娘の麻衣(まい:在宅ワーカー、20代)と暮らしています。

 圭介は、10年前、交通事故で妻・貴恵(たかえ)を亡くしていました。失意のあまり、圭介は仕事にも日常生活にも気力を失い、娘の世話も満足にできず、その日もコンビニ弁当で会話のない夕食を取っていました。
 

 ふいにインターホンが鳴り、玄関に出た圭介。そこには、ランドセルを背負った、目力の強い女の子(白石万理華:しらいし・まりか:10歳)が仁王立ち。訝しむ圭介に、少女は「私は新島貴恵!あんたの妻!麻衣の母親!」と言い放ちます。
 

 半信半疑の圭介と麻衣に、彼女は結婚記念日や家族とのエピソードなどを話します。そして、自分は事故後、この少女として生まれ、近くを通りがかった際、前世のことを思い出したというのです。

 ようやく信じた圭介に、少女は味気ない夕飯や、麻衣の覇気のない働き方の様子を一喝。ちょくちょく様子を見に来ると宣言します。
 約束通り、万理華(中身は貴恵)は、翌日から圭介にお弁当を作ってくるなど、訪ねて来るようになります。麻衣も、在宅ワークから就職に向け、前向きになろうとします。

 

 圭介は、仕事に前向きになり、明るくなります。そんな圭介を見つめる同僚達の中に、守屋好美(もりや・このみ:30代)がいました。彼女は、高校時代の恋愛経験から、男性が苦手になっていました。好美は、部下思いの圭介に、以前から好感を持っていましたが、仕事にも前向きになった圭介に、異性として好意を持つようになります。
 一方で、万理華の母親・千嘉(ちか)は昨年離婚しており、そのせいか、万理華と向かい合わず、時に大声を上げ、家は荒れ放題でした。彼女自身、金銭にだらしない母親に虐待されて育ったため、完璧な家庭を目指していましたが、夫の浮気で挫折し、家庭や育児に無気力になり、感情的になっていたのです。
 新島家と万理華が、以前の家族のように過ごしていたある日、千嘉は見知らぬ他人と仲睦まじく談笑しながら歩いている万理華を目撃してしまいます。万理華を問い詰め、壁ドン(金網ドン)する千嘉。そこへ通りがかった圭介。万理華の秘密を打ち明けるべきか?果たして…。

 

 さらに、物語が大きく動くのは、1年余り経ったある日のこと。いつものように圭介・麻衣・万理華(貴恵)で外出し、帰宅途中、突然万理華の様子が変わり、「おじさん達、誰?」と言い出します。

 万理華は、貴恵として過ごしていたことを忘れ、以前の万理華に戻っていたのです。


●感想
 本作のテーマは、「生まれ変わっても忘れない永遠の愛」とかではありません。すでに、圭介は貴恵にラブラブで、生まれ変わった貴恵が18才になったら結婚するつもりでいるくらいです。


 つまり、貴恵は生まれ変わっていたのではなく………。
  ↓

 そのとき、彼らの選んだ選択は!

 亡くなってしまった人間との絆は、それが強ければ強い程、残された人間はそれに固執して、前に進めなくなることがあります。しかし、失ったものにこだわり続ける余り、周囲の人たちとの関りが失われたり、自身の人生が虚しいものになってしまうことは、誰にとっても幸福なことではありません。
 

 本作では、圭介がその典型ですが、万理華の母親である千嘉も、失ってしまった理想の家庭像にこだわり、最愛の娘である万理華とのつながりをおろそかにしてしまっていました。

失ったものを忘れ、前に進む。

 言葉では簡単ですが難しいものです。しかし、周囲も含め、自身を不幸に巻き込まないためには、歩み出すしかないのでしょう。

●ドラマ版とアニメ版
 本作は、2022年にドラマ化。2024年にアニメ化されています。

 

 アニメの方は原作に忠実に作っているうえ、アニメならではの演出も行っていますので、原作と見比べても楽しめます。また、主役の白石万理華と新島貴恵の声を、 「悠木碧(ゆうき・あおい)」さんが兼任しています。単に、「心は貴恵、体は万理華」だけではなく、それぞれ単体で登場したときの声も使い分けられており、演技の凄さを感じました。
 演技と言えば、ドラマ版の白石万理華訳の毎田暖乃(まいだ・のの)さんの演技も見事。観ているうちに、心の中にいる「貴恵」の姿が浮かんでくるようです。

 

●ドラマ版における改変

 ドラマ版についても、最初は原作に寄せていましたが、肝心のエピソードについて、大幅な改悪が行われています。

 「セクシー田中さん」問題が、ドラマでは発生しやすいのはわかります。脚本家が自分のオリジナルを押し通すことによって、自らの優位性を主張するということで、大概失敗しています。

 本作においても、その試みは大失敗していると感じられます。

 

 原作が良いだけに、非常に残念でした。