『SFが読みたい!2024年版』第7位(3位はすでに紹介しました。2位は未読です。1位は、う~ん。)
すっごく面白いです。
松崎さんは、2010年に「あがり」で第一回創元SF短編賞を受賞していますが、それが微妙だったので、以降の作品には、食指が動きませんでした。
今回は「シュレーディンガー」というタイトルに惹かれて読んでみましたが、各話のキャラクター達が、とにかく魅力的です。
著者によるあとがきにある通り、「ディストピア×ガール」をモチーフにした短編集です。確かに、各話の背景となる社会は、それぞれ衰退に向かってはいますが、それをはねのける元気な女性たちが主人公で、「各話のキャラを使って、それぞれ連作短編集出してほしい!」と思いました。
〇第一話「六十五歳デス」
百年ほど前、人口増加による資源や食料の枯渇から、「人間の寿命を65歳とする」ことが決まった世界。決定後には、65歳の前後で苦痛のない致死効果を発揮する病原体がばら撒かれています。
64歳の「紫」は、顔に大きなあざがあって、当初から結婚をあきらめ、自立するため、「終末期セラピー」を行っていました。ある日、紫から買い物かごをひったくろうとした少女に出会います。彼女に興味を持った紫は、その父親から少女を引き取り、「桜」と名付けます。紫は、の頃少ない期間で桜を自立させるため、彼女に「終末期セラピー」の仕事を教えるのでした。
〇第二話「太っていたらだめですか?」
「国民健康増進党」が第一党の世界。ダイエットが成功しない彼女(氏名不詳:27歳)は、肥満であることから世間に白眼視され、会社もクビになってしまいます。
そして、政府主催の「ダイエット王決定戦」に参加させられます。そこでは、彼女を含む5人の肥満者が集められ、目の前で作られる美食を最後まで我慢できたものに多額の賞金が与えられますが、堪えられない者は殺されてしまうというものでした。
〇第三話「異世界数学」
隣の席の「谷山くん」に恋をし、同じ大学を目指すエミ。しかし、彼女は致命的に数学がダメ。「いっそ数学のない世界に行きたいっ!」と思っていたところ、いつの間にか「数学が禁じられている世界」(江戸風味の)世界に転移します。
数学が禁忌だと知らないエミは、うっかり数学の定理を人前で使い、投獄されてしまいますが、「開放派」と呼ばれる、数学信奉者たちに助けられます。彼らと話しながら、徐々に数学の面白さに目覚めてゆきます。そんな中、仲間たちが役人に捕らえられてしまいます。エミは彼らを助け出すため、役人に数学の知識を披露するのでした。
〇第四話「秋刀魚、苦いかしょっぱいか」
小学五年生のちはるは、夏休み最終日の前日、苦手な自由研究に取り掛かっておらず、四苦八苦していました。ふと目にした「秋刀魚」ということば。彼女の世界では、秋刀魚は漁獲されなくなって久しく、彼女自身、見たことも食べたこともありません。そこで、仙台に住むひいおばあちゃんに、どんな味だったのか尋ねます。興味を持った彼女は、自由研究に「秋刀魚の味の再現」をテーマとします。
〇第五話「ペンローズの乙女」
中学生のヨーイチは、海で遭難しますが、南洋の島「コンディ島」の美少女サヨに助けられます。しかし、その島は生贄の習慣が残っていることから、世界中の国から嫌われている島でした。島で思いがけず歓待を受けるヨーイチは、次第に島に対して愛着を持つようになります。そんな折、サヨが生贄になることを知らされたヨーイチは、彼女を助け出そうとするのですが…。
〇第六話「シュレーディンガーの少女」
感染者に嚙まれると、自身もゾンビ化するZウィルスが蔓延した世界。不注意で感染してしまったゴスロリ少女「紅(くれない)」は、お付きのAI搭載ロボット(女性型)「藍(あい)」に、ゾンビ化する前に自分を殺してほしいと懇願する。ロボット三原則によって、人間に危害を加えられない藍は、紅に「量子自殺」を提案します。
(「量子自殺」をざっくり説明すると、自殺者を「シュレーディンガーの猫」状態にすれば、自身が「観測者」となり、観測者として生きている状態に常に世界が分岐するため、死ぬことはないというものです。)
作者自身、知識が豊富で、作中でも披露されますが、ネタのためのネタになっておらず、キチンと世界を支えるものとなっています。
また、作中の登場緒人物たち、全てが個性的で、無駄なエピソードがないです。
ストーリーもわかりやすくて、高評価です。昨今の文学的なSFは、意味不明なものが多い(ように思う)のですが、話が面白くて分かりやすいことは、やっぱ正義ですね。