爆笑問題の対談集に
「タイタニックはディカプリオの描くデッサンが下手過ぎて…」
という新進気鋭作家の感想が載っていた。
確かにそうだが、私はもうその前の宝石が
イミテーションにしろ安っぽすぎて辟易した。
作家はとにかく細部が大雑把過ぎ、という感想だったが、
素描や宝石以上に私が感情移入できなかったのは
「知人がディカプリオにそっくり」だったからである。
彼は「T」。私は面食いではないので、初対面の感想と言っても
「おお。随分とハンサムだな。さぞかし女にもてることだろう」
という事だけだった。
彼には純粋な所があり、人柄も愛嬌があって、
つまり魅力的なのだが、外見が良すぎて
余りそういう点で評価されることはないらしかった。
私は彼が家族と縁の薄い境遇であるのを気の毒に思い、
格別に配慮をした。
誰もが大事に扱われるべきであるということを
伝えたかったに過ぎない。
例えば、彼は珍しい銘柄の煙草しか吸わなかった。
たまたま私の勤務するビルにあったので、会う日には
必ず自動販売機で購入しておいた。
それから余りに煙草を吸い過ぎるからといって、
しょっちゅうガムをかんでいた。
それで、私は彼に会う日は煙草とガムを用意しておいた。
彼はある日、思いが伝わらない辛さを告げて
去って行った。
男友達にこの話をすると殆ど
「そりゃ勘違いするよ」と言う。
美人も大変だが、ハンサムも大変だ。
私はいたって普通の容姿なので、その苦悩に思い至らなかったのだ。