文芸春秋刊の人気シリーズにベストエッセイ集がある。
毎回の装丁は安野光雅画伯の風景画で印象的だ。
表紙を見れば以後続刊とわかる。
その何冊目かの確か冒頭だったと思うが、衝撃的な
内容の随筆が掲載されていた。
筆者は「忠犬ハチ公の記事を書いた記者の息子」。
それによると彼の記者はある時期
「心温まる記事」の連載に悩まされていた。
単発ならともかく、日々そうそう心温まる話などある筈がない。
そこで、ネタの払底に困った記者の行う定番、
「捏造」を企てた。
何でも渋谷駅前に毎夕出没する犬がいるらしい。
飼い主はもう何年も前に天国へと旅立っているのに
その犬が出没する訳とは。
「焼き鳥」。
その頃渋谷駅前には焼き鳥の屋台があり、客達が
犬に与えていたのが病みつきになったらしい。
さて、これを暴露したのが息子だからかなり信憑性は高い。
しかし、「捏造記者の息子」だ。
蛙の子は蛙、ということを考えると穿った見方をすれば
受けを狙って書かれたものかも知れない。
という訳で結論はニワトリタマゴになり真相は藪の中であるが、
リチャード・ギアが真面目にプロモートしているのを見るにつけ、
しかもやんごとなき人々まで鑑賞しているというのを聞くにつけ、
大変複雑な気がする。