今テレビドラマで「裸の大将放浪記」をやっているので
思い出した。
先日出場した駅伝に山下清の仮装ランナーがいたのだ。
縮みのシャツに半ズボン、どんな仮装ランナーでも
足元だけはスニーカーが普通だが、距離が2K弱であり、
履物は雪駄、ご丁寧に手にはスケッチブックまで持っていた。
こんなのに抜かれる訳にはいかないと、
普段競争心のかけらも無い私だが、さすがに
「山下さん、私より先に行ってもらっては困ります」
と一声かけて追い抜いた。
中々完成度の高い仮装だったので、あとで他の
メンバーに聞いたが、誰も見ていないらしかった。
そして本当の山下清さんに会ったことのある、
作家の野坂昭如さんは
「彼はむしろ知能は高い。
非常に変わった性格と見るべきであろう」
と述べている。
何でも、数人の出席者とともにある食事会にて
面談したのだが、話題が第二次世界大戦に及ぶと、皆
山下氏には理解できないであろうと思っていたのに、
おもむろに
「裸の大男が風呂に浸かっていた。
のんびり油断していた所に蜂に**玉(私が言ったのではありません)
を刺されて慌てて風呂を飛び出した。
蜂は追いかけても中々捕まらない…」
言うまでもなく、大男はアメリカ、蜂は日本、
刺されたは真珠湾攻撃、
彼はすっかり理解している所か、軽妙な喩え話にして
皮肉ることさえ出来たのである。
食事会ではその後も肉料理の時に
線路で轢死体を見た模様を微に入り細に入り
描写して出席者達をこわばらせたりと、
絶対にわざとであるとしか思えない発言が続いた。
彼は旅の間は制作をせず、帰宅してから
風景を思い出して絵を描いたという。
つまり、「カメラ・アイ」の持ち主だったのだ。
ある種の障害者に多いとされる。
まるで写真のようにその場の情景を脳裏に
浮かべることができる能力だ。
たとえ「このドラマはフィクションです」が
放送最後のテロップに流れるとしても、
実名を使っている以上、「裸の大将放浪記」の
山下清が実際の彼に近いと思われていることだろう。
専門家ではないので明言は避けたいが、
現代ではある特殊な能力だけが高く、社会には
適応が難しいとされる人々と同じ傾向が見られる。
勿論、彼の絵の芸術性の素晴らしさは彼自身とは
独立して、永遠に讃えられるべき偉業であることに
変わりはない。
それでも。
彼は物事を冷徹に見通し、アイロニーさえ駆使できたことを
もう少し多くの人々に知っていて欲しいと思う。