感情ダストボックス (3) | かくれんぼ

かくれんぼ

私の物語の待避所です。
よかったら読んでいってください。

 

 

 

夕方になり、私は良平の家へと向かう。感情ダストボックスのお陰で、良平とはうまくいっていた。以前よりも親密な関係になれた気がするし。私は良平の家のチャイムを鳴らした。すると、すぐに良平が出てくる。私は家の中に入った。

 

「おじゃましまーす」

 

家の中には良平以外誰もいないようだ。少しテンションが上がる。部屋に入ると、私は中央にあるクッションに座った。

 

「お前、それ好きだな。ちょっと待ってて、飲み物持ってくるから」

 

「ありがと」

 

微笑みながら良平に手を振る。笑顔って、これで合ってるかな?あとで鏡を見よう。そう思いながら、私は本棚に置いてある一つのアルバムを見つけた。気になったので、つい手に取る。

 

ページを捲ると、そこには幼い良平の姿があった。かわいい。どんどん捲っていく。

 

しかし、私はあることに気付いた。この写真は何かおかしい。どうしてだろう。夢中になってページを捲っていく。

 

なんで、良平はいつも一人で写ってるの?

 

私は嫌なことを想像しながら最後のページを捲る。

 

その時、ドアが開いた。良平が戻ってきたのだ。

 

「おかえり、りょうへ…」

 

「何してんだよ、千沙!また勝手に人のアルバム見やがって!」

 

また?私、一回目でしょ、アルバム見るのなんて。どうしてそんなに怒ってるの。

 

良平はアルバムを取り上げた。すると、それを見た途端、鬼のような形相で私を怒鳴った。

 

「最後のページ、見たのか?なんでだよ。なんで最後まで見るんだよ!俺が必死で隠してきたっていうのに。前の時はまだよかったよ。あの時は見られなくて済んだからな。でも、今は違う。お前は俺が隠してきたすべてを知った」

 

最後のページを勢い任せに破り捨てる。真っ二つに裂かれた写真が床の上に舞い降りた。そこに写っているのは大勢の子供たちと、大きな家。幼い良平はムスッとした顔で立っている。その写真に写っている家は福祉に興味のない私でも知っているくらい有名な児童養護施設だった。数年前、職員による日常的な暴力と、児童同士による酷いイジメが世間にバレ、ワイドショーを賑せた。

 

まさか、良平がその施設で育ったとは。頭の中が真っ白になる。私はなんてことをしてしまったんだろう。良平が隠してきた過去を勝手に覗き見るなんて。知らなかったとしても、アルバムなんて見てはいけなかったのだ。

 

その瞬間、私の中から後悔と恐怖という感情が溢れ出した。それが絶望となり、私の体を包み込んでいく。

 

「千沙、出てけ。俺の前に二度と顔を見せるな。今のことは絶対に誰にも喋るな」

 

「ま、待ってよ。忘れればいいんでしょう?今のこと全部忘れてしまえばいいんでしょう?大丈夫、私できるから。忘れられるから!お願い、良平!」

 

絶望が体を蝕んでいく。今度は音を立ててやってきた。辛い、怖い、嫌だ。足掻く様に良平に捕まる。しかし、良平は非常にも私を家の外へ連れ出し、そのドアを閉めた。

 

「良平!ごめんなさい、私が悪かったから!お願いだから、ドアを開けて!誰にも言わないし、絶対忘れるから!」

 

声が枯れるまで叫ぶ。けれど、ドアが開くことはなかった。崩れ落ちるように、その場に倒れ込む。

 

苦しくて、息ができない。涙で目の前が霞む。絶望という感情が、私を苦しめる。

 

 

 

―――今のあなたの状態で、深い絶望を受けてしまうと、最悪の場合死んでしまいます。

 

 

小宮さんの声が蘇る。

 

感情を忘れた状態で大きな感情を受けると、それに体が耐えられなくなってしまうそうだ。じゃあ、私は死ぬのかな。ふらつく足で良平の

家から遠ざかる。

 

当てもない道を歩いた。頭上には煌々と光る月が浮かんでいる。霞みゆく世界。もう、死ぬのかな。力尽き、倒れる。

息ができなくなってきた。吐き気もする。頭痛もする。

 

私は震える手を月を掴むように高く上げた。そして、静かに目を閉じた。

 

 

 

千沙が死んでから数日経った。原因不明の謎の死。そういうことになって、千沙の死は片づけられた。小宮さんにそう話すと、笑って

 

「耐えられなかったか、彼女は」

 

そう言った。私は遠くを眺める。

 

私があのお店に誘ったから死んでしまったのだろうか。そう思うと、とても嫌な気持ちになる。まるで、自分が千沙を殺してしまったかのような、そんな気持ちになるのだ。

 

ツーっと流れる涙を拭きながら、私は今日もあのお店へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

読んでくださってありがとうございます。

この作品は中学生の時に書いたものですので、拙い部分や意味の分からない部分も多かったともいます。

それでも、今現在も描きたい趣旨がしっかりとしてきた時期でしたので掲載いたしました。

良かったと思う方、悪かったと思う方、両方いらっしゃると思います。

尚、誹謗中傷等はおやめください。出来が悪いのは自分自身で感じておりますので。