【設例】 20代・大学生です。
賃金の国際比較データを見ると、過去25年くらいで諸外国は右肩上がりですが、日本は、ほぼ横ばいです。
日本で賃金が上がらないのは、なぜなのでしょうか。
【回答】 ご質問にお答えします。
あくまで個人的な見立てですが、日本の賃金が横ばいなのは、バブル経済崩壊後に物価の安い時期(デフレ)が続いたことと関係がありそうです。
日本の企業は、消費者や取引先が求める「安さ」に応えようと、人件費を抑える工夫を行いました。
例えば、
・生産を東南アジアの工場に移したり
・正社員をパート、アルバイトに置き換えたり
・二人でやる仕事を一人に置き換えたり
・人がやっていた仕事を機械に置き換えたりなど
人件費を圧縮して期待に応えてきた。
もちろんよかれと思っての行動で、そのような工夫は、日本の企業は得意なのだと思います。
最近は、物価の上昇が始まる一方、賃金は据え置きなので、人材が集まらずに廃業するケースもあるようです。
一方、個人金融資産は、約2千兆円と、あるところにはあって、赤ちゃんからお年寄りまで国民一人当たりで単純計算すると、約1600万円にもなります。
うち約1千兆円が現金・預金で、このお金が貯まったまま、なかなか国内で循環しないのが問題というわけです。
お金を使うのは、もったいない、と考える人が多いのかもしれません。
これは、もしかすると、日本人のDNAが関係し、お金をお米のようなものと認識している人が多いからではないか、と自分なりに仮説を立てています。
昔は、お米など保存食の備蓄は、命を守るために大切なことでした。
よく考えると、味噌とか梅干しとか、日本には、優秀な保存食がたくさんあります。
お金にも価値を保存する機能は確かにあるのですが、現代のお金は紙なので、総額では枯渇しませんし、印刷して増やすこともできます。
お米などの天然資源とは性質が異なるわけです。
一方、諸外国のうち例えば、米国には寄付やチップの文化があり、大富豪のビル・ゲイツやウォーレン・バフェットなども巨額の寄付を行っていると聞きます。
米国では、お金は貯めるより使うことを好む人が多いようです。
実は、日本にも昭和の時代に「消費は美徳」というスローガンがありました。
高度経済成長とインフレ(物価上昇)の時代です。
当時は、お金の価値がほぼ無くなった戦後のゼロ地点から、バブル景気に向かう過程の時期でした。
現在は、必ずしも経済成長を伴わない、円安と資源高に起因するインフレなので、業種によっては、賃上げが厳しい情勢かもしれません。
国民の生活を守るため、政府は「インフレ手当」のようなものを支給し続けることになるのではないかと個人的にはみています。
インフレが進むと、現金・預金の価値は下がります。
実際、1米ドル110円が150円になったことで、円預金の価値は米ドルに対し、約27%下落しています。
現金・預金の価値が下落(物価は上昇)するとの予想が増えれば、消費や投資に回そうとする人も増えます。
例えば、5年後に家具や家電の買換えを予定していた人が、今年に前倒しするなどの行動が起こりやすくなります。
そうなると、眠っていた現金・預金が動き出し、賃金も次第に上昇する可能性はあります。
約10年前に日銀が「異次元の金融緩和」を始めた目的も、日本をデフレからインフレに向かわせることでした。
上にも書いた通り、日本国民全体として、お金自体はたくさん持っているので、いかに循環させるかが、閉塞感から立ち直るためのカギになります。
この機会に金融経済の仕組みについて、よく考えてみるとよさそうです。
【設例】 30代のFP資格者です。
政府などが推進する資産所得倍増プランに関連して、中立的アドバイザーをFP等の中から公的機関が認定し、リスト化・公表するという話が約1年前に浮上しました。
現在、独立系FPを目指しており、その動向が気になります。
【回答】 ご質問にお答えします。
私も約1年前から議論の動向を追っていますが、FP等を中立的(顧客の立場に立った)アドバイザーとして認定する方針が打ち出された後、具体化のところで話が止まっているようです。
まず前提として、金融商品を販売せず、顧客からのみ報酬を得ていることが現時点での中立的アドバイザーの認定基準となっています。
これまで日本には、ほとんど存在しなかった新業態のため、現時点で各方面から下記の指摘を受けているようです。
1) アドバイスの中立性を公的機関が認定できるのか
2) ビジネスとしての採算性が見通せない中で担い手はいるのか
1)の課題について
公的機関が中立的(顧客の立場に立っている)と認定するのは、正直難しいのではないかとみています。
中立的かどうかは、アドバイザーの内心によるところが大きいからです。
仮に公的機関が中立的と認定した人が期待通りの言動をしてくれなければ、認定した側の責任を問われかねません。
一方、客観的な事実として判定できるのは、そのアドバイザーが受け取る報酬が透明化されているかどうかです。
顧客から直接受け取る報酬は、もちろん透明性がありますが、顧客以外から間接的に受け取る報酬も、その都度事前に開示されることが顧客にとっての安心材料になります。
2)の課題について
職業として成り立つ環境がまだ整わない中で新業態に参加しようとするアドバイザーは、確かに限定的になりそうです。
例えば、現在、金融機関に勤務していたり、金融商品仲介業をしていて、金融商品の販売に携わっている人たちは、退職か廃業をしないと、新業態には参加できないことになります。
もしこの課題に解決策があるとしたら、既存業態とのハイブリッド化だと思います。
当面の間は、移行期間として、既存業態と新業態を並走させる必要があるのではないかとみています。
今までガソリンで走っていたのに、いきなりクリーンな電気のみといわれても、急には対応が難しいのと一緒です。
また、米国や英国と比べ、大幅に遅れているアドバイザー向けプラットフォーム(ソフトウェア)の整備が現状での最重要課題なので、すでに一定数の利用者がいて、プラットフォームが存在する金融商品仲介業の枠組みを活用するのが現実的ではないかと個人的には考えています。
その際、上記1)に書いた報酬の透明化までは、少なくともクリアされている必要があると思います。
新しい顧客本位の枠組みがどうなるのか、今後も追っていこうと思いますが、いずれにしても独立系FPにとって、報酬の透明化(見える化)は、顧客との信頼関係づくりにおいてとても大切な要素といえます。
【設例】 40代と30代・共働きの会社員夫婦です。
小さい子供が2人います。
夫婦でそれぞれ口座を作り、積立投資を考えていますが、本当にやったほうがよいのか、やるとしたら毎月いくらにするかで迷っています。
どうしたらよいと思われますか。
【回答】 ご質問にお答えします。
積立投資は、収入の安定している会社員や公務員の方には最適な投資手法です。
長期・積立・分散による投資の考え方は、例えば、金融庁のHPでも解説されており、もちろん成果の保証はありませんが、少なくとも怪しげな儲け話とは一線を画していることはご理解いただけると思います。
毎月の積立投資額について、FP相談の現場では、無理のない範囲はいくらかをご本人にお尋ねし、だいたい月○○万円くらいで考えているというようなお申し出を受け、それをベースに試算することが多いです。
例えば、積立投資額が少なく将来の目標額が大きい場合は、取るべきリスク(振れ幅)の説明などを行います。
経験上の感覚的な数字ですが、毎月の積立額として年収の1%程度なら無理がないと考える方が多いように思います。
例えば、年収300万円なら毎月3万円、年収1000万円なら毎月10万円という具合です。
家計に余裕があれば、実際、2%くらいまでいけます。
逆に3%までいくと、頑張り過ぎな感じがあります。
「継続は力なり」で同じペースで続けることが大事なので、やっぱり無理だった、とならないよう注意が必要です。
マラソンと同じで一度歩いてしまうと、再び走り出すのが苦しくなります。
もちろん、年収だけでなく、ご家族構成なども関係します。
1%の積立も無理というケースも当然あります。
たとえば、扶養家族が多く、家計のやりくりで苦労されているケースなどです。
その場合は、積立ができなくても仕方がないと思います。
「無い袖は振れぬ」です。
積立が難しい場合は、出来る状況になってから始める計画もひとつですし、健康で長く楽しく働く計画もよいと思います。
例えば、75歳までの公的年金の繰下げ受給を選択すると、現行のルールだと毎年の年金受給額が1.8倍程度にアップします。
(但し、繰下げ受給は注意点もあるので、慎重な検討が必要)
イザとなれば、お子さんや国に頼るという選択もあるかもしれませんが、最初からその計画はやめておいた方が無難です。
お子さんや国も「無い袖は振れぬ」と言ってくる可能性があるためです。
もし本格的に積立投資に取り組むなら、人生にインパクトを与えるような成果を目指したいところです。
ご参考までに、2008年頃に森本FP事務所で立てたスローガンは、「老後資金にもう1千万円」です。
継続的にご相談を受けている方(世帯)の中には、期待値通りのリターンを達成し、現時点で、もう1千万円を通過した方もちらほらと出てきています。
また、10年以上の運用期間があって、元本割れをしている事例は今のところありません。
長期とは、10年以上がひとつの目安と覚えておいてください。
投資手法は、統計・確率の理論がベースになっているので、これからの方も十分に再現性はあると考えています。
また、これから始める方にお伝えしたいのは、事前の計画づくりが重要ということです。
計画の力が成功につながると実感しています。
そのうえで、選択する金融商品としては、一般的な投資信託が使いやすいと思います。投資信託は、あくまで計画の中で利用するツールとご理解ください。
来年から始まる新NISAの非課税特典も享受できるので、「老後資金にもう1千万円」は、制度面では、より達成しやすくなったといえます。