第13話 心付けの意味するもの -2 | 葬儀小説 【連載】三途の川のツアーコンダクター

葬儀小説 【連載】三途の川のツアーコンダクター

ご愁傷様です。僕たちは三途の川のツアーコンダクター。元ホテルマンの葬儀や営業部長をモデルにした葬儀小説の連載です。人生とは本当の幸せとは葬儀とは。

ほどなくして、遺族から連絡を受けた葬儀社が寝台車で迎えに来た。
「お世話様です。加藤様のお迎えに参りました町屋祭典です」

寝台車を止め、降りてきた40代半ばくらいの、
ちょっと人のよさそうな男が、霊安室の前で待っていた兼子に声を掛けた。

「ああ、どうぞ」兼子は素っ気なく言い放った。

葬儀社の男は霊安室に入ると、遺族と挨拶をかわした。

そのまま待合所で話し込んでいたが、話が一段落した頃、兼子に近寄って、
「もう出発してもよろしいですか?」と聞いた。

「ちょっと待って、まだ見送りが来てないから」
兼子は見送りの看護婦たちが来るのを待つように言った。

「ちょっと」そして葬儀社の男を霊安室から廊下に連れ出した。
「あのさあ、遺族からは何ももらってないんだけど、このまま行く気?」

兼子はどう見ても年上の相手に対して敬語を全く使わず、そう言った。
相手も同業者ということもあり、露骨な心付けの催促だった。

「ああ、そうなんですか、失礼しました。私が立て替えておきますので」
そう言うと男は一旦その場を離れ、内ポケットから小さな包みを出した。

包みにボールペンで表書きをすると、
中に3000円を入れ、兼子に差し出した。

「はい、それじゃありがたく」
兼子はその包みをポケットにしまい、
何事もなかったかのように霊安室に入っていった。

そのうち、見送りの看護婦がようやくやってきた。
遺族は丁重に謝意を告げ、故人の遺体とともに寝台車で病院を出ていった。

それを見届けた兼子と舟木は霊安室に戻り、舟木が焼香台を片付けた。

兼子は事務所で包みの中を確認して、
「何だ、たったの3000円か。あんなに言ってやったのに」
相変わらず憎まれ口を叩いていた。