夕方になると泊まり勤務の清水と舟木が出勤してきた。
木野は二人に婦長からの情報を話した。
そして、夜中の1時過ぎ、霊安室の電話が鳴った。
「はい、霊安室です。ああ、婦長お疲れ様です、木野です」
「はい、はい、そうですか、お待ちしておりました!おっと、失礼いたしました」
待ちに待った1501号室の出動要請に、
木野は思わず口にしてはならないことを口走ってしまい、舌を出した。
電話を切り、クリーニングから上がったばかりの白衣を取り出した
木野は舟木を呼んだ。
「舟木8、いくぞ。清水、
悪いけど舟木にも1501号室を見せてやりたいから留守番しててくれ」
「はい、いいですよ。舟木、ヘマするなよ」
「任せておいてください。木野さんが一緒ですからね」
『コンコン』
「失礼いたします。この度はご愁傷様でございます。
故人様を霊安室にお連れいたします」
木野はいつもより丁寧な口調で深々と一礼した。
ベッドには亡くなったばかりの北大路房枝(享年64)が寝ていた。
傍らには夫の北大路隆雄、長男、次男、長女の各夫婦、
それに孫たちと大勢が房枝の最期を看取っていた。
そして、婦長の斎藤も看護婦二人を従え、
の部屋で木野たちが迎えに来るのを待っていた。
木野と舟木はみんなが見守る中、
房枝の遺体をこの上なく慎重に扱い、霊安室へと運んだ。
霊安室で遺族たちは順番に線香をあげ始めたが、
人数が多いため時間がかかるので、木野たちは一度事務所に下がった。
「これは上客に間違いない。家族たちの身なりを見れば一目瞭然だ」
木野が小声で事務所にいた清水に耳打ちをする。
「へえ、そうですか」
思わず清水が事務所から焼香をしているところをのぞき込む。
「いやあ、ほんとうですね。これは絶対頂きましょう」
そのうち遺族たちの焼香がおわった。
そして一番後ろで見守っていた斎藤が
「私もよろしいでしょうか?」
と、遺族に了解を得てから線香をあげた。
「さあ、あなたたちも」斎藤は一緒に来ていた他の看護婦たちにも、
線香をあげるよう促した。
「ご愁傷さまです 俺たちは三途の川のツアーコンダクター」 情優志
葬儀社の敏腕営業部長として病院の冷暗室に勤務している、元ホテルマン木野。