かっぱのななこリターンズ 第十一話 | ネット小説「works」

ネット小説「works」

「知られたくないから」は土曜、火曜に更新です。
よろしくお付き合いくださいませ!

 

 

 

 

 

 

 

去年より早い開花予想の発表。

目黒川沿いの桜並木、そのつぼみが膨らみ始める2月の終わり。

 

 

 

「Pizzaカッパリ」開店30分前。

トニーは恨めしそうに通りを眺めているななこに声をかける。

 

 

「どうしたんですか、ななこさん?」

 

「あのなオーナー、日に日に長くなってないか?」

 

「何がです?」

 

「あの行列なのだ。」

 

 

 

カッパリから50mほど先。

カッパリより少し前、今年初めにオープンしたカフェ。

 

その開店を待つ長い行列。

その行列は、カッパリの手前まで続いていた。

 

 

「あ~~、おとといはテレビの取材で乃木坂46の子も来てましたからね~~。」

 

「そんな呑気な事言ってていいのか、オーナー!?」

 

「焦ってもダメですよ、ななこさん。うちはうちで頑張りましょ。」

 

「う~~~。。あの行列がうちの前まで来たら文句言ってやるのだ!!」

 

「ははは、やめてくださいよ。」

 

 

 

「Pizzaカッパリ」も開店してからもうすぐひと月。

 

テレビ局の取材なんか来ない。

乃木坂どころかでんぱ組。も来ない。

 

お店が気に入ってくれた常連さんは数人できたものの、繁盛というには程遠い。

 

 

そして昨日は給料日。

「少ないですが」とオーナーが渡した封筒。

 

自転車が余裕で買えるお金が入っていた。

大した売り上げもないのにと、私は心配になるのだ。

 

 

そして、私はもえに相談した。

 

 

 

「給料を返すぅ!?」

 

「私は自転車を買えれば良かったのだ。それなのにほれ、1万円札が1枚、2枚・・」

 

「あああ、テーブルに並べなくていいから!それなら生活費、入れてもらおうかしら?」

 

「生活費?」

 

「だからこのマンションの家賃とか食事代よ。」

 

「だってマンションはもえのお父さんのものだろ?食事だって私が作って洗濯や掃除だってしてるのだ。逆に家政婦として・・あっ!なぜ、封筒から抜き取ろうとしてるのだ!?」

 

「ちょうどANEMONEの新作のワンピース買いたかったのよ。」

 

「こないだルミネでワンピース買ったばっかじゃないか!それなら私だってアクシーズファムの新作パーカーほしいのだ!」

 

「あ~~~、あれ可愛いよね!ななこ、コンバースのスケルトンシューズも欲しいって言ってたじゃない。セットだと似合うと思うな~~~。」

 

「 (o・∀・)b゙イィ!!最っア~ンド高なのだ!!」

 

 

もえは私の耳元に唇を寄せる。

 

 

「 買 ・ え ・ る ・ の ・ よ。💛 このお金で。ぜ~~んぶ。。💛(息を吹きかける音)」

 

 

 

・・・・・・・

 

 

悪魔だ。

 

 

お巡りさん、ここに悪魔がいます。

 

 

 

もえは抜き取った一万円札を目の前にヒラヒラさせて、更に押し倒すように囁いた。

 

 

「買えばいいじゃない。ね、ななこちゃん。二人で使っちゃおうよ。。」

 

 

 

「・・・(ハッ!)。ダメダメ、ダメなのだ!そんな悪魔のささやきに乗るもんか!」

 

「だ~~~れが悪魔ですってぇ~~~!!」

 

 

 

お金は怖いのだ。

お金は人を狂わせるのだ。

 

優しかったもえはもういない。

ここにいるのは黒い翼広げたデスノートのルークなのだ。

 

 

結局、金に目がくらんだもえは相談相手にもならず、「今夜は叙々苑の焼き肉が食べたい食べたい食べたいのよ」としつこく迫り、

私の初任給の一部は新橋の「焼肉ライク」でなんとか押しとどめて消えた。

 

 

 

 

そんな夕べのゴタゴタを思い出しながら、店の外を見る。

 

ん?

 

やっぱり!

行列がここまで!!

 

 

一言文句言ってやろうと、店を飛び出した。

 

 

「こら~~~!うちの店に並ぶな~~~!」

 

「えっ?だってもうすぐ開店ですよね?」

 

「そう!もうすぐ開店、・・・は?」

 

 

十数人の若い男女、Pizzaカッパリの前に列を作っていた。

 

 

並ぶ一人の女の子。

そのスマホを覗いた。

 

 

Twitterの口コミ。

Pizzaカッパリの写真と、絵文字いっぱいの記事。

 

 

いつの間に?

 

 

「ちょちょちょちょっと、それ!見せてくれないか?」

 

 

間違いない、カッパリだ。

アカウントのユーザー名を見た。

 

 

そこに書いてあった名前は「七海」

 

 

 

「ななうみ?なな・・うみ・・・!!あっ!!!」

 

 

開店初日のあの日、おずおずと写真を撮っていった姿を思い出した。

 

 

 

「ななみ!奈々未だ!」

 

 

 

 

 

 

開店から客は途切れることなく常に満席。

オーナーも私も、休む暇なく働いた。

 

いまだかつてなかった大繁盛。

店は若い女子とカップル中心で、一日埋め尽くされた。

 

 

 

ななみのTwitterはフォロワー3万人。

そのツイートは、女の子を中心に支持されているのを知った。

 

あんなにおとなしく、おどおどしてた子なのに驚きなのだ。

 

 

 

まだ冬の空気を残した、へとへとの肌寒い夕暮れ。

 

閉店間際となり店の列も掃けた時だった。

 

 

 

「へえ~~~、ここかぁ。」

 

 

 

やってきたのはもえ。

ゆっくりと店内を見回している。

 

 

「もえ!どうした!?」

 

「一度行くって言ってたじゃない。」

 

 

もえは私のエプロン姿をしげしげと見つめる。

なんか照れ臭いのだ。

 

 

「はじめまして、もえさんですね!私、この店のオーナーのトニーと申します。」

 

 

 

 

 

 

 

あっ。。

 

 

 

 

なんだ、これ。。?

 

 

 

 

 

 

 

オーナーがもえのテーブルにメニューと水を運ぶ。

 

 

ただそれだけ。

ただそれだけの事。

 

 

 

 

 

 

私は何かを予感した。

 

 

胸の中で鳴る「チクチク」が騒ぐ。

グルグルと警告するかのように。

 

 

 

 

 

 

 

それは かなしいこと?

それとも うれしいこと?

 

 

 

 

 

 

オーナーともえの目が合う瞬間。

 

大切な何かが遠ざかる気がした。

 

 


 

 

 

 

 

【インスタななこ その11】

 

港区新橋 「焼肉ライク新橋本店」 (最寄り駅JR新橋駅)

 

私の初任給が使われた現場です。

一人焼肉のファーストフードとは画期的。

一人一台のロースターでリーズナブルに、遠慮なく楽しめるのだ!

 

 

 

 

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログ ライトノベル(小説)へ
にほんブログ村