「穴」 (原題:Le Trou) は、1960年のジャック・ベッケル監督によるフランス映画(日本公開は1962年)。モノクロ映画だが、小道具の使い方など様々なアイデアで抜群に面白かった。ジャック・ベッケルは、公開前の1960年2月に亡くなっており、この作品が遺作となった。
刑務所からの脱獄の話。壁を打ち砕く作業などの力仕事だが、2人づつの交代で、気が遠くなるほど続ける様がワンショットで延々と続く。
そのリアルさにまず驚き。しかし、それが決して飽きさせることなく、緊張感がひしひしと伝わってくる。「大脱走」などの脱獄映画とはまた一味違った面白さがあった。
見所のもう一つは、は小道具の使い方のうまいこと。歯ブラシや鏡の破片で、看守の動きを偵察するというアイデアの巧みさ。
また、ベッドの金具を取り外して、ハンマーに代用したり、ヤスリで鉄を切断したり、看守のチェックの時間を測るために「時計があればな」という時に、どのようにして時間を図ったのか…といった細部に至るまで丁寧に描いている。
”未決囚の面談”というのがあるが、所持禁止物(ライターなど)のチェックのほか、外部からの差し入れのチェックも、検査員の手際良さが目を見張る。パンやチーズなどもナイフで切り、何か隠されていないかをチェックするのだ。
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映画の冒頭、廃墟のような町工場の風景が現れ、車の修理をしている男が、カメラに向かって話しかけてくる。
「こんにちは。友人のジャック・ベッケル(監督)が私の体験を忠実に映画化しました。1947年、サンテ刑務所(パリ14区)で起きた出来事です。」
実際に起きた脱獄事件を描いている。この事件の実行犯の一人であるジョゼ・ジョヴァンニが1958年に発表した小説が原作。またロラン役で出演しているジャン・ケロディもこの事件の脱獄囚である。
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4人の囚人部屋に、一人の新顔ガスパル(マーク・ミシェル)が入ってくる。
ロランなどの4人は、脱獄を考えていたが、新米にそのことを話して、参加させるか迷うのだが…。
主役は、若者ガスパルだが、妻との大喧嘩で、妻が持っていた銃で、暴発により、けがを負わせ、訴えられて刑務所に入ってきた。誠実そうで人は良さそうなのだが、ヘラヘラしたところが気になるが、最後には人間の弱さを出していた。
この映画で、もっとも印象に残るのは、脱獄のプロと言われるロラン(ジャン・ケロディ)。アンソニー・クインを思わせるような風貌で、冷静沈着で、慣れた手つきで、てきぱきと段取りを進めるところが見応えがあった。
偵察用の鏡の破片を半回転することで、両サイドの看守の動きを見ることができるのだが、一方の側で、異常なしで、半回転させて、反対側を見たときに、衝撃的な光景が映るのである。
刑務所内の描写というと争いごとなどが多いが、この映画は、一切いざこざがなく、部屋の中のもともといた4人がそれぞれ個性的で、絆のようなものがあるというのが特徴的だ。
クレジットにはなかったようだが、女優のカトリーヌ・スパーク(「太陽の下の18歳」)のデビュー作でもあった。最後にワンシーンの登場だが印象に残る。当時15歳。
もう一度見てみたい映画。