離婚後、実家に戻った際に住民票上世帯分離をした場合の影響を考えてみましょう

※はじめに本ブログの情報は、2025年8月末時点のものですので、ご注意ください。


世帯分離と言う仕組みがあるのご存じですか?

普通は知らないと思います。

ただ、離婚後実家に戻った場合、住民票の手続きの際に聞かれます。

 

(役所の職員)「住民票上、世帯分けますか?」

(あなた)「それってなんのことですか?何かメリット有りますか?」

(役所の職員)「住民票上、世帯を分けると今後どのように影響が出るのかは、ケースバイケースのため、わかりかねます。」

(あなた)「、、、、、、」

 

怒らないでください。本当に答えられないのです。そして、これが正しい対応なのです。

すべてを役所が統括できませんので、役所の管轄分以外は答えられません。

では、一度仮想で手続きをした場合、どのようになるのか見ていきましょう。

 

【目次】

1 世帯分離とは

2 事例で考える 世帯分離

3 事例から見る世帯分離の影響

 所得税、住民税、国保、後期高齢者医療保険、社会保険、国民・厚生年金、介護保険、児童手当、児童扶養手当、会社からの手当、行政手続き

4 まとめ

 

 

【1 世帯分離とは】

 

住民票のイラスト

 

 

 

そもそも世帯分離とは、同じ住所に住んでいる家族を、住民票上において別の世帯にする手続きです。

主に、介護サービスの費用負担を軽減したり、国民健康保険料を抑えたりする目的で行われます。

条件があり、それぞれが独立した家計を営んでいることを証する必要があります。

手続きは市区町村の窓口で行い、家計や世帯の状況等により、恩恵を受けたり、受けれなくなったりと様々な事象が生じる恐れがあるため、慎重な検討が必要です。


 

 

2 事例で考える 世帯分離

 

パーティーでピザとフライドチキンを囲む人々

 

そこで考え得る影響を例から拾ってみましょう。

 

仮に

離婚後『父・母(年金世帯)の元へ

自分が子供二人とともに自分の実家に出戻り

住民票上5人世帯とするか、はたまた世帯分離し、別世帯とすべきか』

考えてみましょう。

 

(仮定)

父 68歳 65歳時に定年退職

母 65歳 パート等をしつつも家のことをメインで支えてきた

自分 42歳 扶養の範囲内でパート

子供1 12歳 公立 小学6年生 

子供2  8歳 公立 小学2年生

・離婚後は、子供1、子供2ともに自分の税の扶養とする予定

・母は父の税扶養または父と母は双方一定所得が有り税の扶養関係無しのいずれか

・父と母の公的医療保険は、リタイアし年金生活で国民健康保険に加入中

・自分と子供1、子供2は、現在は配偶者の社会保険の扶養状態だが、離婚後落ち着くまで国民健康保険に加入予定(実家から通える勤務先が決まり、要件を満たせば家族3人とも社会保険へ加入予定)

・国民年金は現在第3号被保険者(被用者の配偶者)で負担が無いが、離婚後は第1号被保険者となり、負担が生じる

・介護保険は、国民年金の保険料と同様に離婚後、個人で支払いとなる

・児童手当は、現在配偶者の銀行口座に入金されているが、親権者として離婚後手続きし、自分の口座へ入金変更予定

 

 

重要なのは児童扶養手当です。

自治体によっては、住民上、世帯分離し、他の様々な要件を満たすことで児童扶養手当をもらえる場合があります。

児童扶養手当の金額は、子供の数・年齢、世帯の所得等により差が生じますが、定期的に現金給付が頂けるひとり親世帯における重要な収入源となりえます。

 

よって、FPの推奨は、いきなり結論となりますが、基本的には

『住民票上世帯分離することで、実家に戻っても児童扶養手当をもらえるなら、世帯分離が望ましい』

ただし、〈児童扶養手当の給付額(年間)<社会保険の扶養とし節約可能となる両親の国民健康保険料(年間)〉であれば違います。また、児童扶養手当をもらえるかどうかは事前にお住いの市区町村の担当窓口に確認しておきましょう。

 

 

FPからの補足(同居で世帯分離し、児童扶養手当を得ても)以下の2点に注意が必要です。

・児童扶養手当の支給に影響が出る為、税金に関して父が子供1・2を扶養にしてはいけません。想定例では、税扶養としても16歳未満の年少扶養親族であるため、控除額が増えず、メリットは何もありません。

・(余談)想定例とは違いますが、夫婦共働き生活をしており、自分で社会保険料を支払っている場合、父と母を社会保険の扶養とする(可能なら)と、両親の国民健康保険料の負担が無くなる場合がありますが、この場合、児童扶養手当の支給にも影響が出る可能性がありますので、どちらが損か得か試算し、決める必要があります。

 

 

 

3 事例から見る世帯分離の影響

 

 

琥珀色の液体から滴る水滴

 

(世帯分離した場合に生じうる影響を考察します)

 

1 所得税:影響なし。この想定例の場合(同じ住所地に5名で生活開始)、住民票上において世帯分離しても税の扶養関係に変更は生じません。なお、税金は、世帯でなく各個人基本的に計算される仕組みでもあり、仮定の例では、所得控除額も変わらないので、影響は生じません

 

2 個人住民税:影響なし。上の所得税に同じ。

仮定の例では、住民税においても所得控除額が変わらないので、影響は生じません

 

3 国民健康保険影響あり国民健康保険料を減額するために世帯分離はよく使われます。(以下国保に略す。)

上記例では、国保5人で1世帯と国保2人で1世帯、国保3人で1世帯の計2世帯の比較になります。

解説します。

まず、国保の保険料は、大まかに分類すると3種で構成されています 

・所得割 世帯の合計所得に応じて料金がかかるもの

・均等割 被保険者の人数に応じ均等に料金を負担するもの

平等割 全世帯に平等に賦課するもの

父・母・自分・子1・子2の五人世帯を世帯分離により父・母の二人世帯と自分・子供たちの三人世帯の二つに分けると

所得割:按分され、各々の世帯にかかります。

均等割:按分され、各々の世帯にかかります。

平等割:二世帯分必要なります。

一方で、国民健康保険には、軽減と言う3段階の減額措置が設けられています。

厳密に書くと次の通りです。

7割:基礎控除額(43万円)+10万円×(給与所得者等の数-1)以下

5割:基礎控除額(43万円)+(30万5千円×被保険者数)+10万円×(給与所得者等の数-1)以下(ただし7割軽減の場合を除く)

2割:基礎控除額(43万円)+(56万円×被保険者数)+10万円×(給与所得者等の数-1)以下(ただし7割・5割軽減の場合を除く)

難しく考えず、要は、上記例であれば自分の所得如何で軽減制度の適・不適決まってきます。軽減が適用されると元の1世帯のときより保険料が総額で安くなる場合が有ります。よって、手続きすると保険料総額が増えたり、減ったりする事象が起きるのです。

実際に手続きする前に必ず市区町村の担当課で試算してもらいましょう。

 

 

(FPからの判定式:世帯分離判断基準)軽減による減額 > 平等割1世帯分の金額 

 

 

おそらく二人の子供を抱え、社保に加入せず、働くならば5割の軽減はかかるのではないかと思われます。

因みに、大抵は、住民票に連動し、国保上の世帯が作成され、行政で管理されることになります。あわせて国保は、自治体により軽減に加え、減免制度を設けています。手続きの際は、適用できそうなものがないか聞いておきましょう

 

他には、

【高額療養費】

高額療養費とは、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、あとで払い戻される制度です。なお、月をまたいだ場合は月ごとにそれぞれ自己負担額を計算します。

たとえば、国保5人世帯であれば、自分が万一ケガをして入院し、高額な医療費がかかった場合に、父と母の通常の診療費等に加えることができますが、世帯分離により別とした場合は、加えることができません。デメリットの一つですが、世帯ごとの申請ができるので、さほど苦にはならないでしょう。

同様に高額介護合算療養費があります。世帯での1年間の国保の一部負担金等と介護保険の利用者負担額の合計額が、下表の自己負担限度額を超えた場合は、申請により「高額介護合算療養費」が支給されます。これもマイナスの影響が及ぶ場合が有ります。

 

4 後期高齢者医療保険想定例では父と母が国保の為、影響無しですが、考察しておきます。

後期高齢者医療制度は、75歳以上の高齢者や一定の障害を持つ65歳以上の方を対象とした医療保険制度です。

離婚し、自分が実家へ戻る場合、「世帯分離をする・しない」に当たり後期高齢者医療保険に加入している親の保険料を一応考える必要があります。

保険料は、国保と違い2種で構成されています。

1均等割額: 全ての被保険者に均等に課される部分です。

2所得割額: 被保険者の所得に応じて負担する部分です。具体的には、前年の所得から基礎控除額を引いた額に所得割率を掛けたものです。

これらを合計した額が、最終的な保険料となります。

また、後期高齢者医療保険にも軽減制度がありますが、適用されるのは均等割のみです。

なお、同一世帯内の被保険者及び世帯主の令和6年中の総所得金額等の合計額が、次に示す軽減判定基準以下の場合には、均等割額を7割、5割、2割軽減されます。

7割:基礎控除額(43万円) +10万円×(年金・給与所得者の数-1)

5割:基礎控除額(43万円)+30.5万円×世帯の被保険者数+10万円×(年金・給与所得者の数-1)

2割:基礎控除額(43万円)+56万円×世帯の被保険者数+10万円×(年金・給与所得者の数-1)

 

(離婚とは関係ありませんが、FPからの裏ワザとして)父と母を更に世帯分離することも可能です。所得の大きい方が75歳に到達し、世帯分離するともう一方が75歳に到達するまで保険料が安くなる場合が有ります。手続きには、当然に夫婦間での生計別を証する必要があります。(ハードルが高く、どうしても月々の生活に困る場合に検討しましょう。)弊害もありますので、申請は、個人でよく考えたうえで行うようにしてください。

 

 

結論から言うと、後期高齢者の場合、保険料金は、よくよく見ると各個人で加入しているに等しく、上記例であれば考慮する必要はありません。

 

5 社会保険影響以前に想定例では離婚により医療保険と住所が変わる想定。想定ケースでは、配偶者の扶養ですので、離婚後社会保険の脱退手続きをし、国保に加入することが必要です。なお、国保に加入する前に住民票の担当課で世帯分離をしましょう。

因みに自分が社会保険に加入し、自分で保険料を負担していても社会保険において住所変更や子供1・2を自分の保険の扶養とする手続きが必要です。

 

6 国民年金、厚生年金影響以前に想定例では離婚により被保険者の変更が生じます。想定ケースでは、社会保険の扶養の立場から国民健康保険に加入することとなるので、連動して、国民年金第3号被保険者から第1号被保険者に変更を余儀なくされます。そして、その変更届が必要です。あわせて国民年金には、減免制度が有りますので、その手続きもお忘れなく。

 

7 介護保険影響あり父と母の介護保険利用に関し今後影響を及ぼします。

両親の介護保険の利用に関して

・居宅サービス

・地域密着型サービス

・居宅介護支援

・施設サービス

・介護予防サービス(予防給付)

世帯分離後も変わらず当然に利用は可能です。

介護保険の保険料とは別に負担する必要がある介護サービスの利用料は、収入などに合わせて自己負担額(1~3割)が決まり、更に要介護度別に利用限度額が設けられており、この額を超えて介護サービスを利用する場合には、自己負担割合が10割、つまり全額自己負担となります。これは、皆さんと同じです。

この事例であれば、寧ろ世帯分離していないと利用料等が高くなるので、世帯分離で正解。

 

介護保険料については、基準額が自治体ごとに決められており、基準額以下は、個人の所得に応じ、年間の保険料金が決定されます。基準額未満の場合は、一部世帯の所得を考慮する側面がありますので、基準額未満の場合、世帯を一緒にすると不利に転じます。よって、世帯分離しておけばOKです。

 

強いてあげる不利な点

【高額介護サービス費】

高額介護サービス費は、介護保険サービスを利用する際に、1ヶ月の自己負担額が一定の上限を超えた場合に適用されます。この制度は、介護サービス利用者の経済的負担を軽減することを目的としています。具体的には、自己負担額が上限を超えた分が、介護保険から支給されます。高額介護サービス費の対象となるのは、居宅サービス(訪問介護、デイサービスなど)、介護施設サービス(特別養護老人ホームなど)、地域密着型サービスです。ただし、居住費や食費、生活費などは対象外です。

同様の制度で医療に関しては、前述の高額療養費があります。

 

8 児童手当(重要)影響以前に離婚により親権者として変更手続きが必要です。

離婚後手続きし、振込先を夫の口座から自分の口座に変更が必要です。

 

9 児童扶養手当(重要)影響以前に離婚により親権者として変更手続きが必要です。

世帯分離が認められても自治体によっては、児童扶養手当の支給を認めてくれないことがあります。離婚後、実家に戻っても自分たちの世帯に支給されるのか?まず一番初めに相談するようにしてください。

 

10 会社からの手当影響不明想定ケースではありませんが、父または母がまだ現役で会社に勤めており、自分や子供1・2の家族手当をもらう予定であれば影響があるかもしれません。

理由は、勤務先から扶養手当や家族手当をもらっていると、世帯分離を行うことにより、もらえなくなる場合があります。扶養手当や家族手当は勤務先の独自の制度であり、公的な制度ではないため、支給基準はバラバラです。ただ、一般的な勤務先であれば、扶養(家族)手当は、生活をともにしている家族が社会保険及び税の扶養であるかどうかが支給の基準となっている場合が多いです。いずれにせよ勤務先等の独自の制度であるため、扶養手当や家族手当について勤務先に確認をお忘れなく。

 

11 役所の手続き影響あり本来住民票の世帯1つで済んでいたものを2つにするので、今後の役所の手続きについて、倍の作業が必要となり不便になります。

また、両親の手続き等は、高齢になるとどのご家庭も同じですが、子が管理する必要が出てきますので、それらを覚悟の上、お手続きください。

その分、他に料金等の恩恵を受けるのであれば、我慢せざるを得ません。

 

 

以上です。

 

4 まとめ

 

【最後にまとめです】

 

主に影響が出ると思われるものは4つです。 

1 国民健康保険 2 介護保険 3 会社からの手当 4 役所への今後の手続き

また、役所で今回のようなケースを相談しても解決できません。

理由は、各制度の担当組織が国・自治体・保険者・年金機構・会社と別ですので、自治体だけにお聞きしても答えられないためです。

世帯分離等に関して失敗しないためにも、あらかじめ「会社→保険者→年金機構」には、問合せしておいて、その後自治体へ確認し、手続きすると良いでしょう。

 

要は、「世帯分離の影響がどのように出るのか?」それを即答できる方は、いません。

仮にいたとしても、取得している専門資格の範囲や業務の範囲を超えて回答できませんので、答えは限定的にならざるを得ません。こればかりは、残念ながら個人で情報を集め、自分で考え、判断するしかありません。

 

 

 

いかがでしたか?

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

お力になれれば、幸いです。

また良ければ、次回お会いしましょう。

 

なお、今回も「離婚マネーアドバイザーFP.Daiki」のX(旧Twitter)(リンク有)の補足です。

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【執筆者】離婚マネーアドバイザーFP.Daiki

・AFP

・社会保険労務士有資格者

・年金アドバイザー2級

・離婚カウンセラー

産後クライシスを乗り切れず、離婚。離婚を機に「同じ苦しみを味わう人を救いたい」という思いで再起。

現在は、家計診断・勉強会・個別サポートでお客様の離婚×お金の問題を二人三脚で解決しています。

 

 

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