年金制度まるわかり(離婚時年金分割を理解するために)

※はじめに本ブログの情報は、2025年4月末時点のものですので、ご注意ください。

 

 

 

熟年離婚(卒婚)をご検討中の方から

「年金分割制度が難しくて、よくわからない」というお声を頂きます。

 

年金分割は『配偶者が会社員・公務員(だった)の場合』は、離婚とセットです。

でも年金制度が複雑でよくわからないという皆さんのお悩みを解決するため、本ブログを用意しました。

 

皆さんが年金分割制度をイマイチ理解できない理由は、単純明快。

年金の基礎が判っていないのに、応用編の制度である年金分割を理解しようとするためです。

私の趣味の水泳に例えると、息継ぎもできないのにいきなりクロールで100Mを泳ごうとするようなものです。

 

今回は、先ずは年金の目的と趣旨を端的に説明し、そのあと皆さんの素朴な疑問である健全性について語ります。

安全性と本旨をご理解したうえで、次に制度の概要をまるっとお伝えし、お判りいただきます。

そして、支払う保険料と将来もらえる金額をご説明します。さらに将来もらえる金額を増やす方法をFPとして助言し、最後に年金分割制度を学んで頂きます。

 

年金制度は複雑ですが、日本で生活する以上は、知っておかなければ損をしてしまいますので、皆さんがそうならならいよう、おまとめしました。最後までお読み頂いた際には、年金制度がよくわらかなかった貴方が、年金の基礎を理解し、年金分割制度がすんなりと頭に入り、貴方のお悩みが一つ減ることとなるでしょう。

 

では、早速始めます。

 

 

【目次】

1年金制度の目的と趣旨

2年金制度は大丈夫か?

3年金制度の仕組み(3階建てと被保険者の種類)

4現状支払う保険料額

5いくらもらえる?

6足りないと思える方への補填方法

年金分割とは(離婚時に使える合意分割と第3号分割について)

8結びに

 

 

 

1 年金制度の目的と趣旨

 

 

 

日本の年金制度は、国民生活の向上を目指し、社会保障・福祉の観点から創設された制度です。

全国民を対象とした保険制度として老齢・障害・死亡時に現金給付されます。

保険とは、『加入者が費用を公平に負担することで、万が一の時に給付を受け取り、危険を回避するもの』であり、全国民が対象であるため、全員保険料として費用負担が必要です。

 

 

≪参考≫

・日本国憲法(生存権)

第25条第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めければならない。

 

・国民年金法(国民年金制度の目的)

第1条 国民年金制度は、日本国憲法第25条第2項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。

 

・厚生年金法(この法律の目的)

第1条 この法律は、労働者老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

 

 

 

 

2 年金制度は大丈夫か?

 

 

 

ご存じの通り大丈夫と断言はできません。が、まだ大丈夫でしょう。ダメになったときは、日本が財政破綻(デフォルト)したときかと。その時は、皆さんの預金も紙屑同然です。

 

大丈夫と断言できない理由は、天文学的な数字の国の借金に加え、運営自体が赤字状態です。運営が赤字となる理由は、日本社会の超高齢化社会の進展が原因です。日本の年金制度は、自分が万が一の場合に備え、自分のために保険料を支払うのでなく、今の世代の人間が高齢者等の世代を支える世代間扶養という『世代を超えて支え合う』仕組みで現状成り立っています。保険料を支払う世代が少なくなり、医学の進歩により支えるべき世代数が増えており、どうしても赤字とならざるを得ません。

ただ、そこは福祉の観点から国自身が運営(日本年金機構と言う組織を作り)し、支え続けています。

 

なお、老齢・障害・死亡の3種に備えた保険を民間会社が運営すると今の数倍以上の保険料の拠出が必要と言われています。数倍となれば、保険料が高すぎて、加入者は僅かとなり、保険運営自体ができません。よって、民間会社は、誰も参入できないというのが正直なところです。ただ、国は、生存権の保証の観点から全国民が困らないようにする為、制度として実施しています。

 

 

3 年金制度の仕組み(3階建てと被保険者の種類)

 

 

日本の年金制度は、紆余曲折の末、現在の3階建ての構造で落ち着いています。

よく見る下の図が全てです。この図がイメージできるようになれば、理解したも同然です。

視覚的に認識してみましょう。

1階部分 国民年金 定額の給付(基本的に国民一律に支払い)

2階部分 厚生年金 報酬比例に応じた給付(保険料を納めた額が多ければ多いほどもらえる額が増える)

3階部分 私的年金 1・2階部に個人が上乗せし、自分で備え加入し給付を受け取るもの

 

 

 

 

【図の解説】

 

国民年金(1F)日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する公的年金制度。老齢・障害・死亡時に給付される。

 

厚生年金(2F)会社員や公務員が加入する公的年金制度。厚生年金の保険料は給与に応じて決まり、企業と従業員が折半して負担。これにより、国民年金のみの加入者よりも手厚い年金を受け取ることが可能となる。

 

国民年金基金(2F)自営業者やフリーランスなどの国民年金の第1号被保険者が、老後の所得保障を強化するために設けられた制度。厚生年金に相当する仕組みとして導入された。任意加入であり、掛金は社会保険料控除の対象となり、節税効果がある。ただ、受取可能額は僅か。

 

厚生年金基金(3F)企業が独自に運営する企業年金制度の一種。厚生年金の一部を代行し、さらに企業独自の給付を上乗せして支給する仕組み。現存は、数社に留まる。

 

確定拠出年金(3F)加入者が一定の掛金を拠出し、その資金を自ら運用することで将来の年金額が決まる制度。日本では「企業型DC」と「個人型DC(iDeCo)」の2種類があり、企業型は企業が掛金を拠出し、個人型は加入者自身が掛金を拠出。税制優遇があり、掛金は所得控除の対象となり、運用益も非課税。ただし、60歳まで引き出せないなどの制約も、、、、

 

確定給付年金(3F)企業が従業員の退職後に一定額の年金を給付する制度。企業が掛け金を拠出し、運用を行い、将来的に従業員へ給付する金額があらかじめ決まっているのが特徴。DBと言われる。

 

退職等年金給付(3F)公務員の退職後に支給される年金制度の一つ。3階の上乗せ部相当。

 

適格退職年金(3F)企業が国税庁の承認を受けて、退職金を外部の金融機関(生命保険会社や信託銀行など)を利用して積み立てる制度。1962年に導入されたが、2002年以降は新規の設立が認められていない。なお、2012年までに他の制度へ移行することが決められている。

 

 

次に日本の年金は、加入する方を仮面ライダーのように1号から3号のごとく3種に分けています。加入種別ごとに料金が違い、納めた額に応じて給付額が変わってきます。頭に入りやすくするには、2号と3号をまず理解し、それ以外は1号と考えると良いでしょう。

 

 

第2号被保険者:厚生年金保険の被保険者。(ただし、年金受給権を有する者は除く)具体には、厚生年金保険や共済組合等に加入している会社員や公務員の方。会社が年金と医療保険の双方を算出し、加入者から徴収する。

 

第3号被保険者20歳以上60歳未満第2号被保険者の配偶者。具体には、配偶者がサラリーマンや公務員で専業主婦(夫)の方。保険料は徴収されない

 

※2号と3号に該当しないのが1号になります。↓

第1号被保険者:国内居住20歳以上60歳未満の第2号・第3号被保険者以外の方・具体には、自営業者、農業者、学生および無職の方とその配偶者の方。毎月保険料を自分で納付する必要がある。令和7年度は1か月当たり17,510円。

 

 

 

4 現状支払う保険料額

 

 

前述のように加入種別ごとに料金が違います。具体に記していきます。

 

第1号被保険者 令和7年度時点の国民年金保険料の金額は、1カ月あたり17,510円

なお、第2号と違い、まとめて前払い(前納)すると、割引が適用される仕組み有り。

 

第2号被保険者 標準報酬月額というものを用いて保険料金を決定します。標準報酬月額は、従業員に支払われる給料から算定される額で、厚生年金保険の場合は第1等級(88,000円)から第32等級(650,000円)の32段階に区分され、この標準報酬月額に厚生年金保険料率をかけて厚生年金保険料の金額を計算します。なお、会社と保険料は折半。大阪の協会健保の保険料率は、令和7年度18.30%。

 

第3号被保険者 現状支払い不要。第2号被保険者の皆さんが拠出金として納付し、運営。つまり、自分の配偶者だけが自分の保険料を支払ってくれているのではないので注意。

 

 

5 いくらもらえる?

 

 

年齢・保険料納付要件・請求行為を満たすことで支払われます。簡単に言えば、『支払う要件を満たした者』が「お金ください!」と言わないと支払われません。ですので、要件を満たしているかどうかは、ご自身で理解し、制度を知っておかないと損することとなります。

 

先ず1階部分の金額です。

 

(1F)定額部分=老齢基礎年金

20歳から60歳まですべて保険料を納付した場合は、保険料納付済期間が480月(40年間)になり、老齢基礎年金は満額支給されます。 2025年の場合、年額831,700円 が1年間の満額支給額で、毎月その12分の1(69,308円)が支給されますが、実際には2ヶ月分まとめて年6回に分けて支給されます。

 

 

 

(2F)報酬比例部分=老齢厚生年金

計算式は次の通りです。

老齢厚生年金の受給額=A報酬比例年金額+B経過的加算+C加給年金額の3種で構成されます。

ただ、何のことか全くわからないと思います。細かく理解する必要はありません。要は、保険料を納めた額が多ければ、多いほどもらえる年金額が増える部分のこととイメージしておけば大丈夫です。

※A報酬比例部 

・平成15年3月以前

平均標準報酬月額 × 7.125※/1000 × 平成15年3月までの加入期間の月数

・平成15年4月以降

平均標準報酬額 × 5.481※/1000 × 平成15年4月以降の加入期間の月数

上の式を読み解くと、加入期間が長ければ長いほど、過去の報酬が高ければ高いほど多くの年金がもらえることがわかります。

※B経過的加算 

A以外に加算部分があります。Bの経過的加算は主に20歳前、または60歳以降に厚生年金に加入していた人に加算されます。基本的に20歳以上60歳まで保険料が課されますが、それ以外の期間に加入していた場合に加算が用意されています。

1,621円(令和4年度) × 生年月日に応じた率 × 加入期間の月数 - 老齢基礎年金の額

※C加給年金

Cの加算は、被保険者期間が20年以上で、生計を維持されている配偶者や子がいる場合には、加給年金として加算されます。サラリーマンで奥さんが専業主婦という世帯向けに設けれた加算です。

 

【もらえる額】厚生労働省が『公的年金シュミレーター』というホームページを開設していますので、年金定期便の資料を基に一度シュミレーションし、将来もらえる額を予想してみてください。

 

 

(3F)

残念ながら3階部分は、各個人で備えるべきものであり、納付額と期間、運用益、受取方法など千差万別となっており、一概にいくらもらえるとは言及できません。

一例として個人型確定拠出年金で月3万円を拠出し、30年運用したとして仮定しましょう。10,800,000円支払いますが、受け取る年金額は、17,482,107円です。(手数料などは除く)ちなみにこれは年率3%で運用した場合です。これを毎月、20年間で受け取ると一月あたりは、72,842円。すごい!と思いますが、あくまで30年後の賃金価値は不明ですし、先ず年利3%の運用が確定でないので、鵜呑みにはしないでください。

 

 

 

 

6 足りないと思われる方への補填方法

 

 

第1号被保険者向け

付加年金

保険料に付加保険料(月額400円)をプラスして納付すると、老齢基礎年金に付加年金が上乗せされます。

なお、付加年金額(年額)は、200円×付加保険料を納めた月数で計算し、2年以上受け取ると、納めた付加保険料以上の年金を受け取れます。

例 20歳から60歳までの40年間、付加保険料を納めた場合の年金額(支払い:400円×12月×40年=192,000円)

→200円×480月(40年)=96,000円(年額)が付加年金額として老齢基礎年金に上乗せされます。←よって、2年で元が取れる計算になります。

831,700円(※)+96,000円=927,700円(年額)

※毎月の定額保険料を40年間納めた場合の老齢基礎年金額です。

 

 

第2号被保険者向け

企業型確定拠出年金(DC)

企業が従業員の年金口座に掛金を拠出(支払い)し、従業員が運用します。福利厚生と資産運用の両面を持つ年金のことです。掛金と選んだ運用商品の運用成績により将来の年金額が決まるため、勤続年数や給与条件が同じ方でも受取金額は異なります。

掛金が支払われる期間は企業ごとに異なり、ただ受取期間は60歳から70歳までと法令で定められていることが特徴で、その後の運用資産は、60歳以降に年金または一時金として受け取ることが可能です。掛金を更に上乗せするマッチング拠出制度が利用できるケースもあります。

なお、制度上、企業型確定拠出年金の拠出限度額は1ヶ月55,000円を超えることができません。

 

第1号・第2号共通

個人型確定拠出年金(iDeCo)

・自分で拠出した掛金を自分自身で運用し、将来に備える私的年金制度のことです。掛金を原則65歳まで積み立てすることができます。また、受取は原則60歳以降に可能。

投資の一つですが、年金と名を拝しているので、2大メリットが用意されています。

メリット1 所得税と住民税双方が節約可能

iDeCoで積み立てた掛金は全額が所得控除(小規模共済金等掛金)の対象に!

積立額と所得税率に応じて節税が可能です。

メリット2 運用益に税金がかからない

通常、株や投資信託などの金融商品の運用で得た利益、配当金や分配金には20.315%の税金がかかりますが、iDeCoなら運用で得た収益に税金はかかりません。

 

その一方でデメリットもあります。

最大のデメリットは、「60歳まで引き出すことができない。」につきます。

他にも所詮投資ですので、運用失敗のリスクが有ります。

いざというときに引き出せないのは、お金の必要な子育て世代にとっては、致命的です。よって、子育てが終わってから始めることをお勧めします。

 

ちなみに積立可能額は、次の通りです。

第1号被保険者(自営業者、農業者、学生および無職の方とその配偶者の方) 月68,000円まで

第2号被保険者(会社員・公務員) 月62,000円まで(企業年金等その他制度との合算額)

第3号被保険者(第2号被保険者に扶養される配偶者 月23,000円まで  

 

 

【もう少し詳しく知りたい貴方はコチラ→】私の過去のブログ(離婚時の年金分割に備え、受給額等を増やす6つの方法)

 

 

7 年金分割とは(離婚時に使える合意分割と第3号分割について)

 

 

ようやくここで本業の離婚絡みのお話です。

離婚時に年金分割を請求できます。(昔はもらえませんでした。離婚後、女性の困窮が社会問題となり、行政が動き、制度ができあがりました。)

大事なポイントは、『分割されるのは、年金額そのものでなく、婚姻期間の年金保険料の納付記録』という点です。納付記録が増えることで分割を受けた側の年金額が増える仕組みです。年金構造の2階部分は、納付額が多ければ多いほど、年金額が増えることを思い出してください。つまり、年金分割は、単に2階部分の分割です。この部分に国は制度的にメスを入れています。

 

要は、年金の分割対象は、下の図のその全部でなく一部の赤色で囲まれた部分です。

よって、この赤色で囲まれた部分を所有している(た)方に年金分けてと申し立てる必要があります。

つまり、下の図の青色囲みの方=会社員・公務員(だった)方に限られます

 

 

年金の分割方法は2つあります。

 

1 合意分割

 婚姻期間中の厚生(共済)年金の保険料納付記録(夫婦の合計)を当事者で分割することが認められています。

 

2 第3号分割

 平成20年4月1日以降の第3号被保険者期間については、離婚した場合、当事者の一方からの請求により第2号被保険者の厚生年金の保険料納付記録を自動的に1/2に分割できます。

 

(注意事項)

・分割を受けても、自身が受給権を有しなければ、支給されません

・分割を行った元配偶者が死亡しても、自身の年金受給に影響しません。既に親族でありませんから。

分割された保険料納付記録は、2階部の厚生年金の額の計算の基礎とするが、1階部分の国民基礎年金の額には影響しません。(前述を思い出してください。1階部は皆に均等払いが原則です。よって、1階部分に影響はありません。

請求期限は離婚をした時から2年(権利を有した方が「下さい」と言わないと年金はもらえません。しかも期限を設けられています。)

なお、平均的な分割割合は1/2です。

〇手続きは、日本年金機構で行います。

〇必要書類は次の通りです。↓

・年金分割の情報提供通知書 ・報酬改定請求書 ・年金分割合意書、審判書、調停調書、公正証書など ・マイナンバーカード ・年金手帳 ・戸籍謄本 ・本人確認書類 ・(事実婚)住民票 ・(代理人を立てる場合)委任状及び印鑑登録証明書 ・手数料

 

 

 

 

 

8 結びに

 

 

 

繰り返します。配偶者が年金の第2号被保険者であれば、基本的に離婚と年金分割はセットです。お金をもらうためには、自身が受給資格を満たす必要がありますが、手続きしておいて損はしないでしょう。年金については、制度が複雑(例外だらけ)ですので、弁護士さんや司法書士さんも敬遠気味です。よって、専門の社会保険労務士に相談されるのが一番良いかと思います。

 

 

 

いかがでしたか?

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

お力になれれば、幸いです。

 

なお、月に一度は、お金の勉強に関する情報を更新予定です。

X(旧Twitter)、ブログ共にフォローいただけますと今後の励みになります。

 

 

 

 

【執筆者】離婚マネーアドバイザーFP.Daiki

・AFP

・社会保険労務士有資格者

・年金アドバイザー2級

・離婚カウンセラー

産後クライシスを乗り切れず、離婚。離婚を機に「同じ苦しみを味わう人を救いたい」という思いで再起。

現在は、家計診断・勉強会・個別サポートでお客様の離婚×お金の問題を二人三脚で解決しています。