昨日と今日が大学入試センター試験だとか…私も二十何年か前に受けた。

そして、その後、地方の国立大学を受けた。
日帰りがムリそうなので、前泊をすることにした。

今のようにインターネットが無い時代だから、
JRの窓口に行って、特急列車の座席の予約と共に。
宿泊先を探すことにした。

当時、働いてはいたが、それほど余裕があるわけでも無かった。
なので、私はJRの窓口で「もっと安いところを」と繰り返し叫んだ。

窓口の職員も、私の対応に困り果て…
「(JRの)提携じゃなくて(職員の)知っているところを」
と「民宿」を手配してくれた。

JRの職員が個人的な親切で手配してくれた民宿に向かうと…。
駅からも試験会場からも30分以上も歩く、場末。
しかも、看板は表札程度にしかなく、部屋も5室と無い。
各部屋の扉はふすまで、鍵も無い。
応対してくれたのは、赤ちゃんをおんぶした女性だった。

本当に個人のお宅を、そのまま民宿として使っているようだった。

翌日、つまり受験の朝…朝食を摂りに、食堂に行くと…。テーブルがポツンと2つあるだけ。
一つは4人掛けだが、もう一つは2人で食事をするには余りに小さい。
その4人掛けのテーブルは、私と他の泊り客2人と相席。


他の泊り客は、2人とも30歳前後の男性で、私に気さくに話しかけてきた。
「僕たちは、全国を旅しながら季節の絵を描いているんです。
旅の合間に、季節労働者として働いているんです」と。
私は「そういう人生もあるのか」と感銘を受けていた。

私が朝食を済ませ席を立つと、
(前日応対してくれた)赤ちゃんをおんぶした女性に、台所に呼ばれた。
私が台所に行くと…「これ持っていて」と流しの上を指差した。
見ると、…大きなお握りが3つ。

私は慌てて
「良いんですか?私は駅で1泊朝食の代金しか払っていませんよ」と返すと、
赤ちゃんをおんぶした女性は
「ごはんを多めに炊いておいたんです。持って行って下さいな」と親切に話してくれた。

私は「ありがとうございます」と頭を下げ、涙がこぼれた。
見知らぬ土地で、一人で受験。
昼食を含め、心配ごとが無いわけでは無かった。

みすぼらしい民宿で…とても温かい親切を、愛情たっぷり頂いた。



それから。
2次募集で受けた明星大学の方が先に決まったので、明星に入学した。

あの地方大学に入学していたら、もっと違う人生、もっと丸い穏やかな人間になっていたと思う。

この日記を書きながら、少しだけ……後悔したかな。