渡辺主任から
いきなり話し掛けられて
ビックリした。


この人、わたしの上司だ。


顔良し、スタイル良し、経歴良しで
フルスペックかと思いきや、
やたらと抜けた所がある。


そして、
少しフワフワとしていて
どこかつかみどころがない人だ。


でも、社内の女性陣の間では
かなり人気がある。

 

「あー、いきなりごめんね。
 実は明後日の金曜に急遽
 社長主催のバーベキューを
 社の屋上でやることが
 決まったんだけど、
 もしよかったら、
 一緒に幹事やってくれないかな」
 


え・・・ 何でわたし?



「さっきタイミング悪く
 社長に捕まっちゃって、
 幹事頼まれたんだけど、
 買い出しもあるし・・・
 女性の好みとかも取り入れたいし、
 一緒に幹事やってくれると
 助かるんだけど・・・・・ダメかな?」
 


渡辺主任の整った顔が
捨てられた子猫に見えた。


こんなイタイケな子猫を
無下にしていいものなのだろうか?


と思わせるくらい
困った表情をしていた。



「ダメじゃないですけど・・・・・」
 

「あ・・・無理にとは言わないけど、
 一応幹事には特別手当を出すって
 社長が言ってたよ」



特別手当・・・・・



ものすごく魅力的な餌を
ぶら下げましたね、主任。


んー・・・


今そんなに忙しくないし、
以前やったバーベキュー
結構楽しかったし、
やってもいいかな・・・


「わかりました。
 お引き受けします」


わたしがそう言うと、
渡辺主任は嬉しそうな顔を浮かべ、


「ありがとう!
 まあ、当日の買い出しと
 準備がメインだから、
 そんなに大変じゃないと思うよ。
 それじゃあ、明後日
 お願いします」


と言い、
自分のデスクに戻って行った。



それにしても、渡辺主任は
何でわたしを幹事に誘ったんだろ?


渡辺主任が幹事なら、
一緒に幹事やりたいって人
結構いそうなのに・・・・・


わたしは少し疑問を感じつつも
仕事を始めた。





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社内バーベキュー当日。


今日は快晴で、
絶好のバーベキュー日和になった。


昼休みが終わると、
今晩バーベキューの会場となる
社の屋上にセッティングしに行った。


バーベキューコンロやテーブル、
イス等を準備すると、
渡辺主任と共に買い出しに出掛けた。



お肉とお酒は
社長が用意してくれるらしく、
野菜とおつまみ、割り箸、紙皿等を
買った。



買い出しの帰り道、
日差しが強く真夏のように暑かった。


渡辺主任とわたしは
暑さに負けて、
偶然見つけたキッチンカーで
アイスコーヒーを買い
木陰のベンチで一休みをした。



「あっついねー。
 夕方になったら涼しくなるかな」


「涼しくなるといいですよね」


「そうだね・・・・・
 ねえ、長濱さん。
 長濱さんって好きな人いる?」



渡辺主任は声のトーンを全く変えず
いきなり質問をしてきた。


わたしは正直に答えた。



「・・・・・います」



すると渡辺主任は
コクコクと頷いて、


「そっかぁ・・・
 いるよねー・・・・・」


と言いこちらを
じ~っと見てきた。



え・・・・・何?



「じゃあさあ・・・・・」



渡辺主任はそう言うと
少し顔を赤くして
わたしに質問した。



「んー・・・あの・・・・・
 経理の長沢さんって
 好きな人いるのかなぁ・・・
 お付き合いしている人とか・・・
 何か知ってますか?」



へっ!?



「ほら、長濱さんって
 長沢さんと同期でしょ・・・
 結構仲良さそうだし、
 彼女の事なにか知ってるかなと・・・」





はっは~ん!


なんとなく読めた。



渡辺主任がどうしてわたしに
幹事をやらないかと誘ってきたのも、
そういう訳か・・・・・



「今はいないと思いますよ!
 チャンスです(笑)」



すると渡辺主任は
満面の笑顔で、



「えっ、ほんと!? 
 チャンスなの!?
 おおっ!! やったぁ!!!」



と、普段なら滅多に出さない
大声を出して喜んだ。



「あ~ ありがとっ!
 うん本当にありがとう!!
 デートに誘ってみるよ」



渡辺主任は
つかみどころがない人だとばかり
思っていた。


だけど、
実際はかなり正直で純粋な人だった。



どこかの誰かさんみたいに・・・・・



こんな正直者から
愛の告白をされる人は幸せ者だ。





「そろそろ戻ろっか。
 野菜切っておかなきゃ
 いけないしね」


「そうですね」


 
立ち上がった瞬間
ロードバイクに乗った
メッセンジャーが猛スピードで
わたしの前を通りすぎて行った。


わたしはバランスを崩し
よろめいた。


渡辺主任が瞬時に反応し
わたしを抱きとめてくれた。



「ありがとうございます」


わたしはいきなりの事に
少し赤面していた。


すると渡辺主任は、
けろっとして言った。



「いえいえ。
 長沢さんのお友達に
 怪我でもされたら困りますから」



あははっ・・・


ホントこの人、正直だわ・・・・・



主任は人懐っこい笑顔を向けると、
氷だけが残った
コーヒーの使い捨てカップを
キッチンカー近くのゴミ箱に捨てに
いった。


わたしは気を取り直し荷物を持った。



さて、これからバーベキューだ。


幹事だし、
もうひと頑張りしなくちゃ。





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