あの日以来、
わたしは毎朝40分程
早く起きている。


あの日と同じ時間に出勤すれば
平手くんに遭遇する確率が
高くなるという事に気が付いた。


だけど、
勇んで準備をしても
いざ出掛けるとなると
毎朝のように迷ってしまう。


そして、結局
いつもと同じ時間に出掛けている。


今日だってそうだ。


準備は出来ていた。


あとは玄関を出るだけだった。


でも、わたしは
いつもの時間まで
スマホをいじってしまった。


そしてため息をつく。


その繰り返し。





あの日は、彼にちゃんと
想いを伝えたい、伝えられる、
と思ったのに、

日に日にその自信が
なくなっていった。



もし、彼に拒絶されたら・・・


もし、彼にすでに彼女がいたら・・・


もし、その彼女と仲良く
マンションから出てくる所を
目撃してしまったら・・・



期待を膨らませてしまった分、
立ち直れないかもしれない。



わたしの彼との
やり直しシミュレーションは、

あくまでも
彼が現在フリーである事を
前提としている。



もし彼に彼女がいたら、
そこに割って入って、
彼を略奪しよう、

なんて大それた事は
わたしには出来ない。



彼を待ち伏せして
部屋番号を確かめたり、
偶然を装って話し掛けたり、
なんて度胸も備わっていない。



でも、なんとか彼の情報が欲しい。


わたしの平手くんの情報は
親友の理佐の結婚式から
更新されていない。


だけど、
ストーカーまがいな行動をしてまで、
彼の情報を集めようとは思わない。


どんなに彼の事が好きでも
ストーカーと化す事は許されない。


それは、法的にも、倫理的にも、
自分の中の道徳的にも
あってはならない。


ストーカーになるくらいなら
いっそ引っ越そうかとも思う。





・・・って、


すでに自分の思考が
ストーカーと化す事を
前提としていて怖くなった。



ハァァァ・・・・・ どうしよう・・・・・



自分の気持ちが向かう方向を
見失いそうで不安になった。


この不安な気持ちを
誰かに打ち明けたい。


そう思ったら
スマホの画面を見つめていた。


メッセージアプリをタップした。


理佐に話を聞いて欲しい。



もう新婚旅行から帰ってきてるし、
会えるかな・・・


今更だけど、
新婚さんにこんなじれったい
恋の相談をするのは迷惑かな・・・



迷っていたら
降車駅に到着していた。


スマホを鞄にしまい電車を降りた。





会社に着くと、
スマホを持って休憩室に行った。


気持ちを落ち着かせるため
コーヒーを飲んだ。


すると、スマホが鳴った。


理佐からメッセージが入った。



(今週の土曜日、空いてる?)


(空いてるよ。)


(おみやげ渡したいんだけど、
 マンションにお邪魔してもいい?)


(おいでー。
 わたしも話したい事があって。)


(平手くんのこと?)


(そう、いいかな?)


(うん、わかった。
 また連絡するね。)


(ありがとう。)



わたしの気持ちを
察したかのようなタイミングで
理佐から連絡が来たから
なんだか嬉しかった。



理佐に話をする事が出来ると
思っただけで、
気持ちが落ち着き、
それまでの不安が薄まっていった。





始業時間になり
自分のデスクに戻った。


パソコンを立ち上げようとした時、
誰かに話し掛けられた。


横を向くと、
社内一のモテ男・渡辺主任がいた。



「長濱さん、
 明後日って時間ありますか?」





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