あの日以来、
僕は終業時間がくると
それまでより早く会社を出ている。
あの日と同じ時間に帰宅すれば
長濱さんに遭遇する確率が
高くなるという事に気が付いた。
だけど、
会社を出て駅に向かう途中で
いつも迷っている。
もし次に見掛けても
話し掛けず見ているだけじゃ
意味がない。
それでは今までと大差ない。
でも、
思い切って話し掛ける勇気がない。
そして、結局
駅前の本屋で時間を潰し
いつもと同じ時刻の電車に乗り
帰っている。
今日だってそうだ。
早足で駅に向かった。
あとは改札を通るだけだった。
でも、僕はそれが出来なかった。
そしてため息をつく。
その繰り返しだ。
あの日は、
次に彼女を見た時には
しっかり追いかけて、
話をして、想いを伝えたい、
と思ったのに、
日に日にその自信が
なくなっていた。
もし、つかんだ手を振り払われたら・・・
もし、彼女にすでに彼氏がいたら・・・
もし、彼女が僕を見て
悲しい顔をしたら・・・
期待を膨らませてしまった分、
立ち直れないかもしれない。
少々気恥ずかしいが、
僕は彼女とのやり直しシミュレーション
をしてみた。
だけど、それはあくまでも
彼女が現在フリーである事を
前提としている。
もし彼女に恋人がいたら
彼女を奪い取ってやろう
なんて事は考えても
絶対に行動には移せない。
ましてや、
彼女を尾行して
部屋番号を確かめたり、
行動を範囲を把握したり、
なんていう、
どこか犯罪めいた事を
自分が出来るとは到底思えない。
それでも僕は
何とかして彼女の情報が欲しかった。
僕の長濱さんの情報は
志田先輩の結婚式から
更新されていない。
だけど、
ストーカーと化してまで
彼女の情報を集めようとは思わない。
どんなに彼女の事が好きでも
彼女に恐怖心を与えたり、
不快な思いはさせたくない。
そんな事をしたら
絶対に自分で自分が許せなくなる。
そうなるくらいなら
いっそ引っ越したほうがマシだ。
・・・って、
すでに自分が
ストーカー行為をする事を
前提としていて怖くなった。
もう、どうしたらいいんだ・・・・・
何かの瞬間に
自分の気持ちが暴走しそうで
不安になった。
この不安な思いを誰かに話したい。
そう思ったら僕は本屋を出て
鞄からスマホを取り出していた。
メッセージアプリをタップした。
志田先輩に相談しようかな・・・
もうとっくに新婚旅行から
帰ってきてるだろうし、
時間あるかな・・・
でも、今更だけど、
こんな相談、迷惑かな・・・
自分で何とかするべきなのか・・・
僕は迷った末、
スマホを鞄に戻し駅へと向かった。
マンションに帰ってくると、
いつもより長く手を洗っていた。
やっぱり志田先輩に相談しよう。
うがいを済ますと
ソファーに腰掛け鞄からスマホを
取り出した。
すると、スマホが光っていた。
見ると志田先輩から今さっき
メッセージが入ったみたいだ。
(今週の土曜、空いてる?)
(空いてます。)
(おみやげ渡したいんだけど、
マンション行ってもいいか?)
(はい。
実は相談したい事があります。)
(長濱のこと?)
(はい。いいですか?)
(勿論。また連絡する。)
(ありがとうございます。)
僕の気持ちを
察したかのようなタイミングで
志田先輩から連絡が来たから
なんだか嬉しかった。
志田先輩に
相談できると思っただけで、
落ち着きを取り戻していた。
部屋着に着替えて
台所に行った。
冷蔵庫を開けると
空芯菜と厚揚げがあったので
それをごま油で炒めて
中華味の顆粒と醤油で味付けをした。
ご飯をレンジでチンすると、
お茶碗によそい
テーブルに持っていった。
テレビを見ながら
晩ご飯を食べていたら
スマホが鳴った。
口をもぐもぐさせながら
スマホを見ると、
会社の同期である森田から
メッセージが入っていた。
(明後日、久しぶりに晩飯でもどう?
ちょっと相談があって。)
相談って・・・・・
人に相談したい僕が
人の相談を受けて
いいものなのだろうか・・・
でもこういうのって
巡り巡るからな・・・・・
僕は少し考えると、
(OK)と返信した。
すると、すぐさま
(サンキュー)と帰ってきた。
テーブルにスマホを置くと
残りのご飯と厚揚げを頬張った。
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