翌朝、会社に行くと
入り口で森田が待っていた。


森田とは新入社員研修の時に
同じグループになり仲良くなった。


小柄で小動物を彷彿とさせる
可愛い顔立ちをしており、
女子社員から人気がある。


でも本人は可愛いと言われる事を
嫌い、社内でアイドル的な扱いを
される事も嫌がっている。


真面目で芯のある男で、
かなり頼りになる。


そんな奴が昨日
僕に相談があると
スマホにメッセージを寄越した。



「おはよっ。
 昨日はいきなりごめんな」


「おはよう。
 別に大丈夫なんだけどさ、
 何の相談?」
 


エレベーターから降りると
森田は休憩室に僕を誘導した。



「いやぁ・・・
 あのさ・・・お前の部署に
 田村さんっているだろ」


「うん、隣の席」
 

「マジで・・・」


「うん、で、
 田村さんがどうしたんだよ」


「あ、んー・・・・・」


なんか森田、
最近の僕と同じ様な顔して
悩んでる気がする。



もしかして・・・



「好きなのか、田村さんのこと」


「・・・うん」


「相談って、そのこと?」
 

「あ、うん・・・いいか・・・」



いいか、と言われても・・・


今の僕には
人の恋愛相談にのる余裕など
正直言って持ち合わせていない。


でもな・・・・・


もしかしたら、
ある程度悩みを共有できるかも
しれない。


そう思ったら僕は、


「いいよ」


と、答えていた。



「ありがとう!
 今日中に店を決めて
 連絡入れるから」


「わかった。じゃあ明日な」





自分の部署に入り、
デスクに鞄を置くと、
後ろから「おはよう」と
声を掛けられた。


振り向くとマグカップを持った
田村さんが立っていた。



「えっ、あっ、おはようごさいます」



ついさっきまで
田村さんが会話に出ていたので
少し動揺してしまった。



「あははっ、どうしたの
 きょどってるよ」


「あ、いや、
 ちょっと考え事してたので・・・」


「なあにー、恋の悩み?」



そうです! なんて言えない。


あなたも・・・田村さんも
関係してるんですけど・・・


なんか二重苦・・・
いや三重苦なってる気がする・・・



僕が何も言えないでいると、



「恋の悩みかぁ~」



と、田村さんに
ほぼ断定されてしまった。



「いいなぁ~、
 私もたまには恋煩いがしたい・・・」



何言ってるんだ、この人は・・・



え・・・でもこれって・・・・・



僕は田村さんに
思い切って聞いてみた。



「あの・・・田村さん、
 彼氏いないんですか?」



うわっ

この聞き方完全にセクハラじゃん・・・



「ああっ、ごめんなさい・・・
 セクハラ発言でした」


「別に今のは私が
 前振りしたようなものだし・・・
 もしかして私
 男性に餓えてるように見える?」



なんて答えればいいんだ・・・



田村さん美人で可愛いし
どう見てもモテるでしょ。


あっ、でもこういう人って
高嶺の花だから
案外近寄りがたいのかな・・・


いや、マジでわかんない。


どうしよ・・・・・



すると田村さんは
コーヒーを一口飲んで、


「意地悪な質問しちゃって
 ごめんね。
 もう最近全然出会いがなくって・・・
 平手くん良い人紹介してよっ(笑)」


と言いやわらかく微笑んだ。


その微笑みは、
僕の好きな"彼女"にどこか似ていて
ドキッっとしてしまった。





田村さん良い人なら
今すぐにでも紹介出来ますよ。



森田の恋愛が案外すんなりと
うまく運びそうで、
僕は少し安心していた。





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翌日、
僕は出先からの帰り道に
遅めのランチに行った。


晩は森田と外で食べるから
昼は軽めに済まそうと思い
立ち食いそばの店で
かけそばを食べた。


今日に限ってコンタクトが
上手く目に入らず、
眼鏡を掛けていた。


お陰で、そばを食べてる間中
眼鏡は曇りっぱなしだった。


食べ終わり店の外に出ると
真夏のような暑さだった。


店内はエアコンが効いていて
涼しかったけど、
さすがにこの暑さで
上着を羽織っているのは大変だった。


僕は上着を脱いで
腕に掛け、ネクタイを緩めた。



青信号が点滅していたけど、
暑さで走るのはやめた。


ロードバイクに乗った
メッセンジャーが
猛スピードで走っていった。


信号待ちをしていると、
横断歩道を渡りきった先に
キッチンカーがあった。


なんか冷たい飲み物でも
飲みたいな、と
僕は思いを巡らせていた。


その時、
キッチンカーの向かいにある
ベンチ近くの木陰で
男女が抱き合っているのを
目撃してしまった。



明るいうちからよくやるよ・・・



男は長身で、遠目からでも
イケメン・・というよりハンサムという
言葉が似合う感じの人だった。


女は後ろ姿だけだけど
綺麗な人特有のオーラを
纏っている感じがした。



なんだかなぁ・・・



僕はやっかみ半分で
その男女を見ていた。


二人はわりとすぐに離れた。



男は使い捨てのカップを
両手に持つと、
キッチンカー近くのゴミ箱に
捨てに行った。



振り返った女は・・・・・





え・・・





僕は自分の思考が
停止したのかと思った。



体の力が抜け、
気力が根こそぎ奪われ行くような
そんな感覚だった。 



その女は、長濱さんだった。



僕は何度も瞬きをした。


眼鏡がどこか
おかしいんじゃないか
と思って外してみた。


おかしい所なんて
あるはずがなかった。


掛け直すと、
長濱さんはその長身ハンサムと
楽しそうに笑いあっていた。



自分が馬鹿みたいだった。



こんな一瞬で
砕け散ってしまうような事を
思い悩んでいたなんて・・・



こんなことなら
正々堂々彼女に聞くべきだった。


その方がまだショックが小さかった。



不意打ちって・・・



心の準備なんて出来ていなかった。





僕は遠ざかる長濱さんの背中を
見送った。


信号はとっくに青に変わり
また点滅を始めていた。





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