僕は大学では文学部だった。


ただ漠然と文学研究をしたい
とだけ思っていた。


夢を見つけるために
大学に入ったようなものだった。


初めのうちは
それでいいと思っていた。


でも僕の周りには
将来の明確なビジョンを持った人が
沢山いた。


その人達を見ていたら
自分が薄っぺらく感じた。


僕は志望大学に合格した時点で
少しばかり燃えつき症候群に
なっていた。


だから、将来を語れる人が
やたらと眩しく遠い存在に思えた。





気が付いたら落ちこぼれていた。



講義についていくのが精一杯だった。



大学に行くのが
苦痛に感じる日さえあった。



ぼんやりと掲げていた目標すら
見失いそうだった。



そんな時に出会ったのが
ウェアウルフ語だった。



偶然の出会いだった。





ある時、
古文書コレクターであった祖父が
老人施設に入所することになった。


僕は祖父の家の片付けを
手伝いに行った。


そこで、
ウェアウルフ語の絵本に出会った。



衝撃的だった。



見ても何が書いてあるか
全然わからなかった。


でも、
この言語を訳してみたい、と
僕の本能が言っていた。



祖父はコレクションの大半は
とある大学に寄贈することを
決めていた。


僕は祖父に話をし、
ウェアウルフ語で書かれた書物だけ
全て譲り受けた。



そこからは、必死で勉強した。



図書館に通い闇雲に資料を漁った。


先生はおらず独学だった。


それでも、単語がわかり、
一文読めるようになっただけでも
嬉しさが込み上げた。


ぼやけていた目標が
鮮明になってきているのが
わかった。



しかし、
ウェアウルフ語の資料は限られていた。


辞書も販売されていたが、
中古でもかなり高価な物で
学生の僕には手が出せなかった。


それでも
僕はこの言語を何としてでも
自分の中に落とし込みたかった。










ある日、バイトに行く前
いつものように図書館に寄った。


不規則な生活が続いていた為
突如眠気に襲われた。



僕は、ガクッと船を漕いでいた。


その勢いで資料を床に
落としてしまった。



僕は船を漕いだ衝撃と
物が落ちた音で覚醒した。



足下は紙だらけになっていた。



慌ててかき集めた。



その時、
一人の女性が静かに近づき
僕の近くにしゃがんだ。



彼女は手早く資料を拾うと
それを手渡してくれた。



綺麗な人だった。



ほんの一瞬だけ見た彼女の目は
吸い込まれそうなくらい美しかった。



でも、その瞳は
わずかに憂いを帯びていて
どこか寂しそうに見えた。



僕は彼女にお礼を言った。



彼女はお辞儀をすると
元いた席へと戻って行った。



どこかミステリアスで
近寄り難い雰囲気を纏っていた。





その日から
僕は彼女の事が気になっていた。



彼女も毎日のように図書館に
通っていた。


僕は、図書館に来る度に
彼女を捜した。


でも、見つけても
話し掛けたりはしなかった。


というか、できなかった。



僕にとって彼女は、高嶺の花に思えた。


もし話し掛けても、
軽くあしらわれたら
かなりショックを受けそうだった。


だから、
少し離れた場所から
見ているだけでよかった。


目の保養だけで充分だった。





そんなある日、
彼女の方から僕に話し掛けてきた。





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