あれは確か大学が休みの日だった。



僕は暇を見つけては
ウェアウルフ語の勉強をしていた。


バイトの時間までは
いつもほとんど図書館にいた。



あの日も、
僕は開館と同時に図書館に入った。





お昼丁度だと休憩所が混むから
少し早めにお昼を食べた。


食事をしている時間が
もったいなくて、
コンビニで買ってきたおにぎりを
急いで食べた。


そして、それを
ペットボトルのお茶で流し込んだ。



彼女に話し掛けられたのは
そんな時だった。



ビックリして
思わずむせてしまった。



僕の驚き方が
よほど滑稽だったらしく
彼女は白い歯を覗かせて笑った。



それが初めて見る彼女の笑顔だった。





彼女は大学で
僕の事を見かけたと言った。


彼女も大学生だった。


しかも僕と同じ大学だった。


正直、驚いてしまった。


見た目から社会人だとばかり
思っていたからだ。



その日僕らは、
特に何か発展のありそうな会話を
したわけではない。


それでも、
彼女と会話できたことが
妙に嬉しかった。





それから、僕と彼女は
図書館で顔を合わせる度に
挨拶するようになった。



何度も顔を合わせていたら
話をするようになった。



何度目かの時に
お互いまだ名前を知らない事に
気が付き自己紹介をした。



彼女は由依と名乗った。


僕より二つ年上だった。



僕は、彼女の事を由依さんと呼んだ。


彼女は、僕の事を平手くんと呼んだ。



彼女は本が好きだと言った。


図書館も好きだと言った。



静かな空間で、
誰もが本に向き合ったり、
勉強に向き合ったりしている。


その空気の中で本を読むのが
好きだと教えてくれた。



彼女は、落ち着きがあり
大人っぽくてクールに見えた。


だけど、
笑うとキュートで少女のような
愛くるしさがあった。





僕と彼女は、
図書館で会う度に
休憩スペースで話をした。


いつも10分くらい
たわいのない話をした。



どんな音楽を聴いてるか、とか、

どんな店に買い物に行くか、とか、

どんな食べ物が好きか、とか・・・



僕はその10分を
待ち焦がれるようになっていた。



ただの知り合い。



それ以上でも、
それ以下でもない関係だった。



でも、
彼女と話をすると
心が落ち着いた。



彼女の声が耳に心地よかった。



彼女に会えると思うだけで
心が弾んだ。



彼女を想像するだけで
胸が締め付けられるような
感覚を覚えた。



大学では学部が違うから
廊下ですれ違うことは
ほとんどなかった。


僕にとって図書館が
彼女の近くにいられる
唯一の場所だった。


だから、
図書館に通うのが楽しくて
しょうがなかった。


閉館日は、
心にぽっかり穴が空いたような
感覚を覚えた。



彼女が図書館に姿を現さなかった日は
自分でも驚くほど落ち込んだ。





僕は間違いなく
彼女に惹かれていた。



そして、
ウェアウルフ語の勉強以外にも
図書館に通う理由を見つけていた。





でも僕は、
自分自身の気持ちに
気付かないふりをした。


その関係に
心地よさを感じていたからだ。


一歩でも踏み込めば
その関係が壊れてしまうと思った。


壊れてしまうくらいなら
知り合いのままでいいと思っていた。





そんなある日・・・・・





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