食後、後片づけを手伝い
帰り支度をしていると
おばあさんに少し待つようにと
呼び止められた。



おばあさんは、
リビングの隣の部屋に行くと
すぐ戻ってきた。


手には分厚い一冊の本を
持っていた。





「大切に使ってくれますか?」



おばあさんはそう言って
僕にその本を差し出した。



それは、
ウェアウルフ語の辞書だった。



おばあさんは、
僕にその辞書をプレゼントすると
言った。



僕は感激で手が震えた。





「大切に使わせて頂きます」


と言い、
僕はその辞書を受け取った。



おばあさんは
僕が辞書を受け取ったのを確認すると、
まるでベテラン教師の様に
しゃんと背筋を伸ばした。


そして、
明日からウェアウルフ語の会話を
僕に教えると言った。



突然のことで僕は思わず、


「えっっ!?」 と声を出していた。



なんと、
由依さんのおばあさんは
ウェアウルフ語の話者だった。


そして、なんと
由依さんも少しだけ
話せるらしかった。


どうやら、
由依さんは小さい頃
おばあさんからウェアウルフ語を
習っていたようだ。



おばあさんは僕の事を
信用していると言ってくれた。


だから、
ウェアウルフ語を教える
とも言った。



僕は人からそんな事を言われるのは
初めてだった。



涙が出そうだった。



今まで運命なんて
考えた事はなかったけれど、
由依さんと由依さんのおばんさんに
出会えたことに運命を感じた。





次の日から
会話のレッスンが始まった。





僕は時には泊まり込んで
教えてもらった。


おばあさんは
快く受け入れてくれた。


僕は、由依さんといられる時間も
増えて幸せだった。



ご飯をご馳走になり、
言語を教えてもらい、
お孫さんとお付き合いまで
させてもらっている。


正直もう婿入りする覚悟が
できていた。


そのことを由依さんに話すと
少し頬を赤くした。


だけど、すぐに爆笑された。



そう言ってくれるのは
すごく嬉しいけれど、

おばあさんは別に恩を売っている
わけではないから、

そんな仰々しく考えなくて大丈夫、
だと言われた。


でも行く行くは、
そういう関係になれたらいいと
思っている、とも言われた。


由依さんからそう言われた時、
僕はもう恥ずかしいくらい
アドレナリンが出まくりで
鼻息が荒くなっていた。


僕は自分のためにも、
二人のためにも、
絶対ウェアウルフ語を習得してやる
と決意した。





しかし、
発音は何度練習しても
僕には習得できないものが
多かった。


それでも、
やはり耳で聴いて学べるというのは
とても貴重で有り難かった。





由依さんが僕に興味を持ったのも
このウェアウルフ語がきっかけ
らしかった。



ある時、
僕が図書館で熱心に
ウェアウルフ語の資料を
読んでいることに気が付き
親しみが湧いたそうだ。


それは、
僕が資料を落としてしまった
あの時だった。



あの時、
資料を落としてよかった。


拾ってくれのが彼女でよかった
と、心の中で思った。



ウェアウルフ語が
僕達を結びつけてくれたようだ。















あの日、
由依さんのおばあさんから
頂いた辞書は、今では仕事の上で
僕の大切なパートナーだ。





僕は辞書をめくり
パソコンのキーボードを叩いた。





お腹だ鳴った。



時計を見た。



あ、晩ご飯何にしよ・・・・・





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