彼女の話が、
別れ話ではなかった事に
胸を撫で下ろした。
だけど、
その夜は正直眠れなかった。
狼人間の変身といっても
実際のところ様々だった。
その人の性格や、本来の人間性が
関係しているとか、してないとか・・・
隔世遺伝のほうが強く出るとか、
出ないとか・・・
少々曖昧な点が多く、
どれが確かな情報なのか
わからなかった。
日本では狼人間の方が
多数派の世の中なのに
何故そうなのかと言うと、
話は医療分野に飛ぶ。
狼人間が罹患する病気などは
純人間と同じで、
血の濃さは一切関係ないと
いわれている。
そのため、
人間も狼人間も
同じ医療を受けている。
手術などは、満月の日を避けて
行われているらしい。
狼人間だからといって
何か特別な処置が必要になるとは
聞いたことがない。
医療の分野でさえ
そういった感じなので、
変身については未だ謎が多い。
解明されている事といえば、
狼人間の血が濃いほど
変身するパーツが多いということ
くらいだった。
僕は狼人間の血が薄い方だ。
人間の血の方が濃く、
変身といっても耳だけが
ひょこっと生えてくる。
変身は人によって違う。
僕のように
耳だけの人もいれば、
尻尾だけだったり、
ヒゲだけだったり、
手や足が肉球に変化したり、
毛深くなったり、
牙が生えたり、
目の色が変化したり、等々
また、これらのパターンの
組み合わせだったりする。
大抵のパターンは見ていた。
だけど、
頭からつま先まで、
まるまる変身する人は
見たことがなかった。
でも、正確にいうと、
生では見たことがなかった。
実のところ、
小さい頃にテレビでは
数回ほど見たことがあった。
どれもヨーロッパの人だった。
どの人も変身すると
ある程度のサイズに
巨大化するものだから驚いた。
ただ元のサイズより大きくなり、
容姿が狼になるだけだ。
それでも、
見た目がかなり強そうで
テレビ画面越しでも
少し恐怖心を抱いたのは確かだった。
だからだろう、
彼女が、
僕の心の整理がついてから
変身した姿を見て欲しい、
と言ったのは。
彼女の全てを受け入れる覚悟は
出来ている・・・・・つもりだった。
でも、
彼女が変身する様を想像すると
心臓がやたらとバクバクした。
普段の綺麗で可愛い彼女が
変わってしまうことに
ショックを受けそうだった。
もし、僕が
ショック受けた顔をしたら
きっと彼女を傷つけてしまう。
だからって
なんて声を掛けたらいいのか
わからない。
僕は変身した彼女に
普通に接する事が出来るのだろうか?
いっそ、「モフモフだねぇ~」
って、触れればいいのだろうか?
はたまた、「強そうな君も素敵だね」
なんて言えばいいのだろうか?
あー、それは何かダメだ。
驚かない、何も言わない、
なんて事は難しい。
いざ変身した時じゃないと
何もわからない。
彼女を大事に思う気持ちに
一切ブレはなかった。
とりあえず、
その気持ちがあるなら大丈夫だ、と
僕は自分に言い聞かせた。
あの話から数ヶ月後・・・・・
僕の心の整理は
ある程度ついていた。
でも、由依さんの心の整理は
まだのようだった。
話しはしたものの、
日に日に変身を見られる恥ずかしさが
増していったようだ。
結局、彼女の変身した姿を
一度も見る事なく
僕は彼女と賃貸マンションの
内見に行った。
「由依は変身した姿も素敵よ」
と、おばあさんは言っていた。
その言葉は僕にとって
かなり心強いものだった。
そうだよ。由依さんは由依さん。
後は僕の受け止め方次第。
僕達は新月の日に
今住んでいるマンションに引っ越した。
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