駅に着くと人はまばらだった。
僕は彼女が食べたがっていた
パティスリー・セゾンという
洋菓子店のプリンをお土産に買った。
今日は、
彼女が起きているうちに帰れる。
それに何よりも
彼女との約束を守れる。
そう思うと
心が踊り足取りが軽かった。
空気が澄んでいた。
息をしているだけで
心地よかった。
夜空を見上げた。
満月はどこか
神々しい輝きを放っていた。
マンションのエントランスを
駆け上がり、
逸る気持ちを抑えながら
エレベーターを待った。
エレベーターのドアが開くと、
中からお隣さんである
年輩の御夫婦が出てきた。
これから夜の散歩をしながら
月見をするのだそうだ。
奥さんは、
綺麗な尻尾と耳が生えていた。
旦那さんの方は純人間のようで
どこも変身していなかった。
その代わり、
奥さんの綺麗な尻尾を
僕に自慢した。
奥さんは恥ずかしがっていたけど、
結構満更でもない顔をしていた。
本当に仲のいい夫婦だ。
夜の散歩かぁ・・・
由依さんは以前、
満月の夜に出掛けてみたいと
言っていた。
今日なら出掛けられそうだ。
ちょっとそこまで散歩程度だけど
たまにはそういうのも悪くない。
散歩に誘ってみようかな・・・
そんな事を考えながら
エレベーターを降り、廊下を歩いた。
玄関の鍵を開け、
「ただいま~」
と言うと、
小さく クゥ~ン と鳴く声がした。
靴を脱いでいると、
トットット テケ テケ テケ
という足音が聞こえた。
由依さんだ。
僕がしゃがむと
彼女は僕の膝に飛び乗ってきた。
「ただいま!
約束していたお土産買ってきたよ」
すると彼女は
愛くるしい瞳で僕を見て
尻尾を振った・・・・・
由依さんの変身した姿を
初めて見たのは、
同棲してから15日目だった。
一緒に生活していく上で
満月の日の過ごし方は重要だ。
しかも彼女は純血の狼人間。
満月の夜の生活様式が僕とは違う。
同棲を開始した頃には、
僕の心の準備は出来ていた。
僕は座して変身する様子を
見ようとした。
だけど、彼女は恥ずかしがった。
まあ確かに、
見られてる方からしたら緊張する。
満月が出る少し前に
彼女は寝室に行き、
僕はリビングで待った。
変身したらドアを2回ノックすると
彼女は言った。
その合図があってから
ドアを開けて欲しいと言われた。
鶴が出てくるあの日本昔話の
決して覗かないで下さい的な事は
言わなかった。
僕は覗きたくなった。
だけど、それを我慢した。
彼女が多少なりとも
羞恥心を覚えるのであれば
覗くのは良くない事だ、と
自分に言い聞かせ我慢した。
僕は固唾を飲んでリビングで待った。
僕の縦長三角形の耳が生えてから
数十秒程経った頃に合図があった。
ドアをノックするというよりも
カリ カリッ
と引っ掻く様な音が
わずかに聞こえた。
そっと寝室のドアを開けた。
するとそこには、
銀色に輝く
美しい毛並みをし
右目は青く、
左目は金色をした
小型愛玩動物が
ちょこんと座っていた。
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