初めて由依さんと
満月の夜を過ごした翌日、
彼女は自身の家系の事を
話してくれた。
由依さんの家系は
由緒正しい狼人間の家系らしかった。
その歴史は、
江戸時代初期に遡るらしい・・・・・
江戸時代、狼人間の地位は
純人間に比べまだまだ低かった。
彼女のご先祖様は、
初めは行商人だった。
ある満月の夜、
ご先祖様は道に迷い
帰りが遅くなってしまった。
そして、
すでに変身した姿で江戸に入った。
変身したその姿は、
知らない者から見たら
容姿の美しい野犬に見えたらしい。
江戸時代といえども
当時はまだ些か物騒で、
辻斬りが横行していた。
また、武士の中には刀を新調すると
野犬で切れ味を確かめる者もいた
らしい。
なので、
変身した姿で暗がりを歩くのは
とても危険だった。
そんな時、ご先祖様は
二人組の不逞な輩に見つかって
しまった。
その二人組は
刀を抜き襲いかかってきた。
ご先祖様は俊敏に体を翻し
その刀を避けた。
が、丁度そこに、
近くの料理屋から出てきた
駕籠が通り掛かった。
不逞な二人組は矛先を変え
その駕籠に襲いかかろうとした。
ご先祖様はその輩に飛び掛かり
一人の手首を噛み、
もう一人の脚を噛んだ。
そして、遠吠えをし仲間に知らせた。
すると見る見るうちに
狼人間たちが集まり
その二人組を取り囲んだ。
そこに騒ぎを聞きつけた
町方同心が駆けつけ
二人組は召し捕られた。
駕籠かきも駕籠の中の人物も
無傷だった。
後日、ご先祖様とその仲間は、
突如、町奉行所に呼ばれ、
そのまま江戸城に連れていかれた。
すると何故か
将軍様への謁見を許された。
そして、
将軍の警護職として
急遽、幕臣に取り立てられた。
なんと、
駕籠に乗っていたのは
老中の御嫡男だった。
その御嫡男は老中に対し、
狼人間に命を救われたこと、
狼人間は優秀な一族だということを
老中に話した。
すると
その話はすぐに将軍の耳に入り
あれよあれよと、
狼人間を召し抱えることが
決定したらしい。
その後、
時代が移ろい政権が移行しても
能力の高い狼人間達は
かなり重用されたようだ・・・・・
と、言うような話を
由依さんは小さい頃
曾お祖父さんから聞いたらしい。
日本には今でも
かなり少数ではあるけれど、
一定数の純血・準純血狼人間が
存在する事を彼女は教えてくれた。
だけど、
由依さん曰く、
曾お祖父さんは創作話を
よくしてくれる人だったらしい。
だから、
この話がどこまで本当なのかは
実の所わからないと言った。
けれども、
20世紀半ばまで
ご先祖様達はその血統を守る為
純血もしくは準純血同士の
結婚しか許されなかった、
という話は、
本当の事らしかった。
どうやらかつては、
純血・準純血狼人間だけの
コミュニティが存在したようだ。
かなり昔から
血統の良い狼人間の間では
国際結婚は珍しくなかったという。
だから、
彼女の明るめの髪色は
染めたものではなく
生まれ持ったものだった。
僕にウェアウルフ語を教えてくれた
由依さんのおばあさんは、
由依さんの家系では初めて
純血以外の狼人間と結婚した人らしい。
だから厳密に言うと
彼女は準純血なのだそうだ。
ちなみに
変身すると超小型化するのは
純血でも準純血でも
かなり珍しいらしい。
どうやら彼女はそのことが
コンプレックスのようだった。
由依さんの家系では
巨大化する人はいないけれど
超小型化してしまうのは
彼女だけみたいだった。
彼女以外の家族はみんな
かっこよくスタイリッシュな姿に
変身するらしい。
おばあさんは特にかっこいいと
彼女は言った。
彼女は、毛並みだけは
おばあさん似らしい。
でも、自分だけ
可愛らしい愛玩動物のような姿に
変身してしまうのが
小さい頃から嫌だったようだ。
どうも、
そのコンプレックスが原因で
僕に変身した姿を見せることを
躊躇っていた、
と彼女は話してくれた。
彼女のような高嶺の花にも
コンプレックスがある
ということが
僕には少し嬉しかった。
思わずクスッと笑うと、
彼女は少し赤くなった頬を
プウっと膨らませて僕を見た。
そして、
吸い込まれそうな綺麗な瞳を
僕に向けて、
「次笑ったら噛むからね」
と冗談っぽく言って笑った。
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