彼女を肩に乗せ玄関を出ると
お隣の御夫婦が丁度散歩から
帰ってきたところだった。
二人は僕の肩に乗った
彼女を見て少し驚いた表情を浮かべた。
由依さんはというと・・
玄関を出てから
いきなり人に会ったものだから、
緊張してしまったようだ。
背中の毛が逆立ち、
僕の肩の上で固まってしまった。
優しく背中を撫でると
その緊張は少しずつ解れていった
みたいだった。
お隣の御夫婦はすぐに察してくれた。
「彼女さん?」
驚いた表情は、
穏やかな表情に変わり
僕に聞いてきた。
「はい、そうです」
僕がそう言って答えると
彼女は恥ずかしがって
丸くなってしまった。
「美人さんは変身しても
美人さんなのね」
と奥さんが言うと、
旦那さんが、
「うちの妻も素敵だけど
君の彼女も素敵だねぇ、
もうホントにお世辞抜きで」
と言い優しく微笑んだ。
褒められたことで
彼女は余計に恥ずかしがった。
その熱が僕の肩にも伝わってきて
少々暑かった。
「どちらかにお出かけ?」
と奥さんに聞かれた。
「お二人を見習って、
夜のデートです。
彼女変身した姿で出掛けるの
今日が初めてなんですよ」
僕がそう答えると、
「楽しんでいらして!
綺麗なお月様でしたよ」
と奥さんが言い
旦那さんと二人で
手を振って僕らを見送ってくれた。
ちょっとそこまでの散歩なのに
まさかのお見送り付きで、
僕も少々恥ずかしかった。
エントランスを出てから
由依さんにそのことを話すと
クゥ~ン と言って頬にすり寄った。
彼女の小さな頬は
かなり熱を持っていた。
相当恥ずかしかったみたいだ。
外に出ると風が気持ちよかった。
夜風はひんやりとしていて
熱を持った僕の耳と彼女の頬を
やんわりと包んでくれた。
僕の肩にちょこんと座った彼女は
その風を気持ちよさそうに浴びた。
銀色に輝く美しい毛は
風が通り抜ける度にサラサラと
なびいた。
「寒くない?」と僕が聞くと、
彼女は首を フンフン と横に振った。
どんなに小型でも狼だから
寒さには強いのだろう。
本当に気持ちよさそうに
夜風に当たっていた。
彼女は僕の肩に
カシッ と掴まる様に立ち
クッ と伸びたかと思ったら、
そのまま首を反らし
クフォ~ン と遠吠えをした。
全く迫力のない
可愛らしい小さな遠吠えだった。
それでも、今の彼女は
生まれて初めて変身した夜に
自由を謳歌しているようだった。
マンション近くにある公園まで来ると
ブランコに腰掛けた。
ゆったりとブランコを漕いだ。
彼女は キラキラッ とした
宝石のような瞳で満月を見ていた。
僕は満月よりも
彼女の方が気になって
彼女ばかり見ていた。
すると彼女がしきりに
クゥン クゥン と鳴き、
僕の肩を ペシペシ と叩いた。
それは「空を見て!!」と
言っているようだった。
僕は視線を彼女から空に移した。
するとその瞬間、
すーっと光の尾を引いて
星が駆け抜けていった。
流れ星だった。
「何か願い事したの?」
と彼女に聞くと、
可愛い顔で クフッ とだけ言って
また空を見上げてしまった。
少しの間、空を見上げていると
また流れ星があった。
僕は心の中で、
(由依さんとずっと一緒に
いられますように)
と願った。
肩に乗った彼女の方を向くと
僕の顔をじーっと見ていた。
正直照れてしまった。
普段の姿の彼女は
クールな佇まいの中に
甘さと色っぽさを秘めている。
僕としてはそれも
たまらなく好きだ。
けれど、変身した時の
この瞳はもう反則級だ。
思わず、
「そんな風に見つめられたら
理性吹っ飛ばしちゃうよ。
今日は我慢しなきゃいけないから、
明日もう一度、
そんな風に見つめてくれる?」
と言ったら
頭を ペチンッ と叩かれた。
折角のムードを壊すんじゃねぇ!!
と言われてるみたいだった。
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