しばらくの間
二人で夜空を見上げた。



満月の夜に
流れ星を見られるなんて
思ってもみなかった。


何だか色々と得した気分だった。



たまにはこういう
素朴なデートも悪くないと思った。





僕は彼女に
今日の打ち合わせでの
出来事を話した。



どうして早く帰ってこられたか、
という事と、


彼女が純血の狼人間である事を
初めて他人に打ち明けた、
という事も話した。



彼女は僕の肩の上で
時折 コクコク と頷きながら
静かに話を聞いた・・・・・















担当編集者と挿絵作家は、
僕の話を聞いてもあまり驚かなかった。


二人ともヨーロッパに
留学経験があった。


その時に純血の狼人間が
間近にいたらしい。


だから、満月の夜、
純血の人が他の狼人間よりも
より制約を課された生活を
しなければならない事を
知っていた。


だけど、
実際に日本に純血の狼人間が
いることは知らなかったみたいだ。



担当編集者のパートナーは
変身で手足が肉球に変化してしまう為
家事は勿論の事、スマホやパソコンの
操作、車の運転、その他諸々が
困難になるという。


だから、満月の日は
できるだけ彼女の側にいたいと
言っていた。



挿絵作家の旦那さんは
変身パーツが多く、
上半身がほぼ変身してしまうらしい。


やはり生活に支障が出てしまう為
満月の日はかなり早めに
色々な用事を済ますと話してくれた。



僕はこういった話を
仕事の関係者にするのは
今日が初めてだった。


それは、
担当編集者も同じだったみたいだ。


僕らは二人揃って
どこかスッキリとした顔をしていた
に違いない。



すると、
挿絵作家が一つ提案してきた。


それは、
この3人で仕事をする際は、

満月の日は
打ち合わせはしない、

そういった取り決めをしないか、
というものだった。


僕らは彼女の提案に賛成した。



編集者曰く、
満月の日は編集部の多くが
どことなく気がそぞろに
なってしまうらしい。


満月の日、その日一日を
無事に過ごせるだけで
かなりの人が落ち着きを取り戻し
仕事に臨めると思う、と彼は言った。


だから、いずれこの事を
社の上層部に直訴してみる
とも言った。



いつもは
若干気だるそうに見える編集者が、
今日はやたらと頼もしく思えた。



そして、
みんなそれぞれの方法で
手を携えて生活していることを
改めて感じる機会になった。





そんなわけで、
次の満月の日は、
打ち合わせはしない事で
僕らは合意した。



僕はかなり晴れやかな気分で
帰り道プリンを買った・・・・・















僕が一通り話をすると
由依さんは、くりっくりの瞳で
嬉しそうに僕を見ていた。



シルキーな尻尾が首元に
ファサ ファサ と当たって
くすぐったかった。



「・・・だから、
 次の満月の夜も、
 その次の満月も、
 その次の次の次の満月も
 一緒にいられるから」



僕がそう言うと
彼女は僕の膝に降りてきて
クゥ と小さく鳴いた。


そして、僕の胸・・・というか
位置的には腹にすり寄ってきた。



これ、
たぶんだけれど、
彼女は今、かなり甘えている。



背中を撫でると
彼女は軽く ファ~ っと
欠伸をした。


どうやら
眠たくなってきたようだ。



普段なら眠たい時でも
こんな風には甘えてこない。


今の彼女は、
何だか糖度の高い果物を
さらにシロップ漬けにしたくらい
ベタ~っと甘えている。


肩に コテッ と
頭を乗せてくることはあっても

こんなに ベタ~ は
滅多にお目にかかれない。



やはりこれは
満月の日の特典なのだろうか?



こんな特典
逃したらもったいない!



今日は本当に
散歩に誘って良かった!!



僕は心の中で
小さくガッツポーズをしていた。



そして、月を見上げ
担当編集者と挿絵作家に
心の中でお礼を言った。


あの二人との出会いのお陰で
僕のこれからの満月ライフは
充実したものに変わる予感がしていた。



このお礼は仕事で返さなくちゃな!



決意も新たに
僕は彼女を肩に乗せ
帰路についた。








帰り道、
彼女は始めこそ
僕の肩に乗っていた。


だけど、
段々と船を漕ぎだした。


正直、危なっかしくて
途中からは抱っこした。



行きよりも風が冷たく感じた。


けれど、僕は
彼女を抱きしめていたから
暖かかった。





彼女が ピクッ と動いたので
顔を覗いてみると
クフゥ~ン と鳴いた。


夢を見ているらしかった。


その顔はとても穏やかで
優しく微笑んでいた。





これまでの満月の日は
僕が遅く帰ってくると、
彼女はいつも寂しそうで
どこか悲しそうな顔をして寝ていた。


その寝顔を見る度に
僕は目を閉じた彼女に謝っていた。



だけどこれからは、
「ごめん」を伝えるよりも
起きている彼女に
「好き」をたくさん伝えたい。





彼女の寝顔を見ながら
そんな事を思った。








マンションの入り口に着くと
もう一度空を見上げた。



月の暖かな光が
僕らを包み込んでくれている様な
そんな感覚を覚えた。





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次回、最終回です。


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