翌朝、目を覚ますと
由依さんはすでに起きていた。


やたらと機嫌良く
朝食の準備をしてくれていた。



昨夜は驚くほど
ぐっすりと眠れたらしい。


まあ確かにそうだろう。


散歩から帰ってきて、
マンションのエレベーターに
乗った時点で
彼女はすでに爆睡していた。



部屋に入り
ベッドに寝かせた後に

手を握ったり、
頬を突っついたり、
耳をくすぐったり、
尻尾にイタズラしたりしても
びくともしなかった。


本当に気持ちよさそうに寝ていた。



僕はそんな彼女を見ながら
眠りに落ちた。


夢を見たかどうかはわからない。


深くて穏やかな眠りだった。


だから、
今朝は僕もとても目覚めがよかった。





朝食を食べている時、


「昨日言ってた事って
 本当だよね?」


と彼女が聞いてきた。



昨日言った事といえば、

満月の日は
打ち合わせはしない

と、仕事仲間と合意した、
あの話の事だろう。



「本当だよ」


と僕が言うと、
彼女は椅子から立ち上がった。


そして、
引き出しからペンを取り出すと
来月のカレンダーに
何やら書き込んだ。



彼女は書き込みを終えると
振り返り微笑んだ。



僕も立っていき
カレンダーを見てみると
来月の満月の日に



"満月休暇"



と書き込みがあった。



彼女は昨夜、
変身した姿で外出できたことが
よほど嬉しかったようだ。


それは、
僕が思っている以上の
喜びみたいだった。


彼女は、
また散歩に行きたい、と言った。


変身した姿で風を浴びるのは
解放感があって
かなり気持ちが良かったらしい。



それから
言葉を少し濁していたけれど、
抱っこされるのも
悪くなかったらしい。



「抱っこだったら
 変身しなくてもするのに」


と僕が言うと、


「変身した時だけでいいの!!」


と言い返された。


彼女の顔は少し赤くなっていた。



普段の彼女には
あまりツンデレ感は感じない。


けれども何となく
今日の彼女はツンデレだ。



たまには
こういうのもいい。



そして、
以外にも抱っこが
弱点なのかもしれない。


僕はその事を
頭の隅に留め置いた。



そのうち普段の
起きている状態の彼女も
抱っこしてみよう・・・・・



それに昨夜の公園での事を
思い出していた。





流れ星を見た後
彼女は宝石の様なつぶらな瞳で
僕を見つめていた。


理性を飛ばしかねない
可愛らしくも妖艶な瞳。



あの続きを今夜しませんか・・・・・



と言いそうになった。



だけど、
それを言うのは今夜にしよう、
と思い直し言葉を飲み込んだ。



でも、僕は
想像しただけで口元が緩み
鼻の下が伸びていたようだ。



「何か変な想像してるでしょ」


彼女はすかさず勘を働かせて
聞いてきた。



「いや別に・・・・・」


僕が誤魔化すと、
彼女はクスッと笑った。



僕の想像している事が
彼女には透けて見えているのか、


「おあずけにするよ~」


と悪戯な表情で言われてしまった。



おあずけを食らうのはチョット・・・



なんて僕が思っていると、

彼女はまたもクスクス笑った。



何だか今夜は
ものすごく焦らされそうだ・・・



どうやら僕は
彼女には敵わないらしい。



彼女の笑顔を見ながら
残りの朝食を頬張った。





二人で後片づけを済ますと、
彼女はテキパキと身支度を整えた。


玄関まで見送ると
彼女は僕に手を振り出社して行った。



彼女を見送ると、
ざっと掃除機をかけ、
洗濯物を干した。


それが終わると
自分の部屋に行き仕事を始めた。











僕は翻訳の仕事をしている。


ウェアウルフ語という
それほどメジャーではない言語の
翻訳家だ。



僕はウェアウルフ語に
運命を感じた。


驚く間もないくらいの力で
引き寄せられていた。



今、自身の血に混じった
狼人間のルーツに向き合う人が
少しずつだけど
確実に増えてきている。


僕は、自身のルーツ、
そして愛する人のルーツに
向き合えるこの仕事に
誇りをもっている。






僕は、言葉を扱う仕事をしている。


だけど、
大切な人に自分の思いを
言葉でちゃんと伝えられているか、
と問われると正直わからない。



はっきりと、
わかりやすい言葉で・・・



僕も彼女も
根が恥ずかしがり屋なのか
たまにしか"そういう"言葉を
使わない。



それはそれでいいのだけれど・・・



でも、今夜は何だか
言えそうな気がしていた。



昨日の
満月の力だろうか?



本能的に
そういう想いが
沸き立ってしまうのかもしれない。



彼女が
思いっきり赤面するような
そんな言葉を
今夜掛けてみようかな・・・・・





そんなことを思いながら
僕は仕事机に向かい辞書を開いた。




















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満月の日。



僕は昼食を作りながら
由依さんの帰りを待った。




天気は一日を通して
いいみたいだ。


青空が広がり、
綿菓子の様な雲が
ふわふわ浮かんでいた。



この前の満月は
彼女と近くの公園まで行った。


今回はその公園の先にある
高台まで行ってみようかと
考えていた。



でも、僕としては
彼女と一緒なら出掛ける場所は
どこだっていいのだけれど・・・





僕は忙しなく
何度も時計を見ていた。



彼女が早く帰ってくると思うだけで、
心はすでに踊っていた。








「ただいま~」



彼女が帰ってきた。


僕はパタパタと早足で
玄関に彼女を出迎えに行った。



「おかえり」








僕と彼女の満月休暇は
今、この瞬間から始まった。








ーーーーーーーおしまいーーーーーーー


「本日、満月休暇中」を
お読み下さりありがとうございました。


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