近頃ボクは
ボクが何なのかわからない。
どうやらボクは
猫ではないかもしれない。
なんてことだぁ・・・
でも確かに・・・
ご主人であるネルさんが
ボクの頭を撫でてくれる時、
つるりんと頭全体を
撫でられている感覚がある。
つまりそれって、
猫には有るあのピンとした耳が
ボクには無いということになる。
それに、
前の家にいたおしゃべりなインコが
ボクに向かって、
(お前は器用な猫だな、
手を使って食べるなんて珍しい)
ってなことを言っていたのを思い出した。
もしかしたら猫って
食べ物を手で持ったりは
しないんじゃないか・・・
食べるのに集中していて
ごはんの時間に
周りなんて見ていなかった。
前の家で向かいにいた
アイツとかアイツを
ちゃんと見てればよかった・・・
アイツらは猫と呼ばれていた。
冷やかしの人が「猫~、カワイイ」
って言ってたから。
てっきりボクも同じだと思っていた。
だってボクも
カワイイと言われてきたから。
カワイイのって猫なんでしょ・・・
ん・・・第一カワイイって何なんだ?
猫に対してだけ使われる
人間の言葉じゃないの?
違うのか・・・?
考えていたら疲れてしまった。
疲れたら眠たくなってきた。
ネルさんはまだ帰ってこない。
早く来ないかな・・・
今日は何して遊ぼうかな・・・
ボクがうとうとし始めると
ネルさんがお仕事から帰ってきた。
ボクは嬉しくて完璧に目が覚めた。
でも今日は誰か一緒みたいだ。
ネルさん以外の声がする。
リッチャンさんではなさそうだ。
声が低かった。
その声の主はネルさんと
なんだかとても親しげだった。
人間の雄だとボクは直感した。
ネルさんはそいつをシダクンと呼んだ。
ボクはそいつに
“さん”をつけたくなかった。
せめてもの抵抗。
だから、シダクンさんとは呼ばずに
シダクンと呼ぶことにした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
人間には二つ名前があるようだ。
上の名前と下の名前。
人間は下の名前で呼び合うと、
より親しい間柄だと
おしゃべりインコが言っていた。
ここのところネルさんは
シダクンのことを下の名前で呼んでいる。
なんか嫌だった。
それに、シダクンの上の名前は
どうやらシダクンではなく
シダのようだ。
だからボクはシダと呼ぶことにした。
シダはネルさんとボクの家に
よく遊びに来るようになっていた。
ネルさんは相変わらずボクに優しい。
だけどシダが来ると
シダにネルさんを取られてしまう。
だからボクは
シダが帰るのをじっと待つ。
待っている間にいつも眠ってしまう。
ネルさんはボクのご主人なのに・・・
でもシダといる時のネルさんの顔は
ボクといる時と違っていた。
なんて言ったらいいんだろう・・・
そうだな・・・
山盛りのごはんをもらった時みたいな・・・
ん・・違う?
体の中から嬉しさが込み上げてくる感じに見えたから。
それって、人間的にはなんて言うの?
まあいいや
ボクがネルさんを特別に想うみたいに、
ネルさんもシダのことを
そんな風に想っていることは分かった。
正直、気に食わなかったけれど
シダもネルさんのことを
特別に想っているようだった。
シダは別に悪いヤツじゃない。
ボクに優しいし、
ネルさんにはもっと優しい。
それにたぶん面倒見がいい。
ボクの部屋を
キレイにしてくれたり、
遊びに誘ってくれたりする。
ただボクは、
まだシダと仲良くしたくない。
仲良くしたら、
ネルさんとの仲を認めたことになる。
だからボクはちょっぴり悪いな
と思いながらもシダを拒み続けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
ある日、シダがボクを抱き上げた。
ほんの僅かな隙をつかれた。
うとうとして油断していた。
ボクは両手足をばたつかせ唸った。
でもシダは全く怯まなかった。
ボクは体をくねらせて抵抗した。
そうしたら
シダの手を引っ掻いてしまった。
シダは一瞬顔を歪めた。
でもボクを離さず怒りもしなかった。
ただ優しくボクを宥めるように
撫でた。
ボクは抵抗するのをやめた。
するとシダは
ボクの目をまっすぐ見てきた。
曇りのない真剣な目だった。
「ネルを取っちゃってごめんな」
シダはそう言ってボクに謝った。
そして続けてこう言った。
「オレのこと嫌いか?
オレはお前と仲良くしたい」
シダはボクが人間の言葉を理解できると
思っているのだろうか?
まあ実際できるのだけど・・
普通は種の違う生き物とは
会話できないってわかってるだろ。
なのになんでコイツは
こんなにも真剣に
ボクに話し掛けてくるんだ。
ボクはお前のことが「嫌いだ」
なんて人間の言葉で言えたら楽なのかな?
でも人間の言葉を話せても
ボクはシダに「嫌いだ」なんて
言わない。
言えないや。
別に嫌いなわけじゃないんだ。
ただネルさんとの仲を認めたくないだけ。
ボクが意地になってるだけ。
でも、少し意地を張り過ぎた。
本当に謝らなきゃいけないのは
ボクの方なのかもしれない。
ボクは思い切ってシダに謝った。
ちゃんと目を見て言った。
(ボクの方こそ意地を張って
ごめんなさい。
引っ掻いてごめんなさい)
シダにはボクの声が
どんな風に聞こえたのだろう?
ボクはシダの目をじーっと見た。
シダの目元が緩んでいくのがわかった。
ボクの言葉が通じたみたいで
チョット嬉しかった。
シダはボクの目の前に指を一本出した。
ボクも真似をしようとしたけど
上手くできない。
まごまごしていると、
シダの指とボクの手がくっついた。
ボクはシダの指を握った。
するとシダは上下に指を振った。
「仲直りの握手な」
そう言ってシダは微笑んだ。
そしてネルさんに向かって、
「オレ、テチと仲直りしたから」
と嬉しそうに言った。
ネルさんも嬉しそうに笑っていた。
ネルさんが笑うとボクも嬉しい。
幸せな気持ちになる。
シダと仲直りできて良かった。
ネルさんがシダの隣に来て座り、
ボクの目を見て言った。
「仲直りできて良かったね。
縄張り争いでもしてたの?」
縄張り争い・・・
それって、
野生のやつらがするというアレか?
カッコいいな!
ボクはシダと
縄張り争いをしていたのかぁ。
何だか少し強くなった気分だった。
で・・・
縄張り争いって最終的にどうなるの?
争っていたヤツと
仲良くなれれば終わりなのかな・・・?
じゃあこれで縄張り争いは終わりだ。
ボクはシダの膝の上に座った。
悪くない座り心地だった。
眠たくなった。
ネルさんとシダが
楽しそうに話す声をBGMにした。
温かく心地よかった。
幸せな気分だった。
ボクはボクが猫なのか、
猫じゃないのかなんて
どうでもよくなった。
ボクは幸せな生き物だ。
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後編へつづく
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