ボクはネルさんの帰りを待っていた。

久しぶりにネルさんに会える。

ものすごい勢いで
嬉しさが込み上げていた。



さっきシダがネルさんを迎えに行った。

もうすぐこの家に
ネルさんが帰ってくる。





ボクは今、
ネルさんとシダと一緒に
新しい家で暮らしている。


ボクたちは、
二人と一匹の家族というのになった。

でも少しの間、
シダとボクの一人と一匹暮らしだった。


ネルさんは
日に日にお腹が大きくなっていった。

大変そうだったけど、
幸せな顔をしていた。

たぶん大変だから
少しの間この家を離れたのだろう。



シダが言うには、
今日からこの家に
家族が一人増えるらしい。

やたらと嬉しそうに、
でも少し落ち着きなく
シダはその話をボクにしてくれた。

もう何度も、何度も・・・

よほど嬉しいのだろう。


この間なんか
奇声を上げて帰ってきたから驚いた。

ボクの眠気が一気に飛んで行くほど
シダが可怪しくなった。

帰ってくるなりボクを持ち上げて
クルクルと回った。


「パパになったぁ~」と言っていた。


シダはパパというのになったらしい。


なんだそれ?


まあ、可怪しいながらも嬉しそうだった。

嬉しいならそれは何よりだ。


でもボクはネルさんを待っている。

シダはネルさんの次だ。

それをわかっているのか、お前は。


シダよ、

ネルさんにも
パパになったと教えてやれよ。

きっと喜んでくれるぞ。








玄関の扉が開く音がした。

シダとネルさんの足音が聞こえた。


帰ってきた!


ボクはクッと背筋を伸ばして
立ち上がった。

嬉しいワクワクが止まらなかった。


「ただいま~」とネルさんの声がした。


ボクの大好きな声。

ネルさんの香りがした。

でも、今まで嗅いだことのない香りも
混ざっていた。

新しい家族の香りなのだろう。



あっ、そうか!


ネルさんは
新しい家族を迎えに行っていたんだ。

それで家にいなかったんだ。


お疲れ様です!ネルさん。





ネルさんは腕に
小さな生き物を抱いていた。

これが新しい家族か。


その生き物は
すやすやと眠っていた。

ネルさんはその生き物を
とても大切そうに抱いている。


ボクはその生き物の顔を
静かに見つめた。


なんとなく人間に見えた。

小さな人間。

その小さな人間は
どこか懐かしいような香りがした。

なんとなくだけど、
この小さな人間とは縄張り争いは
しなくて済みそうな気がした。


ボクはこの小さな人間を
新しい家族として歓迎した。

ボクは新しい家族と
早く遊びたいと思った。

本当はネルさんと遊びたいけど、
きっとお疲れだろうから
無理には誘えない。

そこはボクだって
ちゃんとわきまえている。


最近はずっとシダとばかり遊んでいた。

別にそれが嫌なわけじゃない。

シダと遊ぶのは楽しい。

ただ少しだけシダが心配だ。


シダはパパというのになった日から
やはり可怪しくなった。

妙にフニャフニャしている。

ボクに対してなんだか変な言葉で
話し掛けてくる。


「ごはんでちゅよ~」とか、

「あそびまちゅかぁ」とか、

「じょうずでちゅね~」とか、

「おねんねでちゅかぁ」とか・・・



やめてくれ!と思った。



“でちゅ”って何だ?



そのせいでボクは
眠る度に変な夢を見た。

ここのところ慣れてきたのか
変な夢は見なくなったけど、
あれがしばらく続くのだろうか・・・



シダの顔を見ると
やはりフニャフニャしていた。

変な病気でなければいいのだけれど・・・


大丈夫なのだろうか・・・?



ネルさんは、
別にシダを心配している様子はない。

だからたぶん大丈夫だ。

そういうことにしよう。



ネルさんはボクに
新しい家族を紹介してくれた。


名前はユリナといった。

ネルさんとシダで名前を考えたらしい。


よかったなユリナ!



ユリナはつい最近
生まれたばかりだという。

まだ話せないし、
自力で立ち上がることもできない。

ボクと一緒に遊ぶことは
まだできそうにない。

チョット残念だ。

でもネルさんが嬉しそうだから
ボクも嬉しかった。








~~~~~~~~~~~~~~~~~








この前、ユリナが初めて話をした。

まだネルさんやシダのように話せない。

たけどちゃんと話をした。

ユリナはやはり人間だった。



ユリナが初めて話した言葉は
“テチ”だった。

ボクの名前。

大きくてキラキラな目でボクを見て
ボクの名前を言った。

なんか嬉しかった。


ネルさんは笑っていたけど
シダは悔しがっていた。

シダはユリナに“シダ”って
最初に言って欲しかったのかな?


でも、もう過ぎたことだから
まあいいか。










昔、おしゃべりなインコが言っていた。

ボクと人間とでは
時間というものの流れる早さが
違うらしい。

だから、ボクは
人間と同じようには
生きていられないという。


ボクは元気だ。

まだいっぱい遊びたい。


だけどユリナを見ていると、
ボクと人間とでは
やっぱり違うということが
なんとなくわかる。

ユリナはゆっくりゆっくり成長してる。


ボクはユリナと遊びたい。

ユリナの声をもっと聞きたい。


ユリナと遊んだら
きっと楽しいに決まっている。


今はまだ
そっと近くで眠ることしかできない。


早く大きくならないかな・・・


大きくなったらボクと遊ぼうね、
ユリナ。








~~~~~~~~~~~~~~~~~









その日もボクは眠かった。

変わらない景色に囲まれ、
変わらない音を聞いて安心した。

やんわりとした日差しが
余計に眠気を誘った。



ユリナは今日から
小学校というところに行くと
ボクに話してくれた。

ユリナはネルさんとシダと一緒に
嬉しそうに出掛けて行った。

帰ってきたら
ボクと遊んでくれるみたいだ。

それまでボクは家でお留守番をする。



この家はボクの好きな香りがする。


ネルさんの香り。

シダの香り。

ユリナの香り。


この香りに包まれて
ひなたぼっこをするのが
ボクは好きだ。

安心してついつい
ぐっすり眠ってしまう。



この前の暖かい日にも
ひなたぼっこをした。

そしたらユリナに


「テチ、猫みたい」

と言われた。


やっぱりボクは猫じゃないみたいだ。


そういえば、
ネルさんに名前をつけてもらった日、
ボクはネルさんに“おねぼうさん”と
言われた。

だからボクは、
おねぼうさんという種類の
生き物なのかもしれない。

でも、みんなと暮らしていると
そんなことどうでもよくなる。


猫じゃなくたって、
おねぼうさんじゃなくたっていい。


ボクはボクだ。



ボクには名前がある。

大好きな家族がいる。

ぐっすり眠れる場所がある。


それで充分。それが幸せ。







楽しそうな声が聞こえてきて目が覚めた。


ボクの家族が帰ってきたみたいだ。



さて、今日は何をして遊ぼうか。







ーーーーーーーおしまいーーーーーーー


「お寝坊さん」をお読みくださり
ありがとうございました。




あけましておめでとうございます。


「お寝坊さん」の“ボク”のモデルとした
生き物は、短時間の睡眠を繰返し、
1日に15時間ほど眠るそうです。

この生き物、
実際にはペット飼育が禁止されています。


でも妄想では飼えます。

妄想で飼いましょう。

本年も妄想して参ります。


暇潰しにでも
お付き合いくださると幸いです。



凡狐



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