録画していたなかに偶然、「残照 ― フランス 芸術家の家」(NHKBSプレミアムの再放送)というドキュメンタリー番組が入っていた。
以前(2008年)、放送された時も観たのだが、とても印象に残っていてまた観たいと思っていたので、ラッキー!!
パリ近郊の町に芸術家の老人ホームがある。
そこはある貴族が芸術家のためにと寄送した館で、国が老人ホームとして運営。
利用する高齢者(芸術家)は無料なのだそうです。
そこに住むお年寄りは概ね80代。(中には90代も)
いずれも芸術を生業にしてきた人たち。
杖をつき歩く姿も口調も緩慢になり、それでも話すことは辛辣で、
ホームの食事がまずく消化不良でここに来て12キロも太ってしまった、
と嘆く元ピアニストの女性マリニー(82才)。
ちょっとハマコー(今は亡くなられた政治家)に似ているおばちゃん。
かつての栄光を事あるごとに自慢するのだけれど、全然憎めない。
「昔は才能もあり、きれいだったのに、今はくじらの様に太ってしまって・・・」と言うのには笑ってしまった。
その彼女がお気に入りの男性、88才の今はほとんど目が見えなくなった孤高(口数は少ないのだが、一言一言が鋭い。)の彫刻家シュナイデール。
彼女は何くれとなく彼の世話を焼く。
「あんたが好きだから、親切にするよ。」(日本人はこういう風に言えないだろうなぁ)
彼女にはピアノレッスンの生徒さん(近所に住む小学生の女の子)がいて、レッスンの日には自分の方がソワソワして時間前に玄関で待機。
唯一の収入源であり、元ピアニストとしての自分のプライドを保つ大事な生徒さんである。
逃してはなるか!みたいな気迫も感じられる。
威厳を保ちながらも、辞められては困るので小さな生徒さんにご機嫌も取りつつ教えているのがわかる。
「この前のおじさんはもう辞めちゃったよ。」と数回で辞めていった別の生徒のことを引き合いに出し、熱心にレッスンに通って来てくれるあんたはえらいよ的なニュアンスで女の子に話していた。
ここでは週ごとに入居者にお小遣いが支給される。
すると、マリニーは近所のレストラン(ビストロだかカフェ)に食事をしに行く。
なにしろ、ホームの食事は“まずい”ので。
ある時は彫刻家の男性を半ば強引に連れて行き、自分はステーキ(付け合わせに大量のフライドポテト)、彫刻家は鴨肉のロースト(同じくフライドポテト添え)をオーダー。
彼女が「私が肉を切り分けてやろうか。」と震える手で鴨の骨から身を取ってやる。
グラスのロゼワインと食後のコーヒーで一人18ユーロのささやかなデート。
また、アメリカ人でフランス語が少し不自由な89才の元アニメーターの男性と86才の元グラフィックデザイナーの女性はこのホームで出会い、静かな恋愛を育んでいる。
ここを出て一緒に暮らしたいのだという希望をたまに訪問してくるアニメーターの息子に話すと「ここで一緒に暮らせばいいじゃないか。」と反対される。
穏やかな表情の女性抽象画家。
天気の良い日は敷地内の庭に出て散歩をし、時折ベンチで感慨深げに座っている。
定期的に少し年の離れた妹が訪ねてくる。
その妹がその日は久しぶりに抽象画家の昔の親友を連れて来ていた。
かつてはパリの美術系大学の講師だった頃の写真が映されたのだが、時代の先端を行くかっこいいキャリアウーマンという感じで、妹からすれば「自慢の姉だった。」のだ。
しかし、現在の彼女にはその頃の彼女の見る影もなく、おっとりと黄昏た風情から同じ人物とは想像もできない。
彼女は徐々にアルツハイマーの症状が進行しているのだ。
親友のことも果たしてわかっているのかいないのか。
ここに住む芸術家はどちらかと言えば、老後の資産を蓄えることができず、また家族との縁も薄い人たちなのだろう。
それでもたまにやってくる家族や友人、自分あての手紙に喜びを隠せない。
この番組に出てきた彼ら(というより、残り少ない人生を生きるすべての高齢者)の心情を推し量ることは到底私にはできない。
けれど、老いは誰にもやってくる。
子どもがいようが、妻や夫がいようが、芸術という自分を表現する手段を持っていようが、結局同じなのではないか、老いの前では・・・。
また、録画したものを観た。
不思議に何度観ても飽きない。
マリニーが小学生の女の子にピアノのレッスンをしている
