第六話 すれ違う(1/2)
日が昇らず、あたりが暗闇の世界の中でディンは行動を開始する。音を立てないように寝具から立ち上がり、寝間着から着替え、旅支度の荷物を背負い自室の扉に手を掛ける。すると驚いたことに家族が居間で座って待っていたのだ。思わずため息が出るほど呆れていた。
「起こしたのか」
「いや、自然と起きただけだ。いつもの時間だろ」
時計を確認すると確かにいつも起きる時間と大差はない。けれど、よく見ると秒針が止まったままだ。知らない顔をしておこう。
「そうだな」
「兄ちゃん!」
突然の弟から腹部への打撃を食らうと後ろによろめき、後ろの壁に頭を強打した。頭の背後を撫でるとフィルはお茶目にえくぼを作る。
「頑張って姫様を守ってね!」
陰からサテラを守るだけであって、彼女に知られることはない。それでもフィルはまだこの事情が分からないのだろう。あいまいに笑みを浮かべる。
「言われなくてもそうする」
頭を撫でるとフィルは満足したようでディンの体から離れ、母の近くに居座った。そして母はディンを見つめた。その視線を感じて母のそばに近寄る。羽のように軽く、息子と言う宝物を抱きしめた。それはいつにもまして勇気づけられる。そっと頭を撫でてくると優しい声色で語りかけた。
「自分の精一杯の力でサテラちゃんを守りなさい」
それは迫力のある、使命の言葉。重みのある言葉。それをディンに与えた。頭に書き込んで、母に返事をした。
「あぁ」
店の裏口から出て、はずれの森へと向かった。実のところ集合時間よりはやく起きたのは〝フレア〝を一目見るためだ。森の奥に存在するそれは往復するだけでも時間がかかる。しかしそれは子供の時なので、思っているよりは早く戻れるだろうと踏んで森を駆ける。二日ぶりの森の中を見る様子もなく、ひたすら〝フレア〝を探す。
前来た場所を通り過ぎかける時、足を止めた。謎の少女にあった場所だ。しかしそこは何もなかったかのように時間が流れる。動物も人間も時がたてば忘れてしまうのは時間も同じなのだ。お構いなしにとどまることのない時に感心しながらディンは再び目的に戻る。
周りの木より一回り、二回りも大きい木を見かけたとき、根元付近に目的の物を見つけた。木に近づいてみるとフレアの花畑が目の前に広がる。それは天国でも見ているかのように神聖な場所で、何の穢れに干渉していなかった。思わず手を掛けようとするとその輝きで自分が消されそうになる不気味に見えた。子供のころ、これが綺麗と言えていた自分に聞いてみたいものだ。
それは置いといてディンはそれに向かって跪く。組んだ両手を胸に掲げ、両目を閉じて、願った。これは“花見舞いの儀式”と言われ、この土地に必ず訪れることを誓うものだ。一般的にはその国の特産花に誓うのだがムタレの特産花は“シャーリン”と言われる明々しい花で山地にしか生えていないのだ。
そしてディンは思った。
自分がこの町に無事に戻って帰ることを。例え陰からでもサテラを守ることを。そして、この気持ちが何なのかを見つけ出すことを。瞼を上げるとフレアは変わらずその場所に存在した。そして再び森の外へとかけたのである。
任務の発進点、アルタミラの出入り口に向かうと意外な人物がいた。
「あ」
家で銀貨を置いて行ったエルプ中尉だった。思わぬ待ち人にどう反応してよいのかわからない。するとエルプ中尉の顔は苦笑しつつ声をかけてきた。
「おはようございます、ディン様。ともに任務を遂行しましょう」
朝から固いあいさつで顔を引き締める。戸惑いながらも返答をした。しかしエルプ中尉の顔は変わっていなかった。そして恐る恐るディンを指さす。
「恐れ多いのですが」
「?」
「後ろの荷物の量は何ですか!」
自分の荷物を見る、自分の背中には収まらないほど膨れ上がり、いたる所の口からいたるものが飛び出していた。これを持って森を駆けていたディンは首を傾げる。
「そうか?遠足とかこのぐらい持って行かないか、救急箱、弁当、衣服、化粧箱…」
「そこまでいりません!何ですか、最後の化粧箱は!」
「身だしなみは整えないとモテないらしい」
「気にしているのですか!」
エルプの絶妙たる突っ込みに思わず笑いを誘う。それは自分だけじゃなく相手も同様だった。堅苦しい雰囲気が緩み、和やかになる。そうしてエルプが出発を促す。
人知れず、彼ら二人はこの物語を始めたのであった。
「…ディン?」
サテラはその前兆を感じ取っているも、時すでに遅い。
物語はすでに開幕してしまったのだから。
おはようございます
今日は念願のウォークマンを獲得する日です
…時代に遅れてすみません(~_~;)
私にとってはとっても楽しみなものでして
また
時間ができたので
そろそろディンとサテラの姿でも
あげられる日ができるかもしれないのです
お楽しみに…?
長くなってきましたので
では日曜日