ネガティア基地の、さらに奥。
長い通路を抜けた先にあったのは、広大な空間だった。
その中央に、一人の少女が立っている。
70年代に流行した魔女っ子を思わせる、どこか懐かしく、可愛らしい衣装。
けれど、その姿から感じられる魔力は、4人がこれまで戦ってきたどんな魔法少女よりも異質だった。
彼女こそ、初代魔法少女。
アクティア、ルミナ、エクリア、リネアの4人は、まだ変身していない。
その背後には、無数の少女たちがいた。
紫色の生体素材に身体を包まれ、背中には蜘蛛の脚のような骨格。
さらに、その背骨にあたる部分から床へ何かが接続され、少女たちをその場に固定している。
その中には、セレナの姿もあった。
エクリアは、セレナを見つけた瞬間、息を呑んだ。
「……セレナ」
セレナは顔を上げた。
意識はある。
話すこともできる。
それでも、何も言わなかった。
ただ、深い失望に捕らわれたような目で、エクリアを見つめている。
「この子たちは……どうすれば助けられるの?」
エクリアが初代魔法少女へ尋ねる。
初代魔法少女は、無数の少女たちを見た。
そして静かに言った。
「……あれが、魔法少女の末路よ」
「末路……?」
「忘れられた存在そのもの」
その言葉に、アクティアの表情が険しくなる。
初代魔法少女は続けた。
「あなたたち4人も、いずれこうなる」
「今は魔法少女として価値があるから、戦わせてもらえる」
「でも、価値がなくなれば……魔法少女ビジネスの回収役になるのよ」
その瞬間だった。
初代魔法少女が、少女たちへ視線を向けた。
何かを思っただけ。
次の瞬間。
パキッ。
少女たちの周囲にあった構造物が崩れた。
しかし、少女たち自身には何の影響もない。
「……!」
4人は驚いた。
壊れたのは少女たちではない。
少女たちを固定していた、周囲の構造物だけだった。
アクティアは初代魔法少女を見る。
その表情には、怒りだけではない。
どこか、理解できないものを見るような戸惑いがあった。
「あなた……本当は、この子たちを傷つけたいわけじゃないんじゃないの?」
初代魔法少女は答えなかった。
ただ、悲しそうに微笑んだ。
「この魔法、どうやって戦えばいいの?」
アクティアとルミナが変身する。
光が2人を包み込む。
しかし。
光が消えた瞬間、
バキッ!
アクティアの飛行マントが破壊された。
続けて、
バキッ!
ルミナのマントも破壊される。
「えっ……?」
攻撃は飛んできていない。
それなのに、装備だけが壊れた。
助手は、その光景をじっと見ていた。
「……そういうことか」
初代魔法少女の魔法。
彼女は以前、
『自身の思考を現実へ効果させる』
と言っていた。
つまり、彼女が、
「そこにあるマントが壊れる」
と思えば。
その場所で、
破壊という結果が起きる。
ビームも飛ばさない。
魔力の塊も飛ばさない。
ただ、現実そのものに結果を発生させる。
「だったら……!」
アクティアはレイピアを構えた。
初代魔法少女へ向かって走る。
その瞬間、初代魔法少女が床を見る。
「飛んで」
ドォンッ!
アクティアの足元の床が大きく盛り上がった。
身体が上空へ押し上げられる。
「きゃあっ!」
反対側からルミナも接近する。
今度は壁が動いた。
ドゴォン!
ルミナは側面の壁に押し飛ばされる。
4人は、盛り上がった床の陰へ飛び込んだ。
アクティアとルミナは、マントを失っただけ。
大きなダメージはない。
助手は3人へ説明する。
「彼女の魔法には、たぶん3つの条件がある」
「一つ目」
助手が指を一本立てる。
「目に見える場所にしか発動できない」
二本目。
「距離は関係ない。見えていれば、どれだけ離れていても、その場所に効果を発生させられる」
そして三本目。
「一度に一回しか効果を発動できない」
ルミナが目を丸くする。
「じゃあ……」
「そう」
助手は頷いた。
「私たちは、彼女の魔法を避けるんじゃない」
「彼女に、見せないのよ」
変身する前に、消える
助手は一人、初代魔法少女の前へ歩いていった。
初代魔法少女は、可愛らしい笑みを浮かべる。
「あなた一人で来るの?」
助手は答えない。
その身体が光に包まれる。
魔法少女リネアへ変身する。
しかし。
光が消える直前。
変身解除。
そこに立っていたのは、再び助手の姿だった。
アクティアたちは、その意味を理解した。
「……武装が見える前に、消したんだ」
「そういうこと」
助手は初代魔法少女を見る。
「変身した瞬間を見せても、装備を認識される前に解除すればいい」
これが4人の新しい戦い方だった。
一瞬だけ魔法少女になる
4人は初代魔法少女を取り囲む。
正面。
側面。
背後。
四方向へ散開する。
まずアクティアがレイピアを構える。
初代魔法少女の視線がアクティアへ向く。
その瞬間。
アクティアは変身解除。
そのまま走り続ける。
「……!」
初代魔法少女の視線が揺れた。
次はエクリア。
身体が光に包まれる。
初代魔法少女は光から現れる瞬間を狙う。
しかし、光が消えたとき。
そこにいたのは、変身前のエクリア。
「……!」
破壊する装甲がない。
そしてルミナ。
ルミナは変身したまま突っ込んだ。
初代魔法少女の反応が一瞬遅れる。
「そこっ!」
ドンッ!
ルミナの攻撃が初代魔法少女に命中する。
だが、すぐに反撃。
ルミナのシューズが吹き飛んだ。
「くっ!」
ルミナは飛び退きながら変身解除。
これで、初代魔法少女の魔法が完全に封じられるわけではないことも分かった。
解除するまでの、ほんの一瞬。
その間に見られれば、装備を破壊される。
攻撃と解除、その一瞬の勝負
アクティアが再び変身。
左手を突き出す。
「これなら!」
ズドンッ!
手のひらから放たれたビームが、初代魔法少女の左肩を捉えた。
しかし初代魔法少女も反応する。
バキッ!
アクティアの上腕装甲が破壊された。
「……!」
アクティアは即座に変身解除。
次はエクリア。
光が身体を包む。
その光の中から、
左手だけが現れた。
光刃。
「そこ!」
振り抜く。
しかし、初代魔法少女には届かない。
エクリアはすぐに変身解除。
続いて初代魔法少女が呟いた。
「面白いことを考えるのね」
その瞬間。
背後からルミナ。
「今度はこっち!」
光が広がる。
両手の手刀が、側面から初代魔法少女の上腕を捉えた。
「……!」
攻撃は成功。
だが、
一歩遅かった。
パァンッ!
ルミナのトップスが破壊される。
ルミナはすぐに変身解除した。
「……一瞬遅れただけで、これか」
初代魔法少女の魔法に変化が?
エクリアが再び変身する。
初代魔法少女は、光から現れる瞬間を狙う。
そのとき。
助手も同時に変身した。
初代魔法少女の意識がリネアへ向く。
その一瞬。
エクリアの変身の光が消えかかる。
光の中から、右足だけが飛び出す。
「えいっ!」
バシッ!
エクリアの右足が、初代魔法少女の帽子を捉えた。
帽子が吹き飛ぶ。
初代魔法少女は、すぐにエクリアの装甲を破壊しようとする。
しかし。
遅い。
明らかに、以前より遅い。
エクリアはその隙に変身解除。
最終的に右足の装甲は破壊されたものの、被害は最小限に抑えられた。
助手は初代魔法少女を見つめる。
「……やっぱり」
アクティアが尋ねる。
「何が?」
助手はルミナを見る。
「ルミナ。あなた、ネヴィアとの戦いで魔力減少を無効化したでしょう?」
「うん」
「その影響が……残っているのかもしれない」
エクリアが振り返る。
「初代魔法少女にも?」
助手は頷く。
「彼女の魔法も、思考を現実へ伝える必要がある」
「もし、その魔力の伝達速度そのものが落ちているなら……」
ルミナが気づく。
「だから、さっきから魔法の発動が遅い?」
「おそらく」
初代魔法少女は、自分の腕を見た。
そして、壊れた帽子を見る。
その表情から、少しずつ余裕が消えていく。
「……なるほど」
初代魔法少女は4人を見る。
「あなたたち……」
そして、小さく笑った。
「私の魔法を、理解し始めたのね」
アクティアは新しいレイピアを握り直す。
ルミナも構える。
エクリアも立ち上がる。
リネアは静かに初代魔法少女を見つめていた。
これまで、4人には初代魔法少女へ近づくことすらできなかった。
見えない攻撃。
距離を無視する魔法。
思考しただけで発生する破壊。
まるで攻略法など存在しないように思えた。
けれど。
今は違う。
彼女の魔法には、条件がある。
彼女には、一度に一つしか現象を起こせない。
そして、魔力の伝達が遅れ始めている。
何より。
4人はようやく理解した。
初代魔法少女の魔法に対抗するのに必要なのは、
より強い魔法でも。
より硬い装甲でも。
より速い攻撃でもない。
彼女に「見る時間」を与えないこと。
4人は互いに視線を交わした。
初代魔法少女は、そんな4人を見ている。
そして、その懐かしい魔女っ子の姿のまま、静かに構えた。
「それなら……」
彼女もまた、一歩前へ出る。
「次は、私の番ね」
広大な空間に、再び緊張が走った。
忘れられた初代魔法少女と。
まだ未来へ進もうとする4人の魔法少女。
魔法少女とは何なのか。
その答えを巡る戦いは、まだ終わっていなかった
