第34章 戦わない日 | 光と闇を 抱きしめたまま

光と闇を 抱きしめたまま

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空を覆っていた巨大な蜘蛛の巣。

その上を移動していた、巨大な一つ目の建造物。

メメントモリ。

その巨体を、エクリアの放った超特大の光刃が切り裂いていた。

「――終わらせる!」

エクリアは両手を下へ向ける。

腰に装着したアクティアビットが、空中にいる彼女の姿勢を支える。

そして。

巨大な光刃が、さらに下へと振り下ろされた。

ズバァァァァン!!

メメントモリの内部で爆発が連続して起こる。

外装が崩れ、内部の構造が次々と破壊されていく。

それでも、メメントモリは最後の抵抗を見せた。

巨大な一つ目が、再び光を放つ。

「まだ撃てるの!?」

エクリアが目を見開く。

次の瞬間。

ズドォォォォン!!

最後のビームが、真下へ向かって発射された。

その先にあるのは、崩壊した市役所。

そして、その瓦礫の中には、一人の少女が立っていた。

古い時代の魔法少女。

現在の魔法少女たちとは違う。

装飾も少なく、どこか素朴な姿。

まるで、かつて「魔女っ子」と呼ばれていた時代から、そのまま現れたような姿だった。

巨大なビームが少女へ迫る。

しかし少女は逃げなかった。

ただ、空を見上げる。

そして。

右手を軽く上げた。

指を、ひと振り。

すると――

スッ。

巨大なビームが消えた。

爆発もない。

衝撃もない。

ただ、そこに存在していた光だけが、最初からなかったかのように消滅した。

少女は何事もなかったように手を下ろした。

その直後。

「これで……!」

エクリアが光刃を振り下ろす。

ズバァァァァァン!!

メメントモリの巨体が、完全に切り裂かれた。

巨大な一つ目が砕ける。

内部から光が漏れ出し、次々と爆発が起こる。

そして――

ドォォォォォン!!

メメントモリは、完全に沈黙した。

その余波は空へ広がっていく。

メメントモリが移動していた巨大な蜘蛛の巣にも亀裂が走った。

パキ……。

パキパキパキ……。

空を覆っていた蜘蛛の巣が、次々と崩れていく。

光っていた道も消えていく。

巨大な構造物は、光の粒となって空から消えていった。

 

「……終わった?」

アクティアは、瓦礫の向こうを見つめる。

すでに彼女のアクティアビットは、ほとんど魔力を使い果たしていた。

ルミナも、荒い息をつきながら空を見上げる。

エクリアは、しばらく何も言わなかった。

そして。

「……うん」

小さく頷いた。

メメントモリは、もう動かない。

二本の死界脚も破壊された。

空の蜘蛛の巣も消えた。

長かった戦いが、ようやく終わった。

3人は大声で勝利を叫ぶこともしなかった。

ただ、静かに息を吐いた。

それだけだった。

「……生きてるね」

ルミナが呟く。

アクティアが笑う。

「うん」

エクリアも小さく頷いた。

その表情には、勝利の喜びよりも――

安堵があった。

 

数日後

街では、少しずつ復旧が始まっていた。

崩壊した市役所の跡地では、瓦礫の撤去が進められている。

再建工事の計画も異例の速さで進み、入札が行われると、すぐに工事が始まった。

大型の重機が動く。

新しい資材が運び込まれる。

柱が組み上げられていく。

その工事現場を、少し離れた建物の影から眺めている少女がいた。

古き魔法少女。

彼女は、誰にも気づかれないように立っていた。

作業員たちは一生懸命に働いている。

しかし、工事はまだ始まったばかり。

少女は少しだけ考えると、

指を振った。

すると。

クレーンの動きが、ほんの少しだけ速くなる。

資材の運搬も。

柱を組み上げる作業も。

工事全体の進み方が、少しずつ早くなっていく。

少女は静かに眺めていた。

「……これくらいなら」

誰にも聞こえない声で呟く。

「きっと、いいでしょう」

そして、もう一度だけ指を振った。

街の復旧が、少しだけ早くなった。

 

古き魔法少女

その後。

アクティア、ルミナ、エクリアの3人は、古き魔法少女と話をしていた。

見た目だけなら、3人よりも年下にすら見える。

だからこそ、3人は少し不思議な気持ちになっていた。

そんな少女が、静かに口を開く。

「魔法少女とは――」

3人が少女を見る。

「誰かを幸せにすることを、自分の意思で選ぶことのできる人」

「……」

誰も、すぐには答えなかった。

アクティアは、これまでのことを思い返す。

怪人と戦った。

誰かを助けた。

母親を失った。

それでも、また魔法少女として立ち上がった。

ルミナも思い出していた。

妹のこと。

そして、何度も戦いながら、自分自身で誰かを助けることを選んできたこと。

エクリアは、セレナとミレイを思い出していた。

かつては敵だった。

それでも守りたいと思った。

そして今も、二人のことを忘れてはいない。

「……自分の意思で、選ぶ」

アクティアが呟く。

古き魔法少女は頷いた。

「そうです」

それだけだった。

けれど。

年下に見える少女から告げられた言葉は、

3人の胸に妙な説得力を持って残った。

 

戦わない日

施設へ戻った4人は、それぞれの部屋で休んでいた。

その日は、不思議なほど静かだった。

戦闘はない。

警報もない。

怪人も現れない。

誰かに呼び出されることもない。

ルミナはベッドに横になり、天井を見つめていた。

ふと、幼い頃の妹を思い出す。

交通事故で失った、大切な妹。

「……元気だったら、今ごろ何してたかな」

答えは返ってこない。

それでも、ルミナは目を閉じた。

アクティアは、自分の部屋で静かにしていた。

思い浮かぶのは、ママのこと。

魔法少女になる前。

まだ何も知らなかった頃。

母親と過ごした日々。

「……ママ」

小さく名前を呼ぶ。

エクリアもまた、ベッドの上で目を閉じていた。

思い出すのは、

セレナ。

ミレイ。

一緒にいた時間。

失ってしまった仲間。

「……」

言葉にはしない。

ただ、二人のことを思い出していた。

そして助手も。

自分の部屋でスマートフォンを手にしていた。

出張で忙しく、なかなか連絡が取れない彼。

連絡先を眺める。

「……元気かな」

そう呟いて、スマートフォンを伏せた。

4人はそれぞれ、

それぞれの大切な人を思い出していた。

 

 

魔法少女になってから。

彼女たちには、

戦わない日など、ほとんどなかった。

怪人と戦い。

ネガティアと戦い。

捕らわれ。

逃げ出し。

また戦った。

そして最後には、

宇宙規模の必殺技博覧会にまで辿り着いた。

戦うこと。

魔法を使うこと。

誰かを守ること。

それが彼女たちの日常だった。

けれど。

今日だけは違う。

今日は、

傷を癒すための日ではない。

魔力を回復させるための日でもない。

次の戦いに備えるための休息でもない。

ただ――

安心して休める日だった。

何もしなくていい。

誰かを守るために走らなくてもいい。

魔法を使わなくてもいい。

ただ、自分の時間を過ごせばいい。

4人は、それぞれの部屋で静かに過ごしていた。

そんな時間を、

彼女たちは今まで知らなかった。

 

 

同じ頃。

ネガティア基地。

静かな部屋に、ネレイドが立っていた。

その前には、

3本の杖。

ネレイドは、しばらくそれを眺めていた。

そして手を伸ばす。

3本の杖を、ゆっくりと引き下げる。

その瞬間。

わずかな脱力感がネレイドを襲った。

「……」

それでも、ネレイドは杖を手放さない。

3本をしっかりと手にする。

そして、静かに歩き出す。

向かう先は、

アクティアたちのいる場所。

これまでの戦い。

ネガティア。

魔法少女たち。

そして、メメントモリ。

すべての決着が近づいている。

ネレイドは振り返らない。

ただ、

最後の戦いへ向かって歩いていく。

その頃、4人はまだ知らなかった。

戦わないことを知った、その静かな一日の先に――

最後の戦いが待っていることを。