第1章 はじめて魔法少女になった日 | 光と闇を 抱きしめたまま

光と闇を 抱きしめたまま

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「ねえ、お父さん」

「ん?」

「魔法少女って、本当にいるの?」

夕食の片付けを終えた母が、台所からこちらを振り返った。

父はテレビの前に座り、少しだけ考えるような顔をする。

「いるよ」

「……即答なんだ」

「だって、テレビでやってるじゃないか」

「そういう意味じゃないってば」

私は頬を膨らませた。

テレビの中では、今日も魔法少女が怪人と戦っている。

キラキラした光。

大きな魔法。

最後には必殺技で怪人を倒して、街には平和が戻る。

いつもの番組。

いつもの物語。

だけど私は、ずっと気になっていた。

本当に、あんな力を持った女の子がいるのだろうか。

「アクティア」

母が笑いながら言った。

「魔法少女になりたいの?」

「……ちょっとだけ」

「ちょっとだけ?」

「いっぱい」

「ふふっ」

母は楽しそうに笑った。

父もテレビを見ながら笑っている。

その時の私は知らなかった。

この何気ない会話が、私の人生を変えることになるなんて。


数日後。

私は父の研究室にいた。

父は昔から、魔法少女について研究していた。

理由はよく分からない。

本人に聞いても、

「好きだからだよ」

としか言わない。

けれど、研究室には魔法少女に関する資料が山のようにあった。

古い写真。

新聞記事。

映像データ。

そして、見たことのない装置。

「お父さん、これ何?」

「それは魔力測定器」

「魔力?」

「そう」

父は機械を操作した。

小さな画面に数字が表示される。

「魔法少女の力は、普通の人間とは少し違うんだ」

「じゃあ、私にもある?」

「調べてみるか?」

「うん!」

私は椅子に座った。

父が装置を起動する。

光が私の身体を包んだ。

機械の画面に、次々と数字が表示される。

父の表情が変わった。

「……これは」

「どうしたの?」

「いや……」

父はしばらく画面を見つめていた。

そして、静かに笑った。

「アクティア」

「うん」

「もしかすると、お前には魔法少女の素質があるのかもしれない」

その言葉を聞いた瞬間。

私の胸が、大きく跳ねた。


その日の夜。

私は眠れなかった。

魔法少女。

テレビの中だけの存在だと思っていた。

それが。

自分にもなれるかもしれない。

布団の中で、私は何度も想像した。

空を飛ぶ。

怪人と戦う。

誰かを助ける。

そして。

「変身!」

言ってみた。

何も起こらない。

「……だよね」

私は布団に顔を埋めた。

すると。

部屋の外から母の声が聞こえた。

「アクティア、まだ起きてるの?」

「……起きてない!」

「起きてるじゃない」

扉が開く。

母が笑いながら入ってきた。

「眠れないの?」

「うん」

「魔法少女のこと?」

私は黙ってしまった。

母は私の隣に座る。

そして、頭を優しく撫でた。

「なれるといいね」

「……うん」

「でもね」

母は少しだけ真剣な顔になった。

「魔法少女になることより、大切なこともあるんだよ」

「なに?」

「自分がどう生きたいか」

その言葉の意味は、その時の私にはよく分からなかった。

ただ。

母の笑顔だけは、なぜか心に残った。


そして、その日は突然やってきた。

父に呼ばれて研究室へ行く。

そこには、見たことのない装置が用意されていた。

中央に立つ。

足元に光の円が広がる。

「怖くない?」

父が聞いた。

「ちょっとだけ」

「やめてもいいんだぞ」

「……やる」

私は拳を握った。

「私、魔法少女になってみたい」

父は頷いた。

装置が起動する。

光が強くなる。

身体の奥から、何かが目を覚ます。

温かい。

でも、ただ温かいだけじゃない。

身体の中を走る光が、指先へ。

腕へ。

胸へ。

そして全身へ広がっていく。

「なに……これ……」

光が弾けた。

一瞬。

世界が真っ白になる。

そして。

光の中から、何かが生まれた。

胸元に輝く装飾。

額には小さなティアラ。

身体を包む衣装。

フリルが重なり、長い手袋が腕を覆う。

足元には長いブーツ。

そして背中には。

薄く透き通ったピンク色のマント。

それは普通のマントではなかった。

光を受けると、左右へ大きく広がる。

まるで。

翼。

私は自分の身体を見下ろした。

「……これが」

声が震えた。

「私?」

父は言葉を失っていた。

その時。

研究室の扉が開いた。

母だった。

「アクティア……」

私は振り返る。

母は驚いた顔をしていた。

でも。

すぐに笑った。

「似合ってるよ」

その一言で。

胸の奥がいっぱいになった。

「……本当に?」

「うん」

私は笑った。

初めて。

自分の力で、何かを変えた。


父が一振りの剣を差し出した。

細身の剣。

レイピアだった。

「これも使ってみるか?」

私は受け取る。

すると、レイピアの柄に埋め込まれた宝石が輝いた。

光が刃へ集まっていく。

「わあ……」

細い刀身が、淡い光をまとった。

「魔法で作られた武器だ」

父が説明する。

「アクティア専用に調整してある」

私はレイピアを構えた。

鏡を見る。

そこに映っていたのは。

いつもの私ではない。

魔法少女。

テレビの中でしか見たことがなかった存在。

それが。

今は鏡の中にいる。

私は少しだけ胸を張った。

「……私、魔法少女なんだ」

母が笑う。

「そうだね」

「じゃあ、空も飛べる?」

「試してみる?」

父がそう言った。

私はマントを広げた。

「えいっ!」

身体が浮いた。

「え?」

足が床から離れる。

ほんの少し。

そして。

ふわっ。

身体が上昇した。

「飛んだ!」

私は思わず叫んだ。

研究室の天井近くまで浮かび上がる。

母が笑っている。

父も笑っている。

私は嬉しくて。

何度も空中をくるくる回った。

マントが大きく広がる。

その形は、ますます翼に近づいていく。

光がきらめく。

私は笑った。

この時の私は。

世界がずっと、このままだと思っていた。

父がいて。

母がいて。

笑っていられて。

魔法少女になった私は。

これから誰かを助けて。

怪人を倒して。

きっと、ずっと楽しい毎日が続く。

そう思っていた。


その日の夜。

窓を開ける。

夜空には星が見えていた。

私は変身した姿のまま、空を飛んだ。

まだ高くは飛べない。

少し進んでは降りる。

また飛んでは、ふらつく。

それでも楽しかった。

「見て、お母さん!」

地上から母が手を振っている。

「無理しちゃダメよ!」

「大丈夫!」

父も窓からこちらを見ていた。

「アクティア!」

「なに?」

「明日から、もっと練習するぞ!」

「うん!」

私は空中でレイピアを掲げた。

「私、頑張る!」

その瞬間。

夜風が吹いた。

薄いピンク色のマントが大きく広がる。

光を受けたそれは。

まるで本物の翼のようだった。

私は空を見上げる。

そして笑った。

この世界には。

まだ私の知らないものが、たくさんある。

怪人も。

魔法も。

魔法少女も。

そして。

これから始まる、私自身の物語も。

この時の私は。

まだ何も知らなかった。

ただ。

魔法少女になれたことが。

嬉しかった。

それだけだった。