つぼみの咲く頃 最終回 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

「つぼみの咲く頃」1話から読む方はこちらから

「えっ。同じって?!」

 矢島君の言葉に再び、喉がカラカラに渇きそうになる。渋みの残った紅茶を含みながらも、目線は矢島君から離すことが出来ず、冷めた紅茶が沸騰するのではないかというくらい、顔が熱くなっていた。

「俺も、柴田が好きだ。」

 真っ直ぐな彼の目線が、胸の奥に突き刺さる。あの時と変わらない、純粋で優しい瞳だ。
心なしか頬が赤くなっている矢島君だったけど、私は言われた事が信じられなくって、
「ホントに?」
と確認してしまった。矢島君は紅茶を飲もうとしたけれど、空になってたらしくそのままカップを戻して、
「ホントに。」
って笑った。あまりに衝撃的な事だったから私も紅茶を飲もうとしたら私のカップも空だった。
「こ、紅茶、空になっちゃったね。今、入れ直すから。」
キッチンで新しい紅茶を入れた。その時矢島君は私を抱きしめて、
「柴田の足が治ったらデートしようか。」
私は思わず振り返ったけど目の前には矢島君の顔があった。そして私達は自然にキスをしていた。
その時、タイミング悪くお母さんが帰ってきた。私達は慌てて離れたけどお母さんは何かあったと感じたらしく、口元に手をやりながら、
「あら、お母さん早く帰ってきちゃったかしら。」
なんて笑ってた。私と矢島君はきっと顔が真っ赤になってたに違いない。
2人してテーブルに戻ると、
「でも、矢島君大学が忙しいんでしょ?デートとか出来る?」
「時間なんて待つものじゃなくて作るんだよ。」
その時の矢島君の笑顔はちょっと意地悪な感じがしたけど、底意地悪い笑い方ではなく、何かいたずらをしようと考えてる子供の様な笑顔だった。
あっ、この事歩美に報告しなきゃ。

  その日の夜、私はお風呂に浸かりながら、この二日間のことについて考えていた。初めは決して乗り気では無かった故郷・君津への旅。まさか、あの案内状がこ んな展開を作り出すきっかけになるなんて思いもしなかった。もしあの時、『欠席』にマルを付けて返信していたら、きっとこの瞬間も人生に味気なさを感じて いたに違いない。

「ふう……。」

 心地良い疲れから来る溜息を吐きながら浴室から出ると、洗面所の棚に置いていた携帯電話に目を向ける。チカチカと受信を知らせるライトを確認すると、メッセージを開いた。

『今日はありがとう。ちゃんと、家に着いたかな? 矢島君とはどう? またいろいろ、聞かせてね』

 歩美からだ。私は身体にタオルを巻くと、口元の笑みを零したまま、メッセージを返す。

『こちらこそありがとう。矢島君とは、付き合うことになりました』

 あえて、シンプルなメッセージを作成したのだが、このメッセージを見た歩美は今頃、「うっそー!」と声を上げているかもしれない。歩美もこの先、素敵な人と一緒になれるだろうか――

 と、その時。携帯電話が再び、メッセージ受信を知らせた。差出人は、矢島君だ。

『今日はありがとう。足の具合はどうかな? 今度、一緒に映画に行きたいと思って……
それと今から、秋穂って呼んでもいいかな?』

 最後の一文に、思わず胸が高鳴る。柴田から秋穂に変わるのは、何だか特別な感じがして嬉しくなった。そして私は笑顔のまま、初恋の相手である彼にメッセージを送る。

『うん、もちろん』