My Dear 69話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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こう言ったら悪いけど今日は神木さんが休みで仕事がスムーズに進んだ

仕事も定時に終わり、いつもの様に甘いコーヒーを飲んでから帰宅する事にした

今日の夕飯用の食材をスーパーで買って自宅に戻ろうとしていたら

後ろからコツコツと男の人の足音が聞こえてきた

最初は帰り道が同じなんだろうと思っていたけど、いつまで経ってもついてくる

私は何度も振り返り男性の方を見た。黒のジャンパーに黒いジーパン

サングラスにマスク。そんな恰好をしている男性に私は恐怖を感じてしまった

私の歩調も速くなる。それでも男性は同じ距離を保ったまま私の後をついてくる

角を曲がった所にカフェがあったから私はその店に逃げ込んだ

震える手で賢治に電話する

「あっ、賢治?今いい?」

「ちょっとだけなら大丈夫。何かあったのか?」

賢治の声を聞いただけで涙が零れそうになる

「今、仕事の帰り道なんだけど、知らない男の人につけられてるみたいなの。」

電話先で賢治が息をのむのが分かる。

「今どこだ?」

「近所のカフェ。」

「まだその男がいるのか?」

私は窓際に座っていたから外をさりげなく見た。その男の人はまだ電信柱の影に

立っていて私の様子をうかがっている。

「まだいるみたい。どうしよう。」

その時ウェイトレスの人が注文を取りに来た

「冷たい水とアイスカフェモカをお願いします。」

早口で注文すると再び賢治と話しを始めた。だけど恐怖で喉はカラカラだった。

その間にも男性は私の方を見ている。賢治に迎えに来てもらおうかと思ったけど

さっき『少しだけなら大丈夫』って言ってた。って事はまだ仕事中って事だ。

賢治に迎えに来てもらうのは諦めてどうやったら安心して帰宅できるか考えた。

賢治も申し訳なさそうに、

「あと30分で本番なんだ。迎えに行きたいけど行けない。」

二人の間に嫌な沈黙が流れるなか賢治がアイディアを言ってくれた

「110番に電話して迎えに来てもらえよ。」

「だけど何も起こってないのよ。警察が動いてくれるかしら。」

「現につけられてるんだろ。警察も動くよ。俺も仕事が終わったら奈々子ん家に行くから

とにかく警察に相談してみる価値はあると思うよ。」

賢治の言う事も一理ある。

「わかった。警察に電話してみるね。賢治、今日来てくれるんでしょ?

私、鍵して待ってるから。インターフォンが鳴っただけじゃ出ないから合鍵で入ってきて」

「オッケー。気を付けて帰れよ。」

「う、うん。」

電話を切るとさっき注文した水とアイスカフェモカが運ばれてきた。

まだ少し震える手でシガレットケースを出して自分を落ち着かせる為に1本煙草を出した

水を飲み干してしまってから携帯から110番に電話をする。

「緊急ですか?事故ですか?」

はっきりした口調の女性に、

「駅からついてきてる男性がいるんです。今、近所のカフェに逃げ込みましたけど

まだ外にいます。怖いので警察の方に送って頂く事は出来ますか?」

「わかりました。住所はわかりますか?」

私は自宅のある住所を言って、

「その近くに、えっと…。」

カフェの名前を探した。ナプキンにカフェの名前が書いてあってその事を伝えた。

「すぐに警官が向かいます。いいですか?絶対にそこを動かないで下さいね。」

「は、はい。」

警察の人との会話で喉がまたカラカラになってしまいアイスカフェモカを

一気に飲み干した。それでも口の中はカラカラで私の横をすり抜けて行こうとした

ウェイトレスさんに、

「すみません。アイスカフェモカのLサイズってありますか?」

「ございますよ。」

「じゃぁそれを1つ。」

アイスカフェモカを追加してそれを飲んでるとまだあの男性は電柱の影に立っていた

警察の人が来てくれるまでがものすごく長く感じた。