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午後9時過ぎ。ようやく今日の私の仕事は終わった。
「終わった~。」
私は頭をデスクに乗せると脱力してしまった。思いのほか菅野さんが残していった
仕事が正直いってはかどらなかったからこんな時間になってしまった。
周りを見るとまだ会社にはポツリポツリと残っていた。
パソコンを落として、帰る前にコーヒーを入れる。たっぷりのお砂糖とミルクを入れて
甘いコーヒーを飲むのが私の就業時間の合図だ。
「さて、帰りますか。」
いつもより多く仕事をしたからつかれた足で地下鉄の入り口に向かう。
地下鉄の中は空いていたけれど、一旦座ってしまうと眠ってしまって
寝過ごしてしまったら困るから私は4つ先の自宅マンションがある駅まで立って帰った。
自宅に戻ると部屋に明かりがついていた。そう言えば賢治が来るって言ってたっけ。
「ただ~いま。」
賢治は呑気にビール片手にテレビを見ていた。
「おかえり~。随分、遅かったんだな。」
「一応、主任っていう肩書もらってるからね。それなりに仕事がたまるのよ。」
「ふ~ん。ね、俺飯食わないで奈々子の事待ってたんだけど、
今からこないだ行った店行かない?」
『こないだ行った店』?
あ、玄関に看板もないあの店か。でもあそこって高そうだしなぁ。
毎回、賢治にご馳走になるのもなんだしなぁ。
「いいよ。疲れてるから今から出かけるのも嫌だし。なんか簡単に作る。」
寝室でスーツから部屋着に着替えてキッチンにかけてあるエプロンをする。
冷蔵庫の中にはある程度の食材は残ってたからよかった。
簡単に料理を2.3品作ってテーブルに並べてエプロンを外した。
料理している私の姿を黙って見ていた賢治は、テーブルに並んだ料理を見て、
「すげ~。菜々子ってこんなに料理出来てるんだ。」
私が何かを言おうとした時にはすでに料理を口に運んでいた。
「今日は車で来たの?」
私も箸を取って料理を口に運びながら、どういう経由でここに来たか聞いてみた。
「うんにゃ。地下鉄で来た。」
「誰にも気づかれない様に来たの?」
「サングラスにマスクだろ?そしてキャップしてきたから大丈夫。」
指折り変装に使った道具の事を教えてくれながら器用に肉じゃがを口に運んでいた。
なんだか賢治って呑気過ぎる様な気がする。それとも私が考え過ぎなのかなぁ。