「小料理屋 桜」を最初から読まれる方はこちらから
大森は豆腐を御かわりすると、
「ねぇ、俺もここの豆腐を家で食いたいから住所とか教えてくれる?」
「いいですよ。私からの紹介って書くと卸してくれるかもしれませんね。」
そう言って達筆な字でメモに住所と電話番号を書いて大森に渡した。
「いや~、ホントこの豆腐旨いよ。」
酒と豆腐だけで酒が進むのはまれかもしれない。
「じゃ、今日はこれで帰るよ。」
「もうですか?」
「家で堺君が待ってるだろ。まだまだ新婚なんだから楽しみなよ。」
大森は11時で帰ってしまった。
これ以上待っても客が来ないと判断し、少し早いが今日ののれんは降ろす事にした。
家に帰ると煙草を口にしながら、何枚かの絵を見ている雄二がいた。
「今日は早かったんだな。」
「うん、大森さんが来てくれたんだけど、新婚だからあなたとの時間を大切にしろって
早々に帰っちゃったわ。」
「そんな気を使ってもらえる様な歳の新婚じゃないんだけどな。
あっ、ふろふき大根持ってきてくれた?」
桜子は重箱を見せると、
「持って帰って来たわよ。あと大森さんが美味しいって言って下さったお豆腐も持ってきた。」
「桜子も飯まだなんだろ。たまには二人で食おうぜ。」
「うん、その前に着物から着替えてくる。」
リビングの隣にある部屋で桜子はジーンズに着替えた。
一瞬、衿も変えようかと思ったがそれは食事が終わってかでもいいだろう。
着替え終わった桜子はリビングに行き、
「これじゃ足りないわね。何か軽い物作るから。」
そう言ってキッチンに消えていった。
桜子の家には包丁の音しかしなかった。
そこへ雄二が桜子に声を掛けた。
「桜子。大事な話があるんだけど。」
「なぁに?」
キッチンから返事をしたが、
「大事な話だから顔を見ながら話したいんだ。」
エプロン姿の桜子は手をエプロンで拭きながらリビングに来た。
「さっき内山君から電話があったんだけど、すぐデンマークに行くらしいんだ。
それに僕もついて行こうと思って。」
「なんでデンマークなの?」
その質問に雄二は笑いながら、
「ムーミンがいる街が観たいんだってさ。内山君らしいよな。」