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内山が帰ってくる間に雄二のギャラリーでは美大の学生の個展と
著名な画家の個展が開かれた。
その画家の個展が開かれたことによって雄二のギャラリーも雑誌に取り上げられることが増え、
雄二のギャラリーで個展を開きたいと申し出る者が増えてきた。
朝食を食べている時に、
「最近、雄二さん。忙しいのね。良かったわ。ギャラリーが盛り上がって。」
「次のギャラリーも目を付けてる所があるんだ。もしかしたら今日、契約してくるかもしれない。」
「そうなの?今度はどこ?」
「今のところからそんなに離れていないよ。ちょっと規模が大きくなったけど。」
雄二が食後のコーヒーを飲みながら嬉し気に話した。
「それと、明日に内山君が帰ってくるんだ。空港に迎えに行くけど桜子も来る?」
食器を洗いながら、桜子は振り向いて、
「行くわ。また内山さんがどんな絵を描いてきたのかも楽しみだし。スケッチブックは手荷物に
してくれてるかしら。早く絵を観たいから。」
「1冊位は持ってるんじゃないかな。きっと内山君も喜ぶよ。桜子が迎えに行ったら。
じゃ、俺早いけどもう出るから。次の個展の打ち合わせがあるんだ。」
「行ってらっしゃい。今日は何をつまみで作ってきて欲しい?」
玄関で靴を履きはながら雄二はしばらく考えて、
「じゃぁふろふき大根かな。」
「わかった。今日も私、お店で遅くなるから。」
桜子が店を開くと一番に来たのは大森だった。
「こんばんわ。もういいかい?」
「いらっしゃいませ。どうぞ。今日は早いですね。」
「うん。いつもだったらすぐにOKをくれないクライアントがあっさりOKをくれたんだ。
今回の仕事は順調に進みそうだよ。
そう言えば堺君との生活は慣れたかい?」
桜子は雄二のリクエストでもあったふろふき大根をつまみに出すと、微笑みながら、
「えぇ。最初は昼と夜の生活ですれ違いになるかなって不安はありましたけど
結構二人の時間は取れてます。彼も夜遅くまで仕事をしてるから。」
「そりゃ良かった。そこらへんが心配だったんだけど心配いらないな。
あ、今日はひやおろしある?クライアントも酒好きでその話になったんだよ。
そしたら急に飲みたくなってさ。」
ひやおろしと言えば秋の日本酒として有名な酒になる。
桜子は客からのそんなリクエストがあるだろうと思って多めに用意していた。
「ございますよ。冷やになさいますか?熱燗になさいますか?」
「じゃぁ冷やで。あと冷奴もお願い出来る?」
「はい。」
冷奴と言えば豆腐を出すだけで済むのだが美由紀の代から世話になっている
豆腐屋から豆腐は仕入れていた。スーパーで買うより高価になるが
大豆の甘みがある豆腐だったので仕入先を変えるつもりはなかった。