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二人して高城教授の教授室に行くと教授は何かしら書いている様で背中を見せていた。
「高城教授。」
桜子の声で振り向くと笑顔になり顔のしみわたっている皺がさらに増した。
「堺君に松嶋君じゃないか。久しぶりだな。」
「お久しぶりです。元気そうで良かったです。」
教授は二人の為に椅子を勧めた。
「コーヒーでも入れるかね。まぁインスタントだがな。」
コーヒーを淹れている教授の背に向かい、
「これ、私のお店の近所のお菓子です。良かったら食べて下さい。」
「悪いな。だが今、糖尿病で菓子類は食べられんのだよ。これは生徒たちに渡そう。」
「…。糖尿病なんですか?」
「この歳になると病気の一つや二つあるもんだよ。」
コーヒーを受け取りながら桜子が心配そうに尋ねたが何の問題もない様に答えた。
「二人で来たって事はまだ二人は付き合ってるのかい?」
「先日、婚姻届を出しました。」
その言葉に笑顔が大きくなり、
「そうか、そうか。それはおめでとう。でも君達が大学で付き合ってた頃からそうなるんじゃないかと
思ってはいたよ。」
「それで教授には報告しとこうと思って今日は伺いました。」
「嬉しいねぇ。こうやって教え子が結婚までするなんて。
そう言えば、尾山君と鈴木君も結婚の報告にこないだ来たな。
こうやって来てくれるのは本当に嬉しい事だ。」
「尾山君と鈴木さんも結婚したんですか?」
「会社が同じだったからね。付き合いも長いから居心地が良かったんだろう。」
高城教授と昔話をしていると1人の男性の学生が入ってきた。
「失礼します。あっ、お客様でしたか。また改めて伺います。」
「構わん、どうした。」
「こないだのレポートなんですが分からない所があって…。」
少し興味深げにだが遠慮がちにその学生は桜子達を見ていた。
「どれ。うん、うん。じゃぁこの本を貸すからこれを参考しなさい。
それとこの二人は君の先輩なんだよ。結婚したから報告に来てくれたんだ。
君も坂本君を大事にしなきゃいかんぞ。」
若い学生にとって今は結婚の事より就職の事の方が大事なのに
桜子達が来てくれたのが嬉しかったのだろう。
桜子達の事まで紹介していた。