小料理屋 桜 80話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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いつまで経っても帰ろうとしない康之に雄二が歩み寄った。

「ここは俺達の再出発の場なんだ。帰ってくれ。」

「なぁにが再出発だよ、俺から桜子を奪っておいて。」

康之は雄二の胸倉をつかんで殴ろうとしたが、それを止めたのは大森だった。

「ここは君がいる場所じゃない。それに先に桜ちゃんを捨てたのは君だろう。

言っている事がお門違いだ。」

「ふん。覚えとけよ。桜子は俺のもんなんだ。それにこれから最高の招待客も来るしな。」

そう言ってようやく店から出て行った。

桜子は不安気に、

「これから来る最高の招待客って誰でしょう。」

「あいつが言ってるんだ。ろくでもない奴に決まってる。」

康之が帰ってから白けた雰囲気になってしまったが、美由紀が手を叩いて、

「さぁさぁ。あんな人の言う事なんて忘れて桜子達を祝ってあげましょうよ。」

その一言で白けた雰囲気も徐々に明るくなってきた。

結婚報告会も終盤にかかった頃、一人の客が入ってきた。

それもこの場にふさわしくない人物。その人物は桜子の母親だった。

「皆盛り上がってるじゃない。娘の再婚のお祝いだもの。私も参加してもいいかしら。

あ、美由紀。私に白鴎天を冷やでくれるかしら。」

ずうずうしく酒まで注文したが、美由紀の反応は冷たかった。

「あなただったのね。康之さんが言ってた最高の招待客って。

どこが最高なのよ。あなたに出すお酒はないわ。帰って。」

「義姉さんも冷たくなったわね。娘の結婚式位出てもいいじゃない。」

桜子の母は美由紀にそう言ったが、反論したのは桜子だった。

「母さん。私、もう母さんの事お母さんって思えないの。お父さんが亡くなった時そう思った。

だからせっかくのお祝いの場にも来て欲しくない。だから帰って。」

桜子の母は眉間に皺を寄せると真っ赤なハイヒールの靴をカウンター席に蹴りつけて

だまって帰っていった。

大森は、

「やれやれ。せっかくのお祝いの場に余計な人が来たな。でも僕達は君達を祝福しているんだから

気にする事はないよ。」

そう言われても桜子の心は晴れなかった。

「桜子、大森さんの言う通りよ。邪魔な客は来たけれどこれから堺君と幸せになりなさい。」

「はい。」

「堺君も桜子の事頼みますよ。」

「もちろんです。絶対に桜子を泣かせる様な事はしません。」