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報告会も終盤にかかり、雄二と桜子の婚姻届の証人欄に招待客から書く時間になった。
「親族関係からは私ね。招待客さんからは桜と一番付き合いが長い大森さんに頼んでもいいかしら。」
美由紀がハンドバックから婚姻届を出しながら誰が証人欄に書くかを提案してきた。
村木達もその提案に賛成して最初に桜子と雄二が自分達の書く欄に書き、それを
美由紀に渡した。
「じゃぁ、叔母様、大森さんお願いします。」
証人欄に最初に書いたのは美由紀だった。その表情はどこかしら誇らしげだった。
大森が書こうとしたら勢いよく店の扉が開き桜子の母がまたもや入ってきた。
婚姻届を見るとツカツカとそれに歩み寄り大森から奪い取ると、思いっきり破ってしまった。
「母さん!なんてことするの!」
「母親jが認めない結婚だもの。この結婚は無効だわ。」
その母親に思いっきり平手打ちをしたのは美由紀だった。
「何が『母親』よ。桜が中学生の頃から母親らしい事なんて何一つしてないのに。
あなたこそ、そんな事言う資格はないわ。もう二度と桜の前に現れない事ね。」
そう言ってカウンターにあった冷や酒を投げかけた。
顔中に冷や酒をかぶった形になった母親だったが美由紀の言葉には無言だった。
母親はそのまま濡れたまま黙って店を出て行ってしまった。
その後ろ姿があまりにも哀れだったので、
「叔母様、お酒をかけるまでしなくてもよかったんじゃない?
婚姻届は予備でもう1枚取ってきてたんだから。」
「桜は甘いのよ。あの人にはあの位しないとわからないんだから。」
美由紀のきつい表情と言葉使いに桜子は何も言えなくなってしまった。
その暗い雰囲気を明るくしてくれたのが大森だった。
「さぁさぁ。婚姻届の予備もある事だし最初から仕切り直しだ。皆もそんなに暗くならないで。
桜ちゃん達の門出なんだから。」
こうして雄二と桜子は正式に夫婦になった。
色々あった結婚報告会になってしまったが、終わり良ければ総て良しと言う大森の言葉で
皆も少しは明るい気分で自宅へ帰っていった。